台湾有事における米軍の関与は、国際社会の注目を集めるテーマだ。
台湾海峡の緊張が高まる中、米国が軍事的に介入するかどうかは、地政学的なバランスや国際秩序に大きな影響を与える。
本稿では、米軍が台湾有事に介入しない可能性とその背景にある理由を、戦略的、経済的、国内政治的な観点から分析する。
1.戦略的曖昧さとリスク回避

画像 : 台湾海峡 public domain
米国は長年、台湾問題に対して「戦略的曖昧さ」の政策を採用してきた。
これは、台湾への明確な軍事支援の約束を避けつつ、中国への牽制を維持するアプローチだ。
米軍が関与しない可能性の第一の理由は、核戦争のリスクである。
中国は核保有国であり、台湾有事での軍事衝突がエスカレートすれば、米中間の全面戦争に発展する危険性がある。
2025年現在、米国の軍事戦略は直接対決よりも抑止力の強化に重点を置いており、介入によるコストが利益を上回ると判断される場合、関与を控える可能性が高い。
また、米軍の戦力は世界各地に分散しており、台湾海峡での大規模作戦にはリソースの再配分が必要だ。
ウクライナや中東での紛争が継続する場合、米国は台湾に割く余力を欠くかもしれない。
2.経済的相互依存とコスト

画像 : TSMC R&D センター wiki©曾 成訓
米中間の経済的結びつきも、米軍の不介入の理由となり得る。
中国は米国にとって主要な貿易相手国であり、サプライチェーンの多くが中国に依存している。
台湾有事で米軍が介入すれば、中国との経済関係は壊滅的な打撃を受ける。
特に、半導体産業において台湾のTSMCは世界シェアの50%以上を占めるが、戦争で生産が停止すれば、米国のハイテク産業も深刻な影響を受ける。
米政府は経済的損失を最小限に抑えるため、軍事介入よりも外交や経済制裁を優先する可能性がある。
さらに、軍事作戦のコストは膨大だ。
米国の国防予算は2025年度で約9000億ドルだが、長期戦となれば財政負担が増大し、国民の支持を失うリスクも高まる。
3.国内政治と世論の影響
米国の国内政治も、台湾有事への不介入を後押しする要因だ。
近年、米国民の間では「内向き志向」が強まり、海外での軍事介入に対する懐疑的な声が増えている。
2024年の大統領選挙後、米国は内政優先の政策を強化しており、遠く離れた台湾のための軍事行動に国民の支持を得るのは難しい。
特に、若年層や中間層の間では、経済的安定や気候変動対策への関心が、軍事行動への支持を上回る。
議会でも、予算配分を巡る対立が続いており、台湾支援のための追加予算が承認されない可能性がある。
世論調査によれば、2025年時点で台湾防衛のための軍事介入を支持する国民は50%未満であり、ベトナム戦争やイラク戦争のトラウマが影響している。
4.同盟国との協調の難しさ
米軍の不介入の背景には、同盟国との連携の難しさもある。
米国は日本やオーストラリア、韓国と同盟関係にあるが、台湾有事での共同作戦には限界がある。
日本は憲法上の制約や国民感情から、積極的な軍事関与を避ける可能性が高い。
豪州や韓国も、中国との経済的関係を考慮し、慎重な姿勢を取るだろう。
NATO諸国は欧州やロシア問題に注力しており、アジアでの紛争への関与は限定的だ。
米国単独での介入は、リスクと負担が大きすぎるため、国際的な協調が得られない場合、米軍は動きにくい。
さらに、中国の「反介入・領域拒否(A2/AD)」戦略により、米軍の接近が困難になる可能性も指摘されている。
5.中国の抑止力と外交的圧力

画像 : アメリカ陸軍の歩兵部隊 public domain
最後に、中国の軍事力と外交的圧力が、米軍の不介入を促す。
中国は近年、海軍力やミサイル戦力を強化し、台湾海峡での優位性を高めている。
人民解放軍の近代化により、米軍の介入は従来よりも高いリスクを伴う。
中国はまた、ASEAN諸国やグローバルサウスへの影響力を拡大し、米国を孤立させる外交を展開している。
台湾有事で中国が経済制裁や資源供給の制限をちらつかせれば、米国の同盟国や中立国が米国支持を躊躇する可能性がある。
これらの要因は、米国が軍事介入を避け、外交的解決や限定的な支援に留まる動機となる。
台湾有事における米軍の不介入は、戦略的、経済的、国内政治的な理由、そして国際環境の複雑さから十分に考えられるシナリオだ。
米国は抑止力の維持とリスク回避の間で難しい選択を迫られるだろう。
最終的に、台湾の運命は米中のパワーバランスと国際社会の動向に委ねられる。
文 / エックスレバン 校正 / 草の実堂編集部
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