LK-99が大注目
2023年に入ってから、『ChatGPT』の話題が頻繁に取り上げられ、少々飽食気味であったが、今度はそれを上回る勢いで新たなニュースが広がりを見せている。
それは先進国を含め、どの国もまだ成し遂げられていない、常温常圧超電導体の生成を韓国の研究チームが成功したというものだ。
ことの発端は「LK-99」と名付けられた、常温常圧超伝導体に関する査読前の2つの論文が、論文投稿サイト「arxiv.org」に投稿されたことがきっかけだといわれている。
「LK-99という常温常圧超電導体が生成された」というのは確かに凄そうではあるが、なぜ、ここまでの注目を浴び、大々的に広まっているのだろうか?
いや、注目を浴びるというよりは、物議を醸しているといったほうが正しいのかもしれない。
今回は、LK-99についての解説と、なぜこれだけ騒がれているのかの理由について深堀していきたい。
超電導について
多くの方は「超伝導」という言葉をニュースなどで何度か聞いたことはあるだろう。
しかし、これが何なのか正確に理解できている方は多くないかもしれない。
筆者も「何かをものすごく冷やすと電気的抵抗がなくなる」くらいにしか理解していなかったし、SF映画アバターの劇中で、アンオブタニウムとかいう架空の超電導鉱物である石や岩が空中に浮かんでいた光景を思い出す程度だ。
渦中の常温常圧超伝導体「LK-99」が何であるかを理解するために、そもそも超伝導とは何かを簡単に理解しておきたい。
合わせて関連用語についてもいくつか簡潔にまとめてみた。※あくまで筆者は専門家ではないので疎い箇所や至らない点がある部分はご容赦いただきたい。
超電導
特定の金属や化合物などの物質を、超低音に冷却すると電気抵抗がゼロ(0)になる。
この「現象」のことを「超伝導」と呼び、最も重要な現象とされているようだ。
転移温度
超伝導を示すようになる「温度」は「転移温度」と呼ばれる。
転移温度まで温度を下げるために、一般的には液体ヘリウムや液体窒素を使用するとのこと。
超伝導体
超電導状態を示し、その状態を維持できる物質・物体。
ゼロ抵抗
超電導状態で電気が流れると、抵抗がゼロになる現象を指す。
通常、電気が通ると多少の抵抗が生じてエネルギーロスが発生するが、超電導状態では電気が通っても、そのエネルギーのロスがなくなるのだ。重要なのは、抵抗が減るのではなく、ゼロ(0)になる点である。
マイスナー効果
詳細を端折って説明すると、超伝導体は永久磁石の上に浮かぶ。この現象は「マイスナー効果(マイスナー・オクセンフェルト効果)」と呼ばれている。
この現象は「超電導体」と認定されるための重要な条件と言われている。
LK-99関連の報道や記事に「石ころのようなものが完全ではないにせよ、浮かんでいる様子」が掲載されているのは、「超伝導体」の証明の一つだからだろう。
さらに、超電導のマイスナー効果に加え、「ピン止め効果」という現象もあるようだ。
筆者ではうまく説明しきれないので、次の動画を見ていただきたい。
査読(プレプリント)とは?
査読とは、学術雑誌に投稿された論文を、その分野を専門とする研究者が読んで、誤りや不明瞭な点などの内容の妥当性などをチェックし、掲載するか否かの判断材料にする評価や検証のことである。「審査」とも呼ばれることもある。
科学の研究論文を書く人は、自分の考えや実験結果をまとめて論文にするだろう。しかし、誰もがミスをすることがあるため、別の専門家にその論文を読んでもらい、誤りや改善点を指摘してもらうのが通常だ。これによって、より正確で信頼性のある情報を提供することができるのである。
同様に記事や本も査読を受けることがあり、読みやすさや内容の正確さが向上し、読者に分かりやすい情報を提供できるようになる。
余談だが、プログラムのコードにも査読に似たプロセスがあり、「コードレビュー」と呼ぶ。
「LK−99」は「世紀の大発見」とも言えるインパクトのある内容であるにも関わらず、査読を通過する前に、誰もが投稿・閲覧できるプレプリントサーバ(arxiv)にアップロードされてしまったので、驚きや批判のコメントが目立っている。
LK-99の概要
LK-99(Lee-Kim-1999から)は、韓国の研究者が開発に成功したと主張する、常温常圧下において超伝導を起こす物質である。
「LK-99」という名前は、発見者のイソクべ(Sukbae Lee)氏と、キムジフン(JI-Hoon Kim)氏、最初の発見年の1999年にちなんでいるとされている。
「常温常圧で超電導性を示す物質を合成した」とする論文が、韓国の研究チームによって7月22日に公開され、現時点(2023年8月10日現在)においても世界中で大変な話題になっている。
しかし、なぜこれほどまでに世界を騒がせているのだろうか?
