奈良県橿原市には、「おふさ観音」と呼ばれる寺院があります。
この寺院は、全国に点在する「花の寺」の一つとして知られ、特に「バラの寺」として有名です。
日本の伝統的な寺院と洋風の花であるバラの組み合わせは珍しく、その独特の魅力に惹かれ、実際に訪れてみることにしました。
寺院の由来
おふさ観音は、現在では真言宗別格本山として、特に「ぼけ封じ」の祈祷を希望される地元の方々を中心に信仰を集めています。
この寺院の縁起については、公式ホームページによれば、以下のように語り継がれています。
かつて、おふさ観音の周辺は「鯉ヶ淵」と呼ばれる大きな池でした。
17世紀中頃、この地域に暮らしていた「おふさ」という女性が、池のほとりで白い亀の背に乗った観音菩薩と出会います。この出来事に感銘を受けたおふさは、池のそばに小さな粗末なお堂を建て、その観音菩薩をお祀りしました。この観音菩薩は、次第に「人々の願いを叶えてくださる」との噂が広まり、近隣の庶民の間で厚い信仰を集めるようになりました。
これが、おふさ観音の始まりとされています。
高僧や権力者によって建立されたのではなく、庶民の手によって守られてきたという由来は、街中にひっそりとたたずむ「おふさ観音」の雰囲気にふさわしいものと感じられます。
なお、おふさ観音へのアクセスは、近鉄八木駅から奈良交通のバスで10分ほどの小房バス停で下車し、徒歩5分程度です。
便利な立地にありながらも、静かな街中の一角に位置しています。
寺院の境内と見どころ
本堂内には、ご本尊様である秘仏の十一面観音が祀られており、厳かな雰囲気の中でお参りや御祈祷を受けることができます。
境内は無料で巡れますが、本堂内の拝観には300円の拝観料が必要です。
有料ではありますが、訪れられた際には様々な願い事をかなえてくださる慈悲の観音様にお参りされることをお勧めします。
また、本堂の左手奥には、「円空庭」と呼ばれる小さな回遊式日本庭園があります。
この庭園は狭いながらも趣があり、儒学者で奈良公園の立案にも関わったとされる前部重厚氏の監修によるものと伝えられています。
庭園内には、心を落ち着ける静けさと調和が広がり、訪れる人々に癒やしを与えます。
さらに、境内北端には、大正時代に建てられた御殿造の和室を利用した茶房「おふさ」があります。
バラの季節には、提供されるハーブティーをいただきながら、「円空庭」を眺めてのんびりと過ごすことができる、くつろぎのスポットです。
春と秋のバラ祭り
春と秋のバラが咲き誇る季節には、寺院の門をくぐると、境内一面がバラの鉢植えで埋め尽くされ、色とりどりの花々が訪れる人々を出迎えます。
それほど広いとはいえない境内ですが、バラの香りに包まれたその光景は圧巻です。
冒頭にも記した通り、寺院とバラという組み合わせは少し珍しく思われますが、1995年当時の住職が「境内をバラの香りで満たし、参拝者の心を癒したい」と考えたことから始まりました。
最初は小規模だったバラの栽培も、住職の思いを受け継いで次第にその数を増やし、現在では約4,000株もの鉢植えが境内を彩るようになりました。
この美しいバラの光景は、多くの参拝者を魅了し、「バラの寺」としてのおふさ観音の特徴をより一層際立たせています。
夏の風鈴祭り
春のバラ祭りを訪れた際に、夏には境内が風鈴で埋め尽くされる「風鈴祭り」が開催されると知り、その時期に再びおふさ観音を訪れました。
寺院の門をくぐると、本堂へ続く道や境内のあらゆる場所に風鈴を吊るす棚が設けられ、多数の風鈴が夏風に揺れながら涼やかな音色を奏でていました。
境内に吊るされた風鈴は約2,500個にもおよぶそうで、その圧倒的な光景と音の美しさに心が癒やされます。また、風鈴の即売会も行われており、訪れた参拝者がそれぞれお気に入りの風鈴を買い求める姿が見られました。
風鈴の音色に包まれたおふさ観音の夏の風景は、暑さを忘れさせてくれる涼やかなひとときを提供してくれます。
訪れた日は猛暑で、境内に響く風鈴の涼やかな音色だけでは暑さをしのぐことが難しいほどでした。
そのため、茶房「おふさ」に立ち寄り、「円空庭」の庭木に吊るされた風鈴を眺めながら、昔ながらのイチゴのかき氷をいただきました。
冷たいかき氷と風鈴の景色の組み合わせが、暑さの中でもほっとひと息つける時間を与えてくれました。
お勧めの周辺の観光スポット 「重要伝統的建造物群保存地区の今井町」
遠方からおふさ観音を訪れる際には、近隣の観光スポットとして「今井町」の街並み散策も合わせて楽しむことをおすすめします。
今井町は、近鉄八木西口駅から西へ徒歩10分ほどの場所にあり、江戸時代の雰囲気を色濃く残す街並みが広がっています。
今井町は、国の重要伝統的建造物群保存地区に指定されており、全体で約1,500棟の建物が存在します。
そのうち500棟ほどが伝統的建造物として保護されており、国の重要文化財に指定されている建物も9棟含まれています。
この保存地区は、歴史的な趣と静かな佇まいが魅力で、散策するだけでも心が癒やされます。
これほど貴重な街並みを有する今井町ですが、訪れる観光客は比較的少なく、静かに散策を楽しめる穴場の観光スポットです。
歴史的な建物と趣のある景観を堪能できるため、ぜひ訪れてみてはいかがでしょうか。
機会があれば、今井町については改めて詳しく紹介したいと思います。
おわりに
バラの寺として知られるおふさ観音は、その規模こそ小さいものの、縁起や歴史を通じて庶民の尊崇を集めてきた心安らぐ寺院だと感じました。境内を彩るバラや風鈴祭りをはじめ、訪れる人々を癒やす工夫が随所に施されているのが印象的です。
また、このおふさ観音では、近年10月7日から6月23日まで、境内が多くの提灯で彩られる提灯祭りが開催されているとのことです。
次回は、この幻想的な祭りの時期に再び訪れてみたいと思っています。
参考 : 『おふさ観音公式HP』他
文 / 草の実堂編集部
この記事へのコメントはありません。