神話、物語

不気味な『目玉』の怪物たち 〜目に宿る神話と妖怪伝承

不気味な『目玉』の怪物たち

画像 : 目 pixabay cc0

「目」は人間にとって欠かせない重要な器官である。

視覚を失えば、周囲の状況を把握することが難しくなり、日常生活に大きな支障をきたすだろう。そのため、「目」を大切にすることは、誰にとっても必要不可欠なことである。

だが神話や幻想の世界においては、その特徴的な「目」を以ってして、我々人間の視覚に訴えかけ、恐怖を植え付けてくる怪物たちの伝承が、数多く語り継がれている。

今回はそんな「目」にまつわる恐るべき怪異について、解説を行っていく。

1. エル・クエーロ

画像 : エル・クエーロ 草の実堂作成

エル・クエーロ(El Cuero)またはクエーロとは、南米チリの先住民族、マプチェ族やテウェルチェ族の伝承に登場する、忌まわしき怪物である。

その名はスペイン語で「生皮」を意味するという。
(チリは長らくスペインの植民地であったがゆえ、スペイン語で呼称される怪物が非常に多い)

牛の皮をビローンと伸ばした平べったいマントのような形をしており、さらにその表面には、無数の目玉や触手が生えているという、極めてグロテスクな姿をしているそうだ。

この怪物は川や湖、海など、水のある場所ならどこにでも生息しているという。
普段は水底で丸まりじっとしているが、水辺に近づく人間がいると、触手を伸ばして捕らえ、水中に引きずり込む。
そしてその平たい体で包み込み、生きたまま消化してしまうのだそうだ。

この怪物を退治するには、水の中にサボテンを投げ込むのが良いとされる。

サボテンを獲物だと勘違いし包み込んだエル・クエーロは、トゲによりズタズタに引き裂かれ、失血死してしまうという。

2. 手の目

画像 : 手の目 public domain

手の目(てのめ)は、江戸時代の妖怪画家・鳥山石燕の画集「画図百鬼夜行」に登場する妖怪である。

月明りの下、目玉のついた掌を掲げる坊主頭の座頭(盲人の按摩師・琵琶法師などのこと)が、ススキの草むらからヌゥーッと現れる様子が描かれている。
しかし説明文が書かれておらず、詳細不明の妖怪である。

一説によると、目のある掌を上げている様子は、不正やイカサマを暴く行為である「手目を上げる」を意味しており、また、坊主頭は「ハゲる」、すなわち賭け事に負けて身銭がなくなることを意味しているという。

そして背景の月とススキは、花札の絵札を表しているとのことだ。

これらの要素は「博打」を連想させるものであり、つまり手の目は、博打に関する言葉遊びから創作された妖怪だと考えられている。

3. 目目連

画像 : 目目連 草の実堂作成

目目連(もくもくれん)とは、鳥山石燕の画集「今昔百鬼拾遺」に描かれた、廃屋の障子に浮かぶ、無数の眼球の妖怪である。

石燕の解説によれば、かつてこの家に住んでいた囲碁棋士の情念が、目となって表れたものだという。

小説家・山田野理夫の怪談集「東北怪談の旅」には、目目連と思しき妖怪が登場するエピソードが収録されている。

とある商人が木材を買いに、江戸から津軽へ向かったという。
しかし宿に泊まる金が勿体ないと考え、その辺にあった空き家で一泊することにしたそうだ。

夜になり商人は寝転んでウトウトとしていたが、ふと障子の方を見てみると、無数の目玉に凝視されていることに気がついた。
ところが商人は一ミリも驚くことなく、それどころかこれ幸いと、目玉を集めて袋に詰め込んだ。
そして目玉を江戸に持ち帰り、眼科医に売り払ったとのことだ。

なんとも商魂たくましいエピソードである。

4. 尻目╱ぬっぽり坊主

画像 : 尻目╱ぬっぽり坊主 public domain

尻目(しりめ)とは、その名の通り肛門に眼球が存在するという、凄まじくインパクトのある妖怪である。

漫画家・水木しげるの解説によると、尻目は夜道を歩く人間の前に現れ、肛門の目を見せつけて驚かせる妖怪だという。

しかし尻目という名前は、水木しげるが独自に考え出したものであり、この妖怪の本来の名は、「ぬっぽり坊主」というものである。

江戸時代の俳人・与謝蕪村が宝暦4年~7年頃(1754~1757年)に作成したとされる、「蕪村妖怪絵巻」にて、ぬっぽり坊主は描かれている。
蕪村の解説によると、この妖怪には目も鼻もないが、代わりに尻の穴に、「稲妻のごとく光る」一つの目が存在するという。

出会ってしまえば、一生モノのトラウマになること間違いなしの妖怪である。

5. バロール

画像 : バロール 草の実堂作成

バロール(Balor)はケルト神話に登場する、フォモール族という魔族の王である。

隻眼の強大な魔神であり、その目は見たもの全てを抹殺する「邪眼」であったという。
ただし、瞼が非常に重いため、部下が4人がかりで持ち上げる必要があったそうだ。

フォモール族はダーナ神族という神々の集団と対立しており、その軋轢はやがて、「マグ・トゥレドの戦い」という大戦争へと繋がった。

戦争においてバロールは邪眼を駆使し、ダーナ神族側を大いに苦しめた。
だが太陽の神「ルー」が投げた石に目を貫かれ、バロールは死んでしまう。

実はルーの母親はバロールの娘であり、つまりルーはバロールの孫にあたる神であった。

バロールは生前「お前は孫に殺される」という予言を受けており、予言を恐れたバロールは、孫がこの世に生まれぬよう様々な策を講じた。

だが結局、孫であるルーは生まれてしまい、予言通りバロールは孫に殺されることになったのである。

参考 : 『妖怪図鑑』『画図百鬼夜行』他
文 / 草の実堂編集部

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