宗教

イングランド国教会について調べてみた

イングランド国教会
今年の5月にはヘンリー王子メーガン妃が結婚し、イギリス国内のみならず世界中がロイヤルウェディングに沸いた。
2011年にはウィリアム王子キャサリン妃が結婚し、その後も数年ごとにキャサリン妃の懐妊や出産のニュースがあり、ここ数年はロイヤルファミリーをテレビで目にする機会が多かったように思う。
ところで、キャサリン妃もメーガン妃も、結婚の前にイングランド国教会に改宗していたことをご存知だろうか。

我々日本人は宗教というものに疎い。
正月には初詣に行き、クリスマスは楽しく祝い、大晦日には除夜の鐘を聞きに行くような我々には、宗教の違いというものにはあまりピンとこないかもしれない。
今回は2人が改宗した「イングランド国教会」とはなんなのか、キリスト教なのか、どうしてそんなものができたのかということについてまとめてみた。
ちなみに、ここから後に出てくる「ヘンリー」や「キャサリン」というのは歴史上の人物であり、400年以上前を生きていた人物である。
『ヘンリーが離婚』だの『キャサリンが捨てられた』だのというワードが出てくるが、あくまで数百年前のお話なので安心していただきたい。

イングランド国教会 とは

最初にイングランド国教会(イギリス国教会、イングランド教会、英国聖公会など様々に訳される。英語ではChurch of England)というのは、キリスト教の宗派のひとつである。
学校で「宗教改革」というものを学んだ記憶がある方もいるだろう。
その宗教改革という、ヨーロッパで起こった一連のキリスト教の改革によって生まれた宗派のひとつなのである。
イングランド国教会というものは、ローマ・カトリックに対して「うちはちょっと違うんで。意見が合いませんので。」といって新しく作られた宗派であり、そしてその作られ方に特徴がある。

ヘンリーと最初の妻

画像:キャサリン(ヘンリーの最初の王妃キャサリン・オブ・アラゴン。wikiより引用)

イングランド国教会を作った人物というのがヘンリー8世である。
ヘンリー8世は16世紀のイングランド国王で、彼はもともと敬虔なカトリック信者だった。
時のローマ教皇から「信仰擁護者」という称号を与えられるほど、熱心な信者だった。
ヘンリー8世の最初の妻はキャサリン・オブ・アラゴンという人物。
名前に「オブ(of)」がついているがどういうことかというと、アラゴン出身のキャサリンさんということである。
ではアラゴンとはどこなのかというと、スペインである。
キャサリン・オブ・アラゴンはスペイン国王の娘で、イングランドに嫁いできたのである。
スペインの王女とイングランドの国王が結婚する、というのは完全な政略結婚で、フランスに対抗するための策ではあったのだが、ヘンリーとキャサリンはしっかりと愛し合っていた。
しかしなかなか男児に恵まれず、後継ぎが欲しいヘンリーはキャサリンとの離婚を決意することになる。

カトリックは離婚厳禁

しかしカトリックでは離婚はできないことになっていた。一度結婚した2人は、死が二人を分かつまで…ということである。
なのでヘンリーはローマ教皇に結婚を無効にしてほしいと頼んだのだが認められなかった。
しかるべき理由があれば結婚の無効化は当時もできたのだが(あくまで結婚→離婚ではなく、結婚自体をなかったことにする)いろいろな政治的理由があってローマ教皇は認めてくれなかったのだ。
それではどうしようかと考えたヘンリーは、国王至上法というものを出して、イングランドの教会をローマ・カトリックから分離させた。自分が離婚したいがために、新しい宗派をつくってしまったのである。
こうしてできたのがイングランド国教会だ。

二人目の妻

画像:アン(国王との出会い(19世紀画)。wikiより引用)

キャサリンとの結婚を決意させたのは男児が生まれないということだけではなかった。
アン・ブーリンという女性の存在があったのである。
アンはキャサリンの身の回りの世話をする侍女としてヘンリーと出会った。
その時アンは15歳。
対する妻キャサリンは37歳。
しかもアンは美人であった。
残念ながらキャサリンに勝ち目はなかったのである。
そうしてアンはヘンリーの愛人となり、のちのエリザベス1世を生む。
このアンという女性は結構ガツガツいくタイプであり、キャサリンと別れて私と結婚してくれないならばもう関係は終わりにする!とヘンリーに迫り、イングランド国教会の成立となるのである。

6人の妻

昼ドラのような展開でヘンリーと結婚したアンだが、彼女も結局男児には恵まれなかった。
なんと数年でヘンリーの愛は終わり、アンの侍女であったジェーン・シーモアという女性に心変わりしてしまい、アンは処刑された。
最終的にヘンリーは、キャサリンとアンを含む6人もの妻をとることになった。
この愛憎劇はいくつか映画化もされており、オススメは2008年の「ブーリン家の姉妹」である。
アン・ブーリンを演じるのはナタリー・ポートマンで、美人といわれているアンを演じるのにぴったりの女優さんである。
歴史を知らなくても単純にストーリーが楽しめるので、機会があれば見てみてほしい。

関連記事:
キリスト教【カトリック,プロテスタント,正教会】宗派の違い
キリスト教と占星術の関係【ローマ帝国時代】

matsu3204

投稿者の記事一覧

大学時代にイングランド史を専攻。イングランド史に限らず、西洋史全般が好き。

✅ 草の実堂の記事がデジタルボイスで聴けるようになりました!(随時更新中)

Youtube で聴く
Spotify で聴く
Amazon music で聴く
Audible で聴く

コメント

  1. この記事へのコメントはありません。

  1. この記事へのトラックバックはありません。

関連記事

  1. 【神社に祀られる神様を知る】必勝祈願・芸能上達なら「八幡さま(は…
  2. 中世の貴婦人は“不潔”ではなかった?「中世ヨーロッパ=汚い」の誤…
  3. ザマの戦いについて調べてみた【ハンニバルの大敗】
  4. タンネンベルクの戦いの名コンビ【ヒンデンブルグとルーデンドルフ】…
  5. 黄金の国「ジパング」とは岩手県のことだった説 ~後編 【コロンブ…
  6. 日英同盟について簡単に解説〜利害の一致がもたらした大国イギリスと…
  7. スパイス&ハーブの歴史と使い方について調べてみた
  8. 本当は怖かったグリム童話 【初版グリム童話】

カテゴリー

新着記事

おすすめ記事

日本酒と日本神話について調べてみた【ヤマタノオロチを酔わせた八塩折の酒とは?】

和食ブームの影響で外国人からも人気が高まっている日本酒。その歴史は古く、縄文時代中期頃から酒造りをし…

ビッグモーターとアウシュビッツ 【ヒトラーに従い、ユダヤ人を虐殺したアイヒマンの責任は?】

最低な会社先日の25日、ビッグモーターの社長が会見を開きました。不正請求に関して、組織的…

天皇・神とも深い関係が!遊女は“聖なる存在”だった?国家・朝廷に仕えた女性たち

遊女は文化の基盤となり歴史を動かした吉原遊郭を正面から描いた大河ドラマ『べらぼう』。主人…

流鏑馬神事で大活躍!源頼朝に赦された河村義秀のエピソード【鎌倉殿の13人】

先日、鎌倉の大河ドラマ館を見学してきて、気になる展示がありました。こちらです。源頼朝…

台湾外国人労働者の現状 「約72万人の海外労働者」

外国人労働者の直面する問題台湾では2020年3月の調査によると、71.9万人の外国人労働者が働い…

アーカイブ

人気記事(日間)

人気記事(週間)

人気記事(月間)

人気記事(全期間)

PAGE TOP