城,神社寺巡り

日本最古級の神社・石上神宮へ行ってみた「山の辺の道に息づく古代の祈り」

画像 : 山辺の道/奈良県天理市付近 663highland CC BY 2.5

桜井市から奈良市へと至る古道に、有名な「山の辺の道(やまのべのみち)」があります。

この道は日本でも最古の道の一つとして知られ、古代の面影を今に伝えています。

その山の辺の道の中ほど、天理市の布留(ふる)の高台に、日本最古の神社の一つとされる石上神宮(いそのかみじんぐう)が鎮座しています。

今回は、この山の辺の道の中程に位置する石上神宮を訪ね、その歴史や由緒、そして実際に参拝して感じた印象などを紹介してみたいと思います。

天理教の街、奈良県天理駅前エリア

石上神宮は、奈良県天理市の近鉄およびJR天理駅から東へ徒歩およそ30分の場所にあります。

天理はご存じのとおり、天理教発祥の地であり、現在もその本部が置かれている街です。

天理駅を降りると、駅前から東へ延びる大通りがあり、その周辺には天理教本部をはじめ、多くの関連施設や建物、そして天理大学の校舎が立ち並んでいます。

街全体に独特の統一感があり、まさに「天理教の街」といった雰囲気が漂っています。

画像:天理教本部教会 筆者撮影

天理教は、江戸時代末期に教祖・中山みきが神の啓示を受け、その教えを人々に説いたことに始まるとされています。

明治期には金光教や黒住教などと並び、いわゆる「教派神道」と呼ばれた神道系新宗教十三派の一つとして発展しました。

天理駅に降り立つと、ビルの最上部に瓦屋根を備えた独特の建築様式の天理教関連施設や、法被を身にまとった信者の方々が往来する光景が目に入ります。その統一された景観と雰囲気に、強い印象を受ける方も多いことでしょう。

駅東側の一帯は、まさに天理教の街としての特色を色濃く感じさせます。

山の辺の道

先ほどの天理教の建物が立ち並ぶエリアを抜けて、さらに東へ進むと、南北に走る県道51号線に出ます。

そこを少し南へ進むと、県道の東側に石上神宮の参道入口が見えてきます。

参道を山の方へと進むと、大鳥居が静かにそびえ、その先に厳かな境内が広がっています。

ここまで来ると、先ほどまでの天理教の街並みとはまるで別世界のようで、あたりは静寂に包まれ、清らかな神域の気配を感じることができます。

画像:石上神宮の大鳥居 筆者撮影

境内の楼門の手前、右手には鏡池があり、その周辺では多くのニワトリが放し飼いにされています。

参拝者の目にまず飛び込んでくる光景の一つです。

ニワトリは神様の使い(神使)とされており、石上神宮では昭和後期に奉納されたニワトリを大切に育て続けています。

現在もおよそ三十羽ほどが境内を自由に歩き回り、訪れる人々を和ませています。

鏡池の東側には木々が生い茂り、その中を南へ向かって一筋の道が伸びています。

これが「山の辺の道(やまのべのみち)」です。

画像:山の辺の道 筆者撮影

この道は、桜井市の大神神社(三輪明神)から天理市の石上神宮を経て、奈良市の春日大社へと至る全長約26キロの古道で、日本で最古の道の一つとされています。

とくに大神神社から石上神宮までの約16キロは、古代の面影を色濃く残す区間として知られています。

現在ではその多くが東海自然歩道に指定され、四季折々の風景を楽しめるハイキングコースとして親しまれています。

大神神社から歩いてきたハイカーが、石上神宮に到着してほっと一息つく姿もよく見かけます。

石上神宮の由来と御祭神

石上神宮は、日本最古の神社の一つとされており、第十代・崇神天皇の御代にこの地に鎮め祀られたと伝えられています。

古代には武門の棟梁であった物部氏の総氏神として篤く信仰され、国家鎮護の社としても崇められてきました。

主祭神は、神剣「韴霊(ふつのみたま)」に宿る御霊威を称える、布都御魂大神(ふつのみたまのおおかみ)
天璽十種瑞宝(あまつしるしとくさのみづのたから)に宿る、布留御魂大神(ふるのみたまのおおかみ)
そして天十握剣(あめのとつかのつるぎ)に宿る、布都斯魂大神(ふつしみたまのおおかみ)

