東京ディズニーシーの魅力は、リアルと虚構のバランスだろう。
2001年に開業したこの世界初の「海をテーマ」にしたパークは、運営会社のオリエンタルランドから打ち出したコンセプトである。
当初はすでに海外にもあった映画スタジオ系のパークを計画していたが、より日本人に馴染みのあるパークを作りたいという思いから、すでに契約まで進んでいた話を白紙に戻してまで貫いたコンセプトだ。 → 東京ディズニーシー公式HP
その際に莫大な違約金が発生したことは容易に想像できるが、そこまでして「ディズニーシー」にこだわった理由はなんなのだろうか?
そして、「日本人に馴染みのある」景色とはいったいどのようなものなのか。今回は東京ディズニーシー(以下TDS)のリアルさについて調べてみた。
1.海外がテーマなのになぜか懐かしい
TDSは、7つのテーマポート(エリア)に分かれている。
南ヨーロッパの港町をモチーフにした「メディテレーニアンハーバー」
1920年代のニューヨークの町並みを再現した「アメリカンウォーターフロント」
未来都市をイメージした「ポートディスカバリー」
密林がある「ロストリバーデルタ」
中世アラビア風の「アラビアンコースト」
リトル・マーメイドの世界をモチーフにした「マーメイドラグーン」
ジュール・ヴェルヌの小説世界をモチーフにした「ミステリアスアイランド」
である。
とりわけ、メディテレーニアンハーバーとアメリカンウォーターフロントは実際にある街や地域をモチーフとしており、かつ日本人でもどこか懐かしいと感じる風景が広がっている。
恐らく、この景色こそがTDSのリアルさにつながるキーなのだろう。
そこで、主にこのエリアで見ることが出来るリアルさへとこだわりと演出について掘り下げてみたい。
2.メディテレーニアンハーバー
※撮影 gunny
「メディテレーニアン」とは地中海という意味で、主にイタリア北西部がモチーフになっているエリアである。
エントランスからホテル・ミラコスタの下を抜けると一気に視界が広がる。イタリアを思わせるBGMのなか、正面に大きな港、その奥にはプロメテウス火山がその姿を現す。
まさに「ディズニーシーに来た!」という感じがするが、ここでは実在する風景を連想させるような景色は存在しない。やはり、テーマパークとしてはイメージを優先させたいというのは仕方のないことだ。しかし、よく見れば細かい点でリアルさが浮き出てくる。
それが、ホテル・ミラコスタの外壁に見てとれる。このホテルの外観には本来存在しない場所に本物そっくりの窓が描かれているのだ。
「トロンプルイユ」というルネサンス期の絵画様式で騙し絵の一種だが、実際にイタリアの古い街などに使われている。これにより、実際よりも賑わいのある町並みを表現しているのだ。
そして、もうひとつがパラッツオ・カナルである。
ヴィネツィアをイメージしたこのエリアは、ホテル・ミラコスタの裏に位置しており、運河をゴンドラが行きかう。
ここの壁にもリアルさが再現されている。それが、壁に染み付いた水の跡だ。古来、ヴィネツィアでは洪水が多く、街の建物には増水して水位が上がった際の跡が残るという。
ここでも、良く見ると壁の一部がある高さを境に微妙に色が異なっている。知らなければ見過ごしてしまうようなポイントだ。
3.アメリカンウォーターフロント
メディテレーニアンハーバーから左手に進むと広がっているのが、20世紀初頭のニューヨークをイメージしたアメリカンウォーターフロントである。
正確には、1912年の設定でありこの年は豪華客船「タイタニック」が沈没したことで知られている。
※撮影 gunny
そして、ここでは二本の通りが伸びている。
一本は「ブロードウェイ」、そう今もエンターテイメントの街として名高い通りである。
そして、もう一本が「ウォーターストリート」。
※撮影 gunny
どちらも古き良きアメリカの町並みを再現しているが、よく見るとこの二本の通りの違いがわかる。
それが街灯だ。20世紀初頭は電化が進み、街灯も「ガス灯」から「電灯」へと切り替わっていった時代だった。そのため、ブロードウェイの街灯は電灯を、ウォーターストリートの街灯はガス灯が使われているのだ。
車道には路面電車の線路が敷かれているが、これも20世紀初頭におけるニューヨークのリアルな町並みを再現しているらしい。
というのも、この頃には車が普及し路面電車は衰退してしまったようである。
さらに、ブロードウェイの途中には地下鉄駅の入り口もある。ニューヨーク・デリという飲食店の隣だが、ここはティン・パン・アレーというニューヨーク初の地下鉄に実在した駅をモチーフにしている。 → ニューヨーク・デリ公式HP
4.ケープコッド
ニューヨークの町並みからさらに時計回りにパークを進むと現われる入り江がケープコッド(タラの岬)である。
アメリカのマサチューセッツ州にある同名の村がモデルとなっているが、ニューヨークとは対照的にのどかな港町だ。実在するケープコッドも、その名の通りタラを中心とした漁業が盛んな港町であり、ヨーロッパからの入植者が最初に入った土地のひとつである。
面積としては小さなエリアだが、ここにもリアルさは隠れている。その風景に馴染む小さな灯台だ。
アメリカ人にとっての灯台は「航海を見守り、帰る船を迎えてくれる温かな存在」と言われる。いわば、アメリカらしさそのものなのだろう。
しかし、そこには日本人との感覚に温度差もあるようだ。
日本人にとっては灯台に対してそこまで特別な感情を抱く人は少ない。事実、ディズニーランドにおけるシンデレラ城のようなパークのシンボルとして、計画段階でディズニー社は大きな灯台を提案したという。しかし、日本人には馴染みのないという理由から、オリエンタルランドはこれに反対した。
結果として生まれたのがエントランスに置かれた巨大な地球「アクアスフィア」だった。
※撮影 gunny
まとめ
東京ディズニーシーをリアルに感じることが出来る理由は「見えないこだわり」ではないだろうか。
ともすれば存在すら気付かない演出の数々。多くのゲストがモデルとなった土地を知らないながらも、どこか「懐かしいと感じる」のは、日本人が持つその土地のイメージの最大公約数的な町並みを再現しているからだと思う。
実際のケープコッドを知る外国人ゲストがケープコッドエリアを見た感想が
「確かにケープコッドに似ているけれど、ケープコッドとは違う。ここはどこにも存在しないイメージの街なのだ」
というものだったと聞いたことがある。
リアルさだけを追求してもリアルには勝てない。イメージの世界にリアルさを上手く混ぜることで、そのリアルさがより増すということなのだろう。
今度はそんなポイントも楽しんでみたいと思う。
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