国際情勢

中国はなぜ「尖閣諸島」を狙い続けるのか? 3つの理由

中国は近年、尖閣諸島周辺での活動をますます活発化させている。

海警局の公船による領海侵入や漁船団の集結、空軍機の示威飛行などは、一見すると偶発的に見えるが、実際には明確な戦略目的に基づいていると考えられている。

尖閣諸島は、1895年に日本政府が国際法上の手続きを経て沖縄県に編入し、現在に至るまで日本が安定的に実効支配を続けている。

ところが1970年代に入ると、中国(および台湾)は領有権を主張し始め、以降この地域は東アジアの火種として国際的関心を集めてきた。

ではなぜ中国は、尖閣諸島の支配にこれほどこだわるのか。

今回は3つの観点から、中国の狙いを読み解いていく。

尖閣諸島に眠る海底資源

画像 : 民間機から見た尖閣諸島。左から魚釣島、北小島、南小島(2010年9月15日)wiki c BehBeh

尖閣諸島周辺の東シナ海には、石油や天然ガスなどの豊富な海底資源が存在する。

中国科学院の調査によれば、この海域には約700億バレルの石油と、200兆立方フィートの天然ガスが埋蔵されている可能性が指摘されている。

中国はエネルギー需要が急速に増大しており、国内生産だけでは賄いきれず、輸入依存度が高い。
尖閣諸島の領有権を確保することで、これらの資源の開発権を独占し、エネルギー安全保障を強化できる。

特に、排他的経済水域(EEZ)の範囲を拡大することは、資源採掘の法的根拠を確立する上で重要である。中国は尖閣諸島を自国領と主張し、日本との共同開発案を拒否することで、将来の資源独占を目指している。

この経済的動機は、中国が尖閣問題で妥協しない主要な理由の一つである。

台湾侵攻における最前線

画像 : 尖閣諸島のうち3島の位置図 public domain

尖閣諸島は、台湾に地理的に近く、台湾侵攻を想定した軍事戦略において重要な役割を果たす。

中国にとって、台湾の統一は歴史的・政治的核心課題であり、尖閣諸島はその前哨基地として機能し得る。

尖閣諸島を支配すれば、人民解放軍は台湾東部へのアクセスを容易にし、米軍や日本の自衛隊の介入を牽制できる。特に、尖閣諸島は第一列島線上に位置し、中国の海洋進出を阻む障壁である「島嶼防衛線」の一部を構成する。

このため、尖閣を確保することは、台湾海峡での軍事作戦の自由度を高め、米日同盟の封じ込め戦略を弱体化させる。
中国は近年、尖閣周辺での漁船や公船の活動を活発化させ、実効支配を既成事実化する動きを見せている。

これは、台湾問題を視野に入れた軍事的前準備と解釈でき、尖閣を譲らない戦略的理由となっている。

西太平洋進出の足がかり

画像 : 習近平 CC BY 3.0

中国は「海洋強国」戦略を掲げ、西太平洋での影響力拡大を目指している。

尖閣諸島は、この目標達成のための重要な足がかりである。尖閣を支配すれば、中国は第一列島線を突破し、太平洋への直接的なアクセスを確保できる。

これにより、人民解放軍海軍は遠洋展開能力を強化し、米国の西太平洋支配に対抗する力を増す。また、尖閣諸島は南シナ海と東シナ海を結ぶシーレーンの要衝に近く、海上交通路の安全保障にも影響を与える。

中国はA2/AD(接近阻止・領域拒否)戦略を推進しており、尖閣を拠点化することで、米軍の艦艇や航空機の活動を制限できる。さらに、尖閣問題を通じて日本との対立を維持することは、国内のナショナリズムを高揚させ、共産党政権の正当性を強化する政治的効果も期待できる。

西太平洋での覇権確立を目指す中国にとって、尖閣は譲れない戦略的要衝なのである。

このように、中国が尖閣諸島を譲らない理由は、経済的、軍事的、戦略的な利害が複雑に絡み合っている。

海底資源の確保はエネルギー安全保障を支え、台湾侵攻の前哨基地としての役割は軍事戦略の中核を成す。
さらに、西太平洋進出の足がかりとして、尖閣は中国の海洋覇権の鍵を握る。

これらの理由から、中国は尖閣問題で妥協せず、領有権主張を強化し続けているのだ。

日本や米国との緊張が高まる中、尖閣を巡る対立は今後も東アジアの安全保障環境に大きな影響を与えるであろう。

参考 : 『外務省 : 日本の領土をめぐる情勢』他
文 / エックスレバン 校正 / 草の実堂編集部

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