事件史

【現在の詐欺の原型】 戦後から続くM資金詐欺 ~GHQの秘密資金で富裕層を狙う

GHQの秘密資金

戦後から続くM資金詐欺

※GHQ:連合国軍最高司令官総司令部が入った第一生命館(1950年頃撮影)

M資金詐欺 は太平洋戦争後の日本において、主に著名人、富裕層、財界人などの比較的社会的地位の高い層の人物を標的として行われてきた詐欺のことです。

「M資金」のMとは、戦後日本を占領したGHQ(連合軍最高司令官司令部)の経済科学局第二代局長を務めた軍人、ウィリアム・マーカット少将のイニシャルであるとするのが一般的な解釈のようです。

「M資金」はそうしたGHQとの関連を匂わせ、敗戦後の混乱の中で接収された巨額の資金が存在するかのように装ったものでした。

そして、その資金の融資を受けるための手数料などの名目で、標的とされた人物からお金を引き出すやめの設定として用いられた架空の資金でした。

元ネタのリアリティ

「M資金」の設定はひとつではありませんが、多くの場合太平洋戦争後に莫大な量の貴金属類がGHQの管理下に置かれ、元々それらが保管されていた日本銀行の地下金庫から極秘裏に運び出され・・・というような謂われを基本線としています。

これらの話に信憑性を持たせるものとして、GHQのマーカット少将の指示の下、接収に赴いた部隊員達による一部の隠匿行為が行われた事実があったため、これに尾ひれをつけて、まことしやかな伝説に仕上げられたものと言えます。また、実際にGHQの統制下にあった押収された資産は、日本の復興や賠償などに充てられたとされていますが、この内の一部が流用されて「M資金」となったとするものもありました。

他にも、敗戦時に旧日本軍が東京湾に大量の貴金属を秘匿した事件もあり、これが1946年4月にアメリカ軍によって発見された事などから、当時の人々に対してかなりの信憑性をもたせる素地があったものと考えられています。

詐欺師も多数存在

「M資金詐欺」の被害者となった人物の中には、全日空や東急電鉄の経営層にあった人物も含まれるなど、社会的地位の高い有名企業の責任者も含まれています。

当然、事件の露見による会社のイメージ・業績の悪化などを懸念して、公表していない案件も存在すると考えられており、実際の被害者がどの程度に上るのか、正確な数は判明していません。

また、「M資金詐欺」を行った加害者たちも複数存在しており、一説には最盛期には何万人もの詐欺師が暗躍していたとも伝えられています。

故・田宮二郎氏の場合

※田宮二郎氏

芸能界で「M資金詐欺」の被害者と見られたのが、俳優の故・田宮二郎氏です。

田宮氏は主演していた人気ドラマ「白い巨塔」の放送期間中に猟銃自殺を遂げたことで知られていますが、自殺の一因となったものが「M資金詐欺」による負債だったとも伝えられています。

この田宮氏を陥れたのが竹ノ下秋道という詐欺師でした。竹ノ下は、関東畜産協会理事という肩書を名乗って1977年頃に田宮氏に接触したと言われています。

アメリカ製の大型高級車リンカーンを乗り回し、都内の高級ホテルを住処として羽振りの良い人物を装った竹ノ下は、田宮氏に2000億円の低金利融資話を持ち掛けて信用させたとされています。

田宮氏は竹ノ下の融資話に乗せられて不動産購入などを進め、凡そ3億円以上に上る借入金を背負ったと言われています。

このとき竹ノ下は、手数料の900万円を田宮氏から手に入れると、勝手に田宮氏のツケにして宿泊していた高級ホテルの宿泊料500万円も踏み倒して行方をくらまし、その後田宮氏は非業の死を遂げる事になりました。

現在の詐欺の原型

「M資金詐欺」のやり方・手口は、開始されたと思しき1959年代からほぼ変わらないと言われています。

先の竹ノ下のように、高級外車や高級ホテルをツールとして用いる事で対象者を信用させるもので、ツールに多種の違いはありつつも、本質的には同様の手口を繰り返していると言えます。

そこまで大掛かりではないにせよ、昨今「劇場型」とも呼ばれ複数の人物が関与する「振込詐欺」なども広義にはこうした「M資金詐欺」から派生した詐欺行為であるといえます。

それらで用いられるもっともらしいワードの「執行手続」・「還付手続」などは「GHQ」や「旧軍の秘匿資金」といったものを簡易化したものと考えると、詐欺の構造自体は変わらないと気付かされます。

参考文献 : もう一つの戦後史 M資金が動き出す

 

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草の実堂編集部

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草の実学習塾、滝田吉一先生の弟子。
編集、校正、ライティングでは古代中国史専門。『史記』『戦国策』『正史三国志』『漢書』『資治通鑑』など古代中国の史料をもとに史実に沿った記事を執筆。

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