人工知能(AI)の急速な進化は、経済や医療、産業に革命をもたらしているが、同時に軍事利用への懸念が高まっている。
AIを搭載した兵器やサイバー攻撃技術が、国家間の緊張をエスカレートさせ、世界戦争を引き起こす可能性はあるのか。
本記事では、AIの軍事利用の現状、リスク、そして国際社会の対応を分析し、その危険性を探る。
AIの軍事利用とその進化

画像 : 追跡戦闘ロボット「Miloš」を搭載したセルビアのランドローバー・ディフェンダー牽引トレーラー Srđan Popović CC BY-SA 4.0
AIはすでに、軍事分野で多様な形で活用されている。
米国や中国、ロシアなどの大国は、AIを搭載した無人機、監視システム、サイバー兵器の開発に巨額を投じている。
例えば、米国の「Project Maven」は、AIによるリアルタイムの戦場分析を行い、迅速な意思決定を可能にする。
中国も、AI駆動の自律型潜水艦やドローンを配備し、軍事力を強化している。
2024年の報告によれば、AI兵器の市場規模は2030年までに2000億ドルを超えると予測される。
これらの技術は、戦闘の効率化や人的損失の削減を目指す一方、誤作動や誤判断のリスクを孕む。
特に、自律型致死兵器(LAWS)は、人間の介入なしに攻撃目標を選び攻撃する能力を持ち、倫理的・法的問題が浮上している。
2023年には、AIドローンが模擬戦で「暴走」し、誤った標的を攻撃した事例が報告され、技術の未熟さが露呈した。
AIが引き起こす新たな脅威

画像 : サイバー攻撃 イメージ
AIの軍事利用が世界戦争の引き金となる可能性は、いくつかのシナリオで考えられる。
まず、AIによるサイバー攻撃の高度化だ。
AIは、敵国のインフラや防衛システムを瞬時に解析し、精密な攻撃を仕掛ける能力を持つ。
2024年に発生した某国の電力網へのAI駆動型サイバー攻撃は、数百万世帯の停電を引き起こし、社会混乱を招いた。
このような攻撃が軍事施設や核兵器システムに及べば、報復の連鎖が戦争に発展する恐れがある。
さらに、AIの「ブラックボックス」問題も深刻だ。
AIの意思決定プロセスは複雑で、開発者でさえ完全に理解できない場合がある。
これが誤った攻撃命令や、エスカレーションを引き起こす可能性は否定できない。
例えば、AIが敵の行動を誤認し、自動的に反撃を開始するシナリオは、冷戦時代の核危機を彷彿とさせる。
地政学的緊張と軍拡競争
AIの軍事利用は、米中を中心とした軍拡競争を加速させている。
中国は2035年までに「AI超大国」を目指し、軍事AIに多額を投資。米国もこれに対抗し、AIを「次世代の軍事革命」と位置づける。
ロシアやインド、欧州諸国も追随し、AI軍事技術の開発競争が過熱している。
この競争は、互いの不信感を増幅し、偶発的な衝突のリスクを高める。
特に、AIによる情報戦が緊張を悪化させている。

画像 : 2023年に出回った、元アメリカ大統領のドナルド・トランプが逮捕される様子を描いたディープフェイク画像 public domain
ディープフェイクやAI生成の偽情報は、敵国への世論操作や内政干渉を容易にする。
2024年のある国際紛争では、AI生成の偽動画が双方の国民感情を煽り、軍事衝突寸前まで発展した。
こうした情報戦は、従来の外交では制御が難しく、戦争への引き金を引く可能性がある。
国際社会の対応と課題
AIによる戦争リスクを軽減するため、国際社会は規制の枠組みを模索している。
国連では、LAWSの禁止を求める議論が進行中だが、主要国の利害対立から進展は遅い。
2025年の国連総会では、AI兵器の倫理指針が提案されたが、法的拘束力を持たないため実効性が疑問視されている。
一方、技術者や研究者の間でも、AIの軍事利用に対する警鐘が鳴らされている。
2023年には、1000人以上のAI専門家が「軍事AIの開発停止」を求める公開書簡に署名。
しかし、軍事利用の経済的・戦略的メリットが大きいため、完全な停止は現実的ではない。
戦争回避への道

画像 : 激化する米中AI覇権 米中経済貿易協定の署名式 public domain
AIが世界戦争を引き起こす可能性は、技術の管理と国際協力をどう進めるかにかかっている。
まず、AIの透明性を高め、誤作動や誤判断を防ぐ技術開発が急務だ。
また、AI兵器の使用ルールを定めた国際条約の締結が求められる。
さらに、AIの平和利用を促進し、軍事偏重の開発競争を緩和する必要がある。
例えば、AIを活用した災害対策や医療技術の進歩は、国際協力を通じて人類全体の利益となる。
このようにAIの軍事利用は、適切に管理されなければ、新たな戦争の火種となり得る。
しかし、技術の進歩を止めるのではなく、賢明な統治と国際連携でリスクを最小化することが、平和な未来への鍵となるだろう。
文 / エックスレバン 校正 / 草の実堂編集部
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