の三柱です。

これらの神々を総称して「石上大神(いそのかみのおおかみ)」とお呼びします。

古来より、健康長寿・病気平癒・除災招福・百事成就のご神徳があるとされ、現在も多くの人々から深い崇敬を集めています。

石上神宮の建造物

画像:楼門と回廊 筆者撮影

石上神宮の本殿と拝殿は、楼門と回廊に囲まれた神域の中心にあります。

拝殿は国宝に指定されている貴重な建造物で、第七十二代・白河天皇が宮中の神嘉殿(しんかでん)を当神宮に寄進されたものと伝えられています。

建築様式としては、鎌倉時代初期の特徴を備えた入母屋造・檜皮葺の拝殿建築で、現存するものとしては日本最古といわれます。

筆者が訪れた際には、数十年に一度行われる屋根の葺き替えや漆塗りの補修など、令和の大修理の最中で、建物全体が工事用の覆屋に囲まれていました。

そのため拝殿の全貌を目にすることはできませんでしたが、静かに修理の時を迎える神殿の佇まいにも、千年の歴史を感じ取ることができました。

画像:拝殿正面 筆者撮影

回廊の外側に広がる境内には、摂社の出雲建雄神社(いずもたけおじんじゃ)・天神社(てんじんじゃ)・七座社(ななざしゃ)、そして末社の猿田彦神社(さるたひこじんじゃ)と神田神社(こうだじんじゃ)が祀られています。

これらはいずれも石上神宮の祭祀体系を構成する重要な社であり、それぞれに由緒と特色を持っています。

なかでも建造物として特筆されるのが、摂社・出雲建雄神社の拝殿です。

この拝殿は国宝に指定されており、古建築として極めて貴重な存在です。

画像:出雲建雄神社の拝殿(国宝)筆者撮影

この拝殿は、もとは内山永久寺(うちやまえいきゅうじ)の鎮守であった住吉社の拝殿でした。

明治初期の神仏分離令により内山永久寺が廃寺となり、住吉社も火災で焼失しましたが、拝殿だけは奇跡的に残されました。

その後、大正3年(1914)に石上神宮の摂社・出雲建雄神社(いずもたけおじんじゃ)の拝殿として現在の地に移築されたものです。

創建は保延3年(1137)とされ、その後13〜14世紀にかけて二度の改築が行われ、現在の独特な構造と形式に至ったと考えられています。

静かな森の中に佇む姿は長い歳月の風格を感じさせ、国宝にふさわしい歴史的価値を今に伝えています。

拝殿の周囲には立ち入りを制限する小さな札があるものの、訪れる人を遠ざけるような厳重さはなく、むしろ開放的な佇まいが印象的です。

終わりに

今回の神社巡りでは、静かな大和路に悠然と鎮座する日本最古の神社・石上神宮と、天理教の壮大な宗教建築群との対照が強く印象に残りました。

その落差は、宗教や信仰のかたちが時代とともにどのように変化してきたかを考えさせるものでした。

ぜひ皆さまもこの地を訪れ、静寂のなかに息づく古代信仰の空気を感じてみてはいかがでしょうか。

【石上神宮 基本情報】
所在地:奈良県天理市布留町384
創建:崇神天皇7年(紀元前91年)と伝わる
主祭神:布都御魂大神・布留御魂大神・布都斯魂大神
ご利益:健康長寿・病気平癒・除災招福
参拝時間:5時30分〜17時30分頃(季節により変動)
アクセス:JR・近鉄「天理駅」から徒歩約30分、または奈良交通バス「石上神宮前」下車すぐ
公式サイト:https://www.isonokami.jp/

参考 : 石上神宮公式サイト『石上神宮』他
文:撮影 / 草の実堂編集部

草の実堂編集部

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草の実学習塾、滝田吉一先生の弟子。
編集、校正、ライティングでは古代中国史専門。『史記』『戦国策』『正史三国志』『漢書』『資治通鑑』など古代中国の史料をもとに史実に沿った記事を執筆。

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