思想、哲学、心理学

レズビアンの歴史について調べてみた

レズビアン(lesbian)とは、女性の同性愛を指すことばだ。

近年では有名なカップルが大々的にウェディングセレモニーを行ったり、パートナーシップ証明書を取得したりと話題になった。

秋葉原界隈では、男性向けの「萌えキャラ」だけでなく、可憐な女性キャラクター同士を性的に絡ませる「百合」というジャンルもかなりの人気を保っている。

今回は、このレズビアンの歴史について見ていこう。
レズビアンの歴史について調べてみた

呼称について

まず、この性的指向を意味する呼称について見ていこう。女性同性愛のことを「レズ」と呼ぶことは一般的であるものの、この呼称は当事者にとって嫌悪感を催すものであるケースが少なくない。なぜか?それは同性愛に対する差別・偏見・嘲笑と「レズ」の呼び名が紐づいているからだ。対象を尊重していれば略称で呼ぶこともないし、呼ばれて苦い記憶を呼び起こすこともない。異常者、変人、淫らな存在、として好奇の目を向けられた彼女たちの歴史は長い。

なので、少しでも当事者を理解しよう、ちゃんと扱おう、と考えるのであれば「レズ」「そっち系」などという呼称はやめて「レズビアン」と呼ぶのが正しい。

なお、当事者の間では「ビアン」という呼び方が好まれる。フルネームが少し長いと感じる場合には、「ビアン」と呼んでみても悪い顔はされないだろう(しかし「お仲間」と思われる可能性も微粒子レベルで存在する)。

中には自ら「レズ」と名乗っていくスタンスの人もいるが、これは非当事者、まして男性から言っていくべきではないだろう。アフリカ系アメリカ人が仲間内で「ニガー」と呼び合うことはあっても非黒人が言うことは許されない、それと同じことだ。

地球上においてのレズビアンの歴史は古い

ボノボやニホンザル、アメリカバイソン、コアホウドリ、アメリカオオセグロカモメなど、動物界でもメス同士の性的接触が観察されている。
人間もそれらの動物と同様に、古くから同性愛行動を行っていた。

紀元前625~570年頃の古代ギリシャでは、女性詩人サッポーが女性に向けた恋愛の詩を書いたり女性の教え子と親密な関係を築いていた。


彼女が住んでいたのが「レスボス島」という実在の島であり、「レスボスの住人」という意味でlesbianという言葉が生まれた(余談だが、実際のレスボス住民は11年ほど前に「自分たちを示す呼称が同性愛の呼称にされていることに納得がいかない」として訴訟を起こした。)

他にも古代スパルタ、古代中国においても女性同性愛が文化として文献に記録されている。

LGBTというと、近年欧米先進国がにわかに提唱しはじめた概念とそれに関わる運動のように思われがちだが、その現象は古来より連綿と続いていたのだった。

日本においてのレズビアンの歴史

日本では、平安時代には女性同性愛が文化として成立していた。日本の性愛文化が最大限に花開いた江戸時代には名だたる浮世絵師が女性同士のまぐわう様子を描いたり、川柳に詠まれたり、庶民の間でもこっそり「貝合わせ」が楽しまれていた。

明治時代に文明開化の波が来ると、西洋的思想や概念が持ち込まれ途端に同性愛は否定されるようになった。つまり私たちの偏見の根は舶来のものだったのだ。

その後、20世紀になると数人の女性文筆家がレズビアン的要素を含んだ小説を発表するようになった。それだけでなく、あの平塚らいてうをはじめとした著名人の女性が同性愛関係をもつようになった。

レズビアンの歴史について調べてみた

※平塚らいてう wikiより

この頃、戦前には、「エス(シスターフッド)」と呼ばれる概念が女学生を中心に流行した。

これは少女同士の深い愛情関係を意味するもので、現実における関係性として存在するほか、文学的表現として大いに流行した。レズビアンという呼称はないものの、女学生の世界ではごく自然なものとして浸透していた。

戦後には、「男女七歳にして席を同じうせず」という束縛から自由になり、学生の異性交遊が許されるようになると「エス」という概念は薄れていった。しかし、2000年代から秋葉原界隈で大流行し今日も支持されている「百合」ジャンルの根源としてエスを結びつけることはあまりにもたやすい。

そして現代に

LGBTのための街、新宿二丁目にはゲイバーだけでなくレズビアンバーも存在し、その界隈は「百合の小道」とも呼ばれている。

少なくとも1963年には『週刊現代』にそれと思われる記載が残っている。他にも1966年の『週刊漫画サンデー』、1967年の『平凡パンチ』誌上で「レズビアン」という記述がなされている。

1971年には本邦初のレズビアンサークル「若草の会」が創立され、15年ほど活動が続いたという。また、サークルだけでなく、レズビアン事務所「れ組スタジオ・東京」も1987年には設立された。

1992年にはレズビアンとゲイの情報誌『ゲイの贈り物』が刊行される。同年には東京国際レズビアン&ゲイ映画祭の第一回が開催された。この映画祭は令和元年まで毎年開かれ、多くの当事者と非当事者に、高い文化的価値をもった映画を紹介してきた。

1994年になると、海外の影響を受けて日本発の「東京レズビアン・ゲイ・パレード」が行われた。その年を皮切りに、令和に至るまで毎年国内で同系統のパレードとイベントが開催されてきた。開催地としては東京都が最も有名だが、北は北海道、南は沖縄、その間は愛知、大阪、兵庫、京都、福岡と各地に広がった。

PRIDE PARADEとは | 東京レインボープライド

レズビアンの歴史は古くそして深い

最近はLGBTとかいう人が多くなった」とつぶやかれるご年配の方に対し、密かに「レズビアンは見た目で分からない。公にできなかっただけ」と思っている当事者の声が聞こえてきそうだ。

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