海外

「新型コロナから5年」中国のワクチン外交を振り返る

新型コロナウイルスの始まりから5年が経つが、コロナ発祥国として欧米諸国の対中認識が厳しくなる中、中国はワクチン外交を活発化させた。

例えば、中国の王毅外相は2021年1月、ブルネイとミャンマー、インドネシアとフィリピンの4カ国を歴訪し、中国国営製薬会社シノファームのワクチンを無償支援することなどを約束した。

また、1月中旬には、東欧セルビアの首都ベオグラードにシノファームのワクチン100万回分が到着し、同国のブチッチ大統領が、中国からの要人がいないにも関わらず空港でワクチンを出迎える姿があり、アフリカのセーシェルでも1月中旬から中国製ワクチンの接種が開始された。

他にも、インドネシア、シンガポール、カンボジア、タイ、フィリピン、ベトナム、マレーシア、ミャンマー、ラオス、UAE、エジプト、トルコ、バーレーン、ヨルダン、セルビア、ハンガリー、チリ、ブラジルが、中国製ワクチンの承認、確保、接種を開始した。

中国によるワクチン外交

画像 : 新型コロナワクチン イメージ

これは中国の「ワクチン外交」とも呼ばれるものだが、中国がワクチン外交を強化した背景には、同感染拡大によって各国で高まる対中不信感を払拭させ、自らの影響力を維持・拡大させたい狙いがあった。

習近平国家主席は2020年3月、イタリアのコンテ首相と電話会談した際、「中国はイタリアと共に感染症との戦いにおける国際協力、健康シルクロードの建設のために協力する」との意思を表明するなど、マスク外交やワクチン外交を活発化させることで、対中不信感を払拭し、対外的な影響力を維持・拡大させることを始めた。

ワクチン外交は別名「健康のシルクロード」とも表現されたが、中国が進めるシルクロード構想は、中央アジアを経由する陸路「シルクロード経済ベルト」、インド洋を経由する海路「21世紀海上シルクロード」が基本である。
近年では2018年1月、習政権は北極開拓についての戦略を掲げた「北極白書」を初めて発表し、ロシア側の北極海沿岸を通ってアジアと欧州を結ぶ第3の一帯一路とも言われる「氷上のシルクロード」構想を打ち出した。

北極海航路は、パナマ運河やスエズ運河を通過する航路に比べて大幅なショートカットになり、また、世界で採取されていない石油の13%、天然ガスの30%が眠っているとされ、エネルギー資源がほしい中国としては譲れない権益である。

また、5Gなど次世代デジタル技術において国際的な主導権確保を目指すため、中国は「デジタルシルクロード」構想も表明し、発展途上国のデジタル化で世界をリードしようとしている。

コロナ禍で成功した健康のシルクロード

画像 : 習近平 CC BY 3.0

新型コロナウイルスの感染拡大は、発展途上諸国の経済に大きなダメージを与え、欧米諸国のワクチンと比べ安価な値段で手に入る中国製の製品は、発展途上諸国にとって魅力的なものとなった。

習政権もそういったことを熟知し、コロナ禍の中で世界各国がほしいワクチンで欧米諸国をリードし、これまで以上に中国の影響力を拡大させたい狙いがあった。また、ワクチンには人の命を守るという万民が重視する人道的役割が含まれていることから、健康のシルクロードは発展途上国から強く歓迎されるものとなった。

今日、新型コロナのパンデミックは世界で収束したが、当時は欧米諸国の対中批判が広がったものの、途上国から今日大きな批判がないのは、中国による健康のシルクロードが功を奏した結果と言えるのかも知れない。

文 / エックスレバン 校正 / 草の実堂編集部

アバター

エックスレバン

投稿者の記事一覧

国際社会の現在や歴史について研究し、現地に赴くなどして政治や経済、文化などを調査する。

✅ 草の実堂の記事がデジタルボイスで聴けるようになりました!(随時更新中)

Audible で聴く
Youtube で聴く
Spotify で聴く
Amazon music で聴く

コメント

  1. この記事へのコメントはありません。

  1. この記事へのトラックバックはありません。

関連記事

  1. 【イタリア観光】永遠の愛が生き続けるジュリエットの家
  2. 「世界一出世した軍人」ドワイト・D・アイゼンハワー
  3. 【若者の自殺死亡率上昇】 台湾で始まる「心の休暇」とは
  4. オディロン・ルドン 【幻想を描いた孤高の画家】~花恐怖症とは
  5. 毛沢東とはどんな人物だったのか?② 「生涯歯を磨かなかった、性格…
  6. 【外国人から見ると変わって見える台湾人の5つの癖】 ~質問に「は…
  7. 【マカオの象徴】 聖ポール天主堂跡の歴史的価値と魅力 「4つの構…
  8. 【世界人口削減?】ジョージア・ガイドストーンの謎 「10のメッセ…

カテゴリー

新着記事

おすすめ記事

203高地とは? 「ゴールデンカムイの杉元も戦った日露戦争の激戦地」

不死身の杉元「ゴールデンカムイ」は、野田サトル氏による人気漫画で「和風闇鍋ウェスタン」を標榜して…

堀秀政とは「信長・秀吉に仕えた早世の名武将」

名人と呼ばれた秀政堀秀政(ほりひでまさ)は織田信長、豊臣秀吉に仕えた武将・大名で「名人」…

中国人の結婚率と離婚率 「離婚冷静期とは ~30日以内なら取り消し可能」

中国人にとっての結婚とは中国人の親は自分の子供の結婚に関して、ある意味日本人より強い関心をもって…

【ルイス・フロイスが明かす真実】 なぜ秀吉は朝鮮に出兵したのか? 〜信長の明征服計画

豊臣秀吉の朝鮮出兵は、日本史における最大の謎とされてきました。なぜ秀吉は大陸の中華帝…

アメリカの政府閉鎖に関して調べてみた

2019年1月22日現在、トランプ政権は歴史上最長となる政府閉鎖を受けています。その…

アーカイブ

PAGE TOP