日本産牛肉の中国向け輸出が、2025年に24年ぶりに再開される見通しである。
この動きは、2001年に日本でBSE(牛海綿状脳症、狂牛病)が発生したことを受け、中国が日本産牛肉の輸入を禁止して以来の大きな転換となる。
当時、中国は食品安全を理由に厳格な措置を講じ、日本産牛肉は長らく中国市場から締め出されてきた。
しかし、近年、日本は食品安全基準の強化やトレーサビリティの確立を進め、国際的な信頼を回復。
2023年には中国が日本産牛肉の輸入再開に向けた協議を本格化させ、科学的根拠に基づく安全性の確認を経て、今回の再開に至った。
この再開は、日本にとって経済的に大きな意味を持つ。
中国は世界最大の牛肉消費市場であり、2024年の牛肉輸入量は約270万トンに達する見込みである。
日本産和牛はその品質とブランド力で知られ、富裕層を中心に高い需要が見込まれる。
農林水産省によると、2024年の日本産牛肉の輸出額は約600億円であり、中国市場の開拓により、これがさらに拡大する可能性がある。
トランプ関税と日米貿易摩擦

画像 : 黒毛和牛 wiki c Japanexperterna
再開の背景には、国際政治の複雑な力学が存在する。
特に、2025年に再選を果たしたトランプ米大統領の通商政策が大きな影響を与えている。
トランプ氏は「アメリカ第一」を掲げ、日本を含む同盟国に対しても高関税を課す姿勢を鮮明にしている。
2025年1月に発効した新たな関税政策では、日本からの自動車や農産物に25%以上の関税が課される可能性が浮上。
これにより、日米間の貿易摩擦が深刻化している。
日本産牛肉も例外ではない。米国は世界最大の牛肉輸出国であり、2024年の輸出額は約90億ドルに上る。
米国産牛肉は価格競争力で日本産を圧倒しており、関税引き上げにより日本産牛肉の米国市場での競争力はさらに低下する。
中国がこのタイミングで日本産牛肉の輸入を再開した背景には、こうした日米間の緊張を利用し、両国間に楔を打ち込む狙いがあると指摘される。
中国は日本との経済関係を強化することで、米国への依存を減らしつつ、対米交渉でのカードを増やす戦略を展開している。
中国の戦略と日本の対応
中国の狙いは、単なる牛肉輸入の再開にとどまらない。
地政学的な観点から、日本を米国から引き離し、アジア太平洋地域での影響力を拡大する意図が透けて見える。
中国は既にRCEP(地域包括的経済連携協定)を通じて日本との経済協力を深めており、牛肉輸入の再開はさらなる関係強化のシグナルである。
一方で、日本は米国との同盟を基軸としつつも、経済面では中国市場の重要性を無視できないジレンマに直面している。
日本政府は、今回の輸出再開を経済外交の成果として歓迎する一方、米国との摩擦を最小限に抑えるための慎重な対応を迫られている。
農林水産省は、2025年度中に中国向け牛肉輸出を本格化させるため、衛生基準や検査体制のさらなる強化を進めている。
また、和牛のブランド力を最大限に活かすため、中国の富裕層向けに高付加価値のマーケティング戦略を展開する計画である。
今後の展望と課題

画像 : 中国でも人気の和牛 wiki c Nesnad
日本産牛肉の中国市場進出は、大きな経済的チャンスであると同時に、複数の課題をはらんでいる。
まず、中国国内の消費者信頼を獲得する必要がある。BSE問題の記憶は一部で根強く、品質管理の透明性が求められる。
また、中国市場は競争が激しく、豪州やブラジルなど他の牛肉輸出大国との価格競争も避けられない。
日本産和牛は高価格帯であるため、富裕層以外の需要を開拓するには新たな戦略が必要である。
さらに、国際情勢の不確実性も無視できない。
トランプ政権の保護主義がさらに強まれば、日米関係の悪化は避けられず、中国への経済依存が高まるリスクがある。
日本は、米国と中国の間でバランスを取る外交手腕を試されることになるだろう。
それでも、日本産牛肉の中国輸出再開は、和牛ブランドの国際的評価を高める好機である。
24年ぶりの市場復帰は、日本の畜産業界にとって新たな飛躍の第一歩となる可能性を秘めている。
関係者は、品質と信頼を武器に、中国市場での成功を目指す。
文 / エックスレバン 校正 / 草の実堂編集部
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