ミリタリー

ステルス技術の進化について調べてみた その2

前回:ステルス技術の進化について調べてみた その1

研究者、技術者というのは常に貪欲でなければならない。怠惰は惰性を生み、惰性は何も生み出さないからだ。

その意味ではアメリカの航空業界で開発に携わる人々は貪欲さの塊といえるだろう。ステルス技術が実戦投入されて予想通りの戦果を挙げても、さらにその技術を高めることを求めた。

そして、時代も彼らを後押しする。米空軍の主力戦闘機F-15イーグルが天空に初めて羽ばたいてからすでに20年以上がたった頃。世界の政治地図の上でも、航空技術の進歩の面でも、その20年は大変な激動期だった。

そうした流れの中で、空軍は「飛びきり特別な」ものを必要としており、その願いをかなえるには最新のステルス技術が必要だったのである。

もうひとつの課題

ステルス技術
※B-2スピリット

ステルス技術には、形状の問題の他にもうひとつの課題があった。

レーダーは飛行機を探知するのに使われる主要センサーではあるが、IR(赤外線)センサーも無視できない存在である。熱エネルギーが発生すれば赤外線も発生する。この現象は航空機、とりわけ戦闘機にとっては悩ましいものだった。電磁スペクトルのうち赤外線とされる周波数帯は可視光線のすぐ下で、レーダーの周波数よりかなり上である。

大部分の赤外線エネルギーは大気中にある水蒸気と二酸化炭素により吸収されてしまう(温室効果)ため、赤外線のなかで飛行機の探知に利用できる可能性があるのは、わずかふたつしかない。

現在の赤外線追尾型空対空ミサイルで利用されているのもそのひとつだ。

飛行機のエンジン部分とエンジン排気の熱から放射される赤外線がミサイルに利用されるものと一致する。もうひとつは太陽に熱せられたり、機体と大気の摩擦によって生まれる。そのふたつの赤外線をキャッチできればレーダーがなくても飛行機が「見えて」しまう。


※アフターバーナーを使用して離陸したF-15C

飛行機のIR識別特性を小さくするには、IR放射の大部分を占めるエンジン排気を冷却しなければならない。

手始めにアフターバーナーを止めてしまうという手がある。アフターバーナーとはジェットエンジンの排気に対してもう一度燃料を吹きつけて燃焼させ、高推力を得る装置である。車のターボのようなものだと思えばいい。速度は低下するが、F-117やB-2のように高速性が必要ない機体なら取り外せる。

より手を加えるなら、空気取入口の形状を工夫して、周囲の冷気がエンジン周辺を抜けて排気ガスと混合した後、飛行機から排出されるようにする。これらの技術は前世代のステルス機にも導入されたが、摩擦熱についてはほとんど手が打たれておらず、これが新たな課題となっている。

ロッキード・マーティン=ボーイングF-22


※F-22

1984年、アメリカ空軍は当時の主力戦闘機だったF-15に代わり次世代主力機となるATF(先進戦術戦闘機)計画の要求仕様をまとめた。

中でもステルス性能を盛り込むことと、1200kmの戦闘半径(軍用機が基地から離陸した後、任務を達成して同じ基地に帰還できると期待できる距離)を超音速巡航できることを求めたのは大きい。

F-15では燃費などの制限を受けなければ超音速巡航が可能だったが、F-22では、離陸後はほぼ音速以上で飛び続けるだけの耐久性と燃費が求められたのだ。

F-22では、F-117、B-2と同程度の「真の」ステルス性を実現させる、とロッキード・マーティンでは示唆していた。実際、F-22はF-15とほぼ同じ大きさだが、正面から見たレーダー断面積は100倍以上小さいと言われている。

F-22の構造材はレーダー断面積が最低になるようなかたちで金属と複合素材(カーボン・カーボン、サーモプラスティックなど)を混合させて使っている点も注目だ。

主翼の前縁部にある「刻み目」は主翼付け根付近にあるレーダー波を捉えて、レーダーを拡散させてしわうレーダー用の「罠」と考えられている。さらにエンジンもステルス性を備えている。アフターバーナーなしの状態でF-22の超音速巡航を十分可能にしている2機のF199エンジンは同じ速度で飛行する通常の戦闘機に比べIR特性が大幅に軽減している。

空気取入口のダクトには湾曲が付けられ、エンジンのファンセクション(中心部)が敵のレーダーに曝されないないほか、RAMやその他の技術的工夫によって、エンジンのもつ昔からレーダーに補足されやすいという性質をいっそう軽減させている。


※F-22の下面(兵器庫を開いた状態)

武装面でもステルス性が十分に考慮された。

F-22に搭載される基本兵装はF-15と大差はないが、ミサイルは三つの機内兵装室(胴体左右と胴体下部)に収められ、発射のときだけドアが開く。ドアの角度によっては、レーダー断面積が突如増大するかもしれないので、ドアを瞬時に開閉するメカニズムを仕込んである。

20mm機関砲は胴体右手の中央部に深く埋め込まれ、発射の時だけ開いて最後の弾丸が通過すると即座に閉まるという徹底ぶりだ。

他にも様々なステルス技術が盛り込まれているが、それは後のF-35にも受け継がれている。F-35は多用途に運用するというコンセプトのためF-22に比べてステルス性能は多少劣るだろうが、最新鋭のステルス機であることは間違いない。

最後に

今回はステルスの原理、進化、それを実用化させた機体を調べただけで、各機の詳細は省かせてもらった。

しかし、今後もステルス技術は成長の余地が残っている。航空業界の技術者たちは今日も貪欲に仕事に取り組んでいるのだろう。

関連記事:F-35
F-35(ステルス戦闘機)について調べてみた

 

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