海外旅行のガイドブックでお馴染みの「地球の歩き方」は1979年の発行以来、旅人をしっかり支える強い味方として人気を博している。
現地の地図と街歩きの詳しい解説は評判を呼び、写真で見せる歴史や文化、世界の絶景が一冊にまとめられた『旅の参考書』ともいえる圧倒的な情報量が読者の心を掴んでいる。多くの旅行会社も「地球の歩き方」を推奨しており、旅には欠かせない必需品のひとつでもある。
電子書籍版が発行されると、持ち運びが便利になったと同時に、移動中でも情報を細かく確認できるようになったと早くも好評を得ている。しかし、昨今の新型コロナウイルスの影響を受けて、旅を提供する観光業界は大きな打撃を受け、旅行ガイドブックを発行する各出版社にもその損失が重く伸し掛かった。
「地球の歩き方」の新しい試み
これまで多くの観光地を含む、海外情報を発信してきた「地球の歩き方」に異変が起き始めている。
シリーズ初となる国内にスポットを当てた『東京編』の発行に踏み切ったのである。
この『東京編』は「地球の歩き方」創刊40周年と、『東京オリンピック2020』の開催を記念して制作を行ってきたものだが、シリーズ初の国内版というだけで、非常に大きな話題を呼んだ。
東京のエリアごとの街の歴史や老舗店の紹介、江戸時代を感じられるスポットなど、これまで東京を支えてきた伝統、聖地、食事に焦点を当てた内容となっている。
その後も、海外旅行の情報を提供するという「地球の歩き方」の趣旨を変更し、『旅の図鑑シリーズ』という新しい分野を開拓し始めた。
世界の『巨像』『聖地』『指導者』などテーマを絞り、内容を凝縮した図鑑シリーズの出版を継続している。中でも『世界のグルメ図鑑シリーズ』は、人気の海外グルメの掲載と共に、日本国内で本場の味を提供している店舗を紹介している。自由に海外旅行を楽しめる日を心待ちにしている読者へ向けた『海外と日本を繋ぐ架け橋』ともいえる濃い内容だ。
そして突然の「地球の歩き方」の方向転換に対し、真っ先に反応し応援を送ったのは他でもない「地球の歩き方」の愛読者、通称『歩き方ファン』たちだった。
旅好きの強い味方「地球の歩き方」を守れ!!
コロナウイルスの影響を受け、世界各国で観光目的の海外への渡航は非常に難しい状況が続いている。そのため、生活の中に旅行というイベントがなくなった『歩き方ファン』たちは、安心して旅行ができる日を心待ちにしながら「地球の歩き方」を読み返している状況だ。
2020年7月に突如、発売された『旅の図鑑シリーズ』を見た『歩き方ファン』のSNSの投稿がきっかけとなり、「地球の歩き方」の新しい試みに応援の声が殺到しているという。
「地球の歩き方は命の恩人」との感謝の言葉も相次ぐほどの反響で、長年の『歩き方ファン』たちからの心配とねぎらい、感謝の言葉が詰まった寄せ書きが「地球の歩き方」の編集部に届けられた。「地球の歩き方」の新しい方針には驚きと戸惑いも起きており、『旅の図鑑シリーズ』を初めて目にした瞬間、本気で生き残ろうとしている出版社の苦悩を感じ取った人もいた。
『旅の図鑑シリーズ』が2020年7月に発売された経緯としては、開催予定だった『東京オリンピック2020』の開会式に合わせ「地球の歩き方」と一緒にオリンピックを楽しんで欲しいという編集部側の想いがあった。しかし、新型コロナウイルスが世界的に猛威を振るい『東京オリンピック2020』は、1年延期という予想外の展開となってしまった。
そしてその翌年、2021年7月『東京オリンピック2020』が無事に開催されたことを受け、この機会に自分の子供たちにも『旅の図鑑シリーズ』勧め、次の世代に「地球の歩き方」を受け継いでいこうと『歩き方ファン』が動き出した。
シリーズ出版の存続を守りたい強い気持ちが『歩き方ファン』たちを突き動かしたのである。
「地球の歩き方」に共感する人々
従来の趣旨を大きく変更し、新しい挑戦に踏み切った「地球の歩き方」の行動に感銘を受けた読者の中には、旅館・ホテル業界で働く人々が多い。
「地球の歩き方」の異変に気づいた際、同じように経営に打撃を受けている自身の仕事に対する苦労と重なる部分があったからだ。
度重なる緊急事態宣言により県の行き来が困難な今、宿泊のキャンセルや旅行者の減少により経営が厳しく、事業から手を引く同業者も増えている。先の見えない不安の中、経営の存続をかけた新しい宿泊プランの提案や、宿泊料金の値下げに踏み切る経営者も多い。
そんな苦悩を経験しているからこそ「地球の歩き方」の編集部の努力と粘り強さに共感し、共に頑張りたい、勇気をもらったと支持する声が後を絶たないのだ。
支えられる側から「地球の歩き方」を支える側へ
『歩き方ファン』の応援の声はニュースでも取り上げられ、「地球の歩き方」の生き残りを賭けた新しい挑戦は全国に知れ渡り話題となった。
コロナ禍で『地球の歩き方』がピンチ? 生き残りを賭けた“背表紙”に6.7万人「切ない」「ぜったい応援する」
突然の反響に「地球の歩き方」を出版する学研プラスは、たくさんの『歩き方ファン』に支えられている実感と、本の趣旨変更はどうにか生き残ろうと足掻いてきた結果だという本音も語っている。
いつか旅行の再開が叶えられたときに、世界中が海外旅行祭りになることを予想して安全に旅を楽しんでもらえるように、今後も海外情報を提供する準備は続けていく方針だという。
『人生初めての海外旅行で地球の歩き方に助けられた』『地球の歩き方を読んだことで旅が好きなった』という、これまで「地球の歩き方」に支えられてきた読者たちが、次は「地球の歩き方」の存続を支えていく大切な存在になっていくに違いない。
この記事へのコメントはありません。