
画像 : キルギスの位置 public domain
中央アジアの「山岳の島」とも称されるキルギス共和国。
かつてシルクロードの要衝として栄えたこの小国の主権が今、静かに侵食されつつある。
それは武力による国境侵犯ではなく、膨大な資本という名の「見えない軍隊」による経済的侵食である。
その主役は、隣接する大国・中国だ。
「一帯一路」の甘い罠と膨らみ続ける対外債務

画像 : 2018年時点の一帯一路主要プロジェクト地図。鉄道、パイプライン、港湾、発電所の分布を示す『Infrastrukturatlas』 CC BY 4.0
キルギスにおける中国の影響力拡大は、習近平政権が提唱する巨大経済圏構想「一帯一路」と軌を一にしている。
資源に乏しく、インフラ整備が急務であったキルギスにとって、中国による巨額の融資は抗いがたい魅力を持っていた。しかし、その代償はあまりにも大きい。
現在、キルギスの対外公的債務のうち、中国輸出入銀行が占める割合は近年おおむね3~4割で推移している。
道路建設やエネルギー施設改修のために投じられた資金は、キルギス経済を活性化させるどころか、返済の見通しが立たない「債務の罠」へと突き落としたといえるだろう。
他国でも見られる通り、中国の融資は「返済不能」に陥った際、戦略的拠点の租借権や資源採掘権を譲渡させる交渉材料として機能する。
キルギス政府にとって、これは主権の切り売りを迫られる死活問題となっている。
インフラ支配を通じて失われる国家の自律性
中国による浸透は、単なる金銭貸借に留まらない。
キルギス国内の基幹インフラ、特にエネルギーと交通網の大部分が中国資本と技術に依存している点も深刻だ。

画像 : キルギスの首都・ビシュケク Aitenir CC0 1.0
例えば、首都ビシュケクの熱供給を担う発電所は、中国輸出入銀行の融資を受け、中国企業が改修を担った。
だが、2018年1月の厳冬期に大規模な設備停止が発生し、契約の透明性や汚職疑惑を巡る議論と相まって、国民の間に強い不信感を残した。
また、現在進行中の「中国・キルギス・ウズベキスタン鉄道」計画も、将来的な物流の生命線を中国に握られることを意味する。
インフラが特定の外国勢力に握られることは、非常時における国家の自律性を完全に喪失させるリスクを孕んでいる。
加速する資源収奪と高まる反中感情のジレンマ
中国の関心は、キルギスに眠る豊富な金鉱床や希少金属(レアメタル)にも向けられている。
キルギス各地で展開される中国系企業による採掘プロジェクトは、環境破壊や地元住民の雇用軽視を巡って激しい対立を引き起こしてきた。
各地で発生している「反中デモ」は、中国の経済支配に対する国民の悲鳴である。
しかし、キルギス政府は厳しい現実に直面している。中国からの投資が止まれば経済が破綻し、かといって中国に寄り添えば国民の反発を招き、主権をさらに損なう。
このジレンマの中で、キルギスは中国経済圏の従属的ポジションへと押し込まれつつある。
かつてのソ連の影響下から脱したキルギスが、今度は東の大国による経済的覇権の軍門に降ろうとしているのだ。
透明性を欠く融資と、戦略的なインフラ支配。キルギスの現状は、経済支援という美名の裏に潜む「静かなる侵攻」の恐ろしさを、世界に知らしめている。
文 / エックスレバン 校正 / 草の実堂編集部
























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