中国の「反スパイ法」は2014年の施行以来、外国人への監視と拘束を強化し、国際社会に波紋を広げてきた。
2023年7月の改正でスパイ行為の定義は曖昧に拡大され、日本人だけでなく、米国やその同盟国であるカナダ、韓国など、幅広い国の国民が拘束される事例が相次いでいる。
その一例として、2025年7月には日本の大手製薬企業アステラス製薬の現地法人幹部が反スパイ法違反で禁錮3年半の判決を受け、日本政府が強い遺憾の意を表明した。
こうした事例は日本に限らず、国際的な懸念が高まり続けている。
カナダ人の拘束と国際的緊張

画像 : マイケル・コブリグ氏(左)とマイケル・スパバー氏(右)
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カナダ人に対する反スパイ法の適用は、2018年のマイケル・スパバー氏とマイケル・コブリグ氏の拘束で、国際的な注目を集めた。
両氏は「国家安全を脅かす活動」に関与したとして約3年間、計1019日にわたり拘束され、長期間の独房生活や拷問に近い取り調べ、24時間点灯する蛍光灯の下での監視など、過酷な環境に置かれた。
尋問は1日6~9時間に及び、高い背もたれの木製椅子に縛り付けられたまま、姿勢を変えることも許されなかったという。
国連基準では15日を超える独房監禁は心理的拷問にあたるが、彼らはその何倍もの期間を耐え抜いた。
この事件は、カナダが中国の通信大手・華為技術(ファーウェイ)の最高財務責任者、孟晩舟氏を逮捕したことへの報復とみられている。
カナダ政府の抗議にもかかわらず解放は遅れ、両国間の信頼関係は深刻に損なわれた。
釈放後、コブリグ氏はインタビューで「地獄のような日々だった」と振り返り、収監中に娘の誕生にも立ち会えなかった無念を語った。
この事件は、カナダ人ビジネスマンや旅行者の間に深い不安を植え付け、中国渡航への心理的ハードルを大きく引き上げている。
韓国人初の逮捕と半導体を巡る懸念
韓国人への反スパイ法適用も顕著である。
2024年10月、50代の韓国人男性が半導体関連企業勤務者として逮捕された。
改正法施行後、韓国人初の事例である。
半導体は中国が重視する産業であり、技術流出への警戒が背景にあると推測される。
当局は具体的な違反内容を公表せず、曖昧な法運用への懸念が高まっている。
この事件は、中国と韓国の経済関係に緊張をもたらし、韓国企業に警戒感を与えている。
米国人の苦境と「巨大な鳥かご」
米国人も反スパイ法の影響を受けている。
約100人の米国人が中国から出国できない状況にあり、ビジネス関係者やジャーナリストが特に標的となっている。
企業調査や取材がスパイ行為とみなされ、摘発を受けるケースが増加。
米国政府はこれを「恣意的な法執行」と批判し、渡航警告を強化したが、解放交渉は難航している。
この状況は米中対立を深め、対中投資やビジネス展開に悪影響を及ぼしている。
法の曖昧さと国際社会への影響

画像 : 習近平氏 public domain
反スパイ法の問題は、曖昧な定義と恣意的な運用にある。
改正により「国家の安全と利益に関わるデータ」の盗難もスパイ行為に含まれ、日常的なビジネス活動や情報収集が摘発対象となり得る。
外国人だけでなく国内の言論統制にも利用され、経済分析や人権問題の議論が制限されている。
米国の同盟国は特に標的にされやすく、拘束者の解放交渉は外交的負担となっている。
このように、外国人拘束の増加は「中国離れ」を加速させ、企業や個人の進出意欲を削いでいる。
国際社会は法の透明性と公正な運用を求めているが、中国政府が方針を改める兆しは見えず、国際的な懸念は今後も続くとみられる。
文 / エックスレバン 校正 / 草の実堂編集部
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