宇宙

【火星の夜空は緑色だった】 欧州宇宙機関がその理由を突き止める

「火星の空が緑色に輝いている」

欧州宇宙機関(以降ESA)が、火星を周回する探査機「エクソマーズ」から奇妙な現象を確認した。

これまで火星は「赤い惑星」と呼ばれ、大気の色も赤や褐色といったイメージが強かった。

ところが実際には、高度50km付近の大気がなんと緑色に発光しているという事実が判明したのである。

【火星の夜空は緑色だった】

画像: 火星の高緯度地域の夜空に映る夜光が、宇宙飛行士にとってどのように見えるかを想像したアーティストのイラスト 提供: NASA/JPL-Caltech/Cornell Univ./Arizona State Univ.– E. W. Knutsen

11月9日に学術誌「Nature Astronomy」に掲載された研究によると、科学者たちはESAのエクソマーズ(ExoMars)火星探査機を使用し、火星の大気が、可視光で緑色に輝くのを観測したという。

地球でも同様の「大気光」と呼ばれる現象があるが、なぜ火星でこのような緑色が発現するのか?
ESAの科学者チームはその仕組みに迫ろうとしている。

緑色の謎に迫る「大気光」

火星で観測された空の緑色は、「大気光」と呼ばれる現象が原因であることがわかっている。
大気光とは、ある高度で大気中の原子や分子が特定の反応を起こし、その際に発生する光のことだ。この現象は地球でも発生している。

地球のオーロラ(北極光)と似ているが、原因が異なるため別の現象とされている。

地球では、高さ100kmほどのところにある薄い大気の中で、酸素分子が紫外線を浴びて分解されると、酸素のかけら同士がまたくっついて酸素分子をつくるとき、赤や緑の光が放出されるのだ。

これが一般に「大気光」や「夜光」などと呼ばれている現象である。

一方の火星では、高度50kmで次のような酸素原子が結合する反応が起きていると考えられている。

酸素原子 + 酸素原子 → 酸素分子 + 光(緑色)

ただし研究チームによると、この反応がなぜ緑色の光を効率的に発生させるのかは不明だという。

今後の観測で、火星ならではの大気光の仕組みが明らかになるかもしれない。

40年越しの謎に迫る発見

【火星の夜空は緑色だった】

画像: 欧州宇宙機関(ESA)のExoMars Trace Gas Orbiterが、火星大気中の酸素の緑色の輝きを検出するアーティストの想像図。 提供: ESA

科学者たちは、これまで40年以上も火星での大気光の存在を推測してきた。1960年代後半から各国が火星探査機を相次いで送り込む中、大気光の兆候を探る試みがなされてきたのだ。

1971年に火星軌道に達した当時最新鋭のNASAの「マリナー9号」を始め、ESAの「マーズ・エクスプレス」や日本の火星探査機「のぞみ」も含め、これまでに20基近い探査機が大気光の捉えどころないデータを得てきた。しかし決定的な発見には到らず、謎は深まる一方だった。

そして10年ほど前、ついにESAの「マーズ・エクスプレス」が搭載した分光分析装置によって、赤外線領域で大気光由来の信号が検出される。しかしこれはあくまで間接的な証左に過ぎなかった。

その後、今回エクソマーズが高性能カメラによって、可視光で直接大気光をとらえることに成功したのである。

これは極めて高精細な画像であり、火星夜空が緑色に輝く様子が初めて確認された形となる。

地上からもこの光が観測可能なことから、将来の火星有人飛行ミッションで「宇宙飛行士が緑色の大気を目にするかもしれない」と期待されている。

エクソマーズ探査機

【火星の夜空は緑色だった】

画像: 火星探査車ExoMars 2020、Trace Gas Orbiterのアーティストの想像図。 提供: ESA/ATG medialab

今回の研究も、近年大活躍中の探査機がなければ成し得なかっただろう。探査機は、それぞれに開発された目的が明確に存在している。

ESAのエクソマーズ(ExoMars)は、火星の生命の可能性を探ることを目的とした探査計画だ。

そのため、火星の土壌や岩石を分析して有機物や生命の痕跡を探しつつ、火星の大気を調べて、生命にとって適した環境であったかどうかを検証している。

エクソマーズの探査は、火星の生命の謎を解明する上で重要な役割を果たしている。
これまでの探査で、火星にかつて水が存在したことや、有機物が存在する可能性などが明らかになっているのだ。

エクソマーズ探査機は、火星の生命の可能性を探るだけでなく、火星の環境や地質を理解する上でも重要な成果をもたらしており、今後の運用においても、成果が期待されている。

さいごに

今後も火星からの大気光の観測が進められることだろう。

それによって、火星の大気の謎に迫る手がかりが得られるかもしれない。

またこの分野の研究は、気象観測への利用や、有人火星飛行の際の宇宙船の設計にも役立つ。

それ以外にも、火星の大気によって生じる抗力に耐えられる衛星を構築したり、ペイロードを火星の表面まで降ろすことができるパラシュートを設計したりするのに役立つ可能性も秘めている。

この謎の緑色の光は、今後の火星探査の新たな価値を提示し、宇宙活動の可能性をひろげていくかもしれない。

用語解説

大気光(たいきこう):

大気光(たいきこう)とは、大気光学現象の一種で、地球などの惑星の大気が起こす弱い発光。英語では “airglow”と言い、通常夜間に観測されるので “nightglow” とも言う。大気光があるため、星明かりや太陽光の散乱が無かったとしても夜空は完全な暗黒にはならない。

一般的にはオーロラや雷のほか、流星や高エネルギー宇宙線による発光などを含む大気中の発光現象の総称。天文学でいう大気発光は、太陽からの紫外線などにより励起された地球大気上層部の分子や原子の発する光(大気光とも呼ばれる)を指す。特に波長2μm までの近赤外線で上空のOH基の発する大気光(OH夜光)は、非常に強い夜天光として地上からの近赤外線観測の妨げとなっている。

参考 : Astronauts on Mars may see a green sky, eerie new study suggests , 大気発光 天文学辞典 ,

 

lolonao

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フィリピン在住の50代IoTエンジニア&ライター。
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