台湾北部の瑞芳区(ずいほうく)という山間に位置する観光の街「九份(きゅうふん)」。
日本統治時代の面影も見え隠れする「九份」の街並みは、海外からの観光客はもちろん、地元台湾の人々からも親しまれているスポットだ。
ノスタルジックな景色を眺めながら、台湾茶の作法や伝統的な茶器に触れられる茶藝館(ちゃげいかん)に立ち寄れることも「九份」観光の醍醐味である。

九份の街並み wiki c Σ64
日本では、ジブリ作品のファンの間でアニメーション映画『千と千尋の神隠し』のモデルになった場所ではないかという推測が始まったことで、台湾「九份」の存在が瞬く間に広まった。
当のスタジオジブリは、作品と「九份」に直接的な関係はないと否定をしているが、現地の「九份」では、『千と千尋の神隠し』に関連付けた茶藝館の宣伝や主題歌のBGMを流すなど、映画の雰囲気作りに徹している。
雨の日こそ風情がある「九份」の見どころ
山間部に位置する「九份」は、天候の変化が非常に激しい場所である。「九份」での散策途中や、現地に着いた途端に大雨に見舞われるという経験も多い立地だ。
せっかくの観光の日に悪天候となれば、晴天の日よりも行動範囲にも限りができてしまうというイメージが強いが、「九份」の場合は『雨の日こそ風情がある魅力的な街並み』との異名がある。
雨の雫や、その雫に反射する少しの光が「九份」の雰囲気を昔懐かしく彩るともいわれ、それは写真にも良い影響を与えてくれる。
特に雨上がりのうっすら霧に包まれた「九份」の姿は、映画のワンシーンを思わせる絶景だ。
小降りの雨でも決行される石畳の狭い階段に飾られた赤いランタンのライトアップは、幻想的な世界を生み出し、瑞芳区の山全体のイルミネーションとしての役割も果たしている。

夜の九份を照らすランタン
雨音の響く「九份」の茶藝館で過ごすひととき
「九份」の街に数件の茶藝館が立ち並ぶのは、雨の日でも気兼ねなく「九份」を存分に楽しめる環境を提供するためだ。
突然、降り出した雨を眺めながら味わう台湾の伝統茶は格別だという声も多い。
木製のテーブルとイスに腰を掛け、急に降り出した「九份」の雨の音を聴きながら台湾茶で一息入れる時間は、「九份」の魅力を身を以て体感できる瞬間でもあるからだ。
世界中の観光客から絶賛される人気の茶藝館といえば、こちらも『千と千尋の神隠し』の舞台として噂されている『阿妹茶酒館』、日本では『あめおちゃ』という愛称で呼ばれている場所である。
休憩と台湾のお土産選びを兼ねて立ち寄る人々も多いが、台湾伝統の茶器や伝統茶に触れる時間を目的に地元の台湾の人々も熱心に足を運ぶ、台湾を代表する茶屋としての顔も持つ。

伝統茶をもてなす様子
台湾に到来した3つの「九份」ブームとは!?
観光地として生まれ変わる前の「九份」は、わずか9世帯の家族で慎ましく暮らす民家が集まった集落であった。
買い物する際や、生活に必要な物資を依頼する際もこの9世帯の家族分、『9つ分』だけを用意することから「九份」という地名が名付けられたとされている。
1890年に「九份」の土地から金鉱が発見されたことで、突如「九份」に人々の活気が到来した。
9世帯の家族の生活や「九份」の静けさを一変させたこの出来事は、後に『ゴールドラッシュ』とも呼ばれ、1900年代前半まで続いた。しかし採掘できる金鉱の量に限界が見え始めた途端、人々の「九份」への関心は薄れ、熱心な採掘作業からも遠退いてしまう事態となった。
こうして最初の「九份」ブームは幕を閉じた。
その後、年月を経て再び「九份」が人々の活気を取り戻す切っ掛けが訪れる。転機となったのは、1989年に「九份」を舞台に制作された台湾映画『悲情城市(ひじょうじょうし)』の上映だった。

九份にある『悲情城市(ひじょうじょうし)』の垂れ幕
日本統治時代を終え、中華民国建国までの4年間を生き抜いたある家族の生き様を描いた本作は、これまで台湾で語られることのなかった多くの犠牲者を出した『二・二八事件』の描写を取り入れていることでも話題となり、当時の人々の苦しみや無念さ、悲しみを台湾全土に伝えた映画として賞賛を浴びた。
映画の人気に合わせて「九份」への観光事業も拡大させるなど、第2「九份」ブームの幕が上がったのだ。
そして第3「九份」ブームは、台湾国内のみならず世界から注目される切っ掛けとなるジブリ作品『千と千尋の神隠し』の爆発的人気と共に始まった。
作品のモデルになったという確証が得られていない中でも、作品の情景と類似しているという理由で「九份」の存在を知れたことに喜びや感動を覚える人々は圧倒的に多く、「九份」から作品のインスピレーションを受けたことを信じたいと願うジブリファンも大勢いる。

九份にある豎崎路(けんざきろ)
異なる視点や話題性から注目を浴び続けてる「九份」は、台湾という国を象徴する場所としての認知度も高い。
よって今ではもう「九份」ブームに頼ることなく、「九份」の風景そのものを視覚、聴覚、触覚で感じ取り、「九份」で味わう台湾茶を味覚、嗅覚で嗜むといった人間の五感で楽しめる最大の魅力を放つ街となっている。
この記事へのコメントはありません。