考えられる理由を筆者なりにピックアップしてみた。
・常温常圧超伝導体は「夢の物質」と呼ばれている。
・同論文は査読前でも「事実なら即ノーベル賞モノの大発見」と大いに期待されていること。
・過去の捏造問題などにより、評判の悪い韓国研究チームによる常温超伝導体の発見。
・論文は査読前であり、「arXiv」という誰でも投稿・閲覧できるプレプリント・サーバーに投稿されたこと。
・今回発表された論文のタイトルが「初の常温常圧超伝導体」と大げさすぎること。
・LK-99は銅を添加した鉛ベースの合成物質であり、常温かつ常圧であれば超伝導性を維持でき、水が沸騰する温度以上(127度まで)でも超伝導性を示すといわれているため、精製が比較的容易だと言われていること。(自分にも作れるかもしれないと思う人もいるらしい)
ここではまず、「LK-99」の話題性について簡単に説明したが、以降の説明により、「LK-99」が期待される理由がさらにわかるだろう。
「LK−99」が本物だったら、どんなことが起こるのか?
なぜ常温常圧超伝導体が「夢の物質」と呼ばれるのか、主要とされる理由をピックアップしてみた。
・LK-99が本物なら、鉄や銅などの金属よりも安価に製造できる可能性がある。
・高効率で大規模な発電、送電設備などの実現が可能になる。
・電気抵抗がゼロになるため、電力ロスを大幅に削減することができる。日本は高度な科学技術力により、送電ロスを最小限に抑えている。日本の送電ロス率は世界でも低水準(約5%)であるにもかかわらず、年間400億キロワット時以上(火力発電所7基分)もの電力が送電中に失われているという。もし、常温常圧超電導が実現すれば、送電ロスが大幅に改善されるかもしれないのだ。それによって電気代も安くなるかもしれない。
・磁場を非常に強くすることができるため、磁気浮上技術の開発に応用することができる。磁気浮上技術は、列車や車両の輸送に革命をもたらす可能性がある。
・強力な磁場を発生させることができるため、超伝導マグネットの開発に応用することができる。超伝導マグネットは、はすでに医療機器や研究機器に使用されているが、大幅にコストを削減できるようになるだろう。
・新しい医療技術の開発に応用することができる。例えば、超伝導MRI装置は、従来のMRI装置よりも高精度の画像を撮影することができるようになるはずだ。
・超伝導体の「ピン止め効果」を応用すれば、現在のリニアモーターよりも安価で高速・安全な浮上列車の車両が製造できる可能性がある。
・超電導量子コンピューター。この研究はすでに始まっているが、常温で製造・運用できるとなれば、圧倒的にコストパフォーマンスの向上が見込めるはずだ。
・一般のPCに使用されるCPUやGPUは、処理能力が高くなるほど熱問題が発生している。しかし、常温超電導を活用すれば、CPUの熱問題が解決するだけでなく、圧倒的なパフォーマンスを発揮するCPUの製造が可能になるかもしれない。
このように、もし「LK-99」が本当に論文通りの常温常圧環境下で精製可能な超伝導体であるなら、私達の未来は正に大激変すること間違いなしである!
なので、皆も大いにこのテクノロジーに期待しているわけだ。
本記事の冒頭で映画アバターについて触れたが、この映画では「1キャロットの大きさの超電導物質が2000億ドルの価値がある」という設定だったが、その価値は本当にあるかもしれない。
LK-99の真偽に関する最新情報
韓国の研究チームが発表した「LK-99」の真偽について、現在45以上の各国研究機関などによって検証がすすめられている。
そしてほとんどが「失敗、再現できない」という発表が多い中、「再現できた、成功を示唆」という微妙な発表もある。
科学者でもない素人が面白半分に首を突っ込んでくる場面も多く、混沌とした状態になっている。
いずれにしても筆者があれこれ言える立場ではないので、最新の情報を入手する方法を皆さんにお伝えするので、それらを閲覧後に各自ご判断いただければと思う。
実は各研究機関における検証状況は、wikiで表となってわかりやすく日々更新されている。
wiki LK-99 各研究機関における検証状況
最後に、最新というわけではないが、LK-99検証過程に参加したキム・ヒョンタク博士が語っている動画を紹介しておこうと思う。
なお、クォンタムエネルギー研究所のWEBサイトは、現在アクセスできないようだ。
LK-99の現状まとめ
2023年8月10日現在、LK-99の真偽に関する第三者機関による調査は、まだ進行中である。
前にも触れたとおり、多くの国で検証を行っている最中で、結論を出している国はとても少ない。韓国政府も調査結果をできるだけ早く公表するとしている。
超電導として認められるには最低3つの条件をクリアせねばならない。また今回は常温常圧という条件が加わるので、精製のハードルは低いとされてはいるが、どの機関も慎重にすすめていると思われる。
超電導と認められるための3条件
・ゼロ抵抗
・マイスナー効果
・結晶構造の同定(鉛と銅の混合度合いやその他の条件がある)
「LK−99」は論文が査読されていないことも批判のトピックの一つになっているが、査読者の偏見や査読スピードの問題もあり、査読されればよいというものでもなさそうだ。
一部の声として、査読を受ける人の名前を匿名にできれば、偏見が減るのではないかという話もある。
LK−99がもし本物であれば、世界が大きく変わることは間違いない。
参考 : arxiv,hackmd.io,Hacker News 他
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