
画像 : 工場群 イメージ takato marui CC BY-SA 2.0
日本の製造業やハイテク産業が築き上げてきた「技術」という名の牙城が、今、かつてない危機に瀕している。
「経済安全保障推進法」の成立以降、政府は官民挙げて、先端技術をめぐるリスク管理に本腰を入れ始めた。
「経済安全保障推進法」とは、国際情勢の変化を受け、経済活動そのものが安全保障と切り離せなくなった現実を踏まえて制定された法律である。
令和4年に成立し、重要物資の供給網や基幹インフラ、先端技術の保護、さらには特許情報までを視野に入れた包括的な枠組みが整えられた。
もっとも、法律が整ったからといって、現場の技術が自動的に守られるわけではない。制度と実態の間には、いまなお大きな隔たりがあり、現場の実態はなお楽観できる状況とは言い難い。
中国による国家主導の技術獲得戦略は、年々巧妙化・多角化しており、「日本企業は本当に大丈夫か」という問いに対し、自信を持って「イエス」と答えられる状況にはないのが現実だ。

画像 : 習近平氏 public domain
自由への渇望と政府の統制 〜研究開発のジレンマ
かつて、日本の技術者たちは「自由」を謳歌していた。
国境を越えた共同研究、学術的関心に基づいた技術交流、そしてより良い待遇を求めた転職。
これらは技術発展の原動力であった。
冷戦終結後、とりわけ1990年代以降の日本では、技術交流そのものが善であり、国境を越えた研究協力は平和と繁栄につながるという認識が広く共有されていた。
技術が国家安全保障の核心と直結するという発想は、少なくとも民間レベルでは希薄だったと言える。
しかし、その自由の裏側で、日本の虎の子とも言える先端技術が、中国の軍事転用や産業競争力の強化につながってきたのではないかという疑念も、各方面で指摘されてきた。
政府は今、この「自由」に対し、経済安全保障の観点から一定の歯止めをかけ始めている。
特定重要物資の供給網や基幹インフラの安全性を確保しつつ、先端技術についても、研究開発の在り方や管理の仕組みを見直す動きが進んでいる。
しかし、現場の企業からは「規制が厳しすぎてスピード感が損なわれる」「優秀な中国人留学生や研究者を一律に排除すれば、イノベーションが停滞する」といった懸念の声も根強い。
自由な研究環境を維持したいという渇望と、国家の安全を守るための統制。
この両立という極めて困難な舵取りを、日本企業は強いられている。
見えない浸食と組織の統制 〜ソフトターゲット化する中小企業

画像 : 工場 イメージ Public domain
大企業がセキュリティを強化する一方で、新たな「穴」となっているのが、高い技術力を持ちながら対策が手薄な中小企業や、個々の技術者への直接的なアプローチだ。
とりわけ中小企業には、論文や特許には表れない「現場の勘」や「製造ノウハウ」といった暗黙知が蓄積されており、これこそが最も狙われやすい資産となっている。
SNSを通じたヘッドハンティングや、一見すると無害な共同研究の持ちかけなど、手口は極めてソフトで執拗である。
「自分たちの技術はニッチだから狙われない」という過信こそが、最大の脆弱性となる。
一度流出した技術を回収することは不可能であり、それは自社の市場優位性を失うだけでなく、国家の安全保障を根底から揺るがす事態にも直結する。
組織としてのガバナンス(統制)を再構築し、技術者一人ひとりに「技術を守ること=国を守ること」という意識を徹底させなければ、日本の技術流出に歯止めをかけることはできないだろう。
日本企業が生き残るためには、単なる「防御」に留まらず、流出を前提とした技術のブラックボックス化や、絶え間ない次世代技術の開発という「攻め」の姿勢が必要不可欠だ。
参考 :
•内閣府「経済施策を一体的に講ずることによる安全保障の確保の推進に関する法律(経済安全保障推進法)」
•内閣府 経済安全保障推進会議 公表資料 他
文 / エックスレバン 校正 / 草の実堂編集部
























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