台湾有事が発生した場合、朝鮮半島における軍事的緊張が高まり、新たな有事が引き起こされるリスクが増大する。
在日米軍や在韓米軍が台湾有事に巻き込まれることで、朝鮮半島の軍事バランスが崩れ、北朝鮮がその隙を突く可能性が高まるからだ。
本稿では、台湾有事と朝鮮有事の連鎖リスクについて、地政学的視点から解説する。
1. 米軍戦力が分散するリスク

画像 : 台湾海峡 public domain
台湾海峡での軍事衝突が発生した場合、米国は同盟国として台湾を支援する可能性が高い。
在日米軍や在韓米軍は、地理的近接性から迅速な展開が求められる。
特に、在日米軍の沖縄基地は、台湾に最も近い米軍の主要拠点であり、作戦の中心となるだろう。
しかし、これにより在日米軍のリソースが台湾方面に集中し、朝鮮半島の監視や抑止力が一時的に低下する。
在韓米軍も同様に、台湾支援のために部隊や装備を移動させる可能性があり、朝鮮半島における米軍の即応態勢が手薄になる。
この軍事的空白は、北朝鮮にとって絶好の機会となり得る。
2. 北朝鮮が挑発を強めるリスク

画像 : 北朝鮮の弾道ミサイル(2013年7月27日、平壌)Stefan Krasowski CC BY 2.0
北朝鮮は、過去にも国際社会の注目が他地域に集まるタイミングで、挑発行動を起こしてきた。
たとえば、2010年の延坪島砲撃事件や、核実験・ミサイル発射のタイミングは、しばしば国際的な危機や米国の関心が分散する時期と重なる。
台湾有事が発生すれば、米国や韓国が北朝鮮の監視に割けるリソースが減少し、北朝鮮が軍事挑発や限定的な攻撃を仕掛けるリスクが高まる。
北朝鮮は、こうした状況下で自国の存在感を誇示し、交渉材料を得ようとする可能性がある。
特に、韓国との軍事境界線(DMZ)付近での小規模衝突や、ミサイル発射による威嚇が想定される。
3. 日本が直接的脅威に晒されるリスク
台湾有事は、単に米中間の対立にとどまらず、東アジア全体の安全保障環境に波及する。
日本は、米国の同盟国として、在日米軍基地の運用支援や後方支援を行うことが求められるだろう。
しかし、これにより日本自身が、中国や北朝鮮からの報復リスクに晒される。
さらに、北朝鮮が台湾有事を機に挑発をエスカレートさせた場合、日本も直接的な脅威に直面する可能性がある。
例えば、北朝鮮の弾道ミサイルが日本海や日本領空を通過する事態は、国内の緊張を一気に高めるだろう。
日本としては、米軍との連携強化や自衛隊の即応態勢の整備が急務となる。
抑止力の再構築と国際協調

画像 : ソウル市街 Arturbraun CC BY-SA 4.0
台湾有事による朝鮮半島のリスクを軽減するためには、米韓日を中心とした抑止力の維持が不可欠だ。
具体的には、米軍の多正面作戦能力の強化や、日韓の情報共有・共同訓練の拡充が求められる。
また、中国やロシアが北朝鮮を背後で支援する可能性も考慮し、国際社会の協調による圧力強化が必要だ。
たとえば、国連やG7の枠組みを通じて、北朝鮮の挑発を牽制する外交的努力が重要となる。
一方で、台湾有事の長期化は、米国の軍事リソースをさらに圧迫し、抑止力の低下を招くため、迅速な事態収束が望まれる。
このように台湾有事は、単なる地域紛争にとどまらず、東アジア全体の安全保障に深刻な影響を及ぼす。
その中で、朝鮮半島は特に脆弱な地域であり、軍事的空白を突いた北朝鮮の行動が新たな危機を誘発するリスクが高い。
日米韓の連携強化と国際社会の協調が、この連鎖を防ぐ鍵となるだろう。
文 / エックスレバン 校正 / 草の実堂編集部
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