新しい研究によると、地盤沈下と海面上昇により、ニューヨーク、ボストン、サンフランシスコ、ニューオーリンズ、マイアミを含む32の米国の沿岸都市で、50万人以上が洪水の危険にさらされる危険があることがわかった。
このまま何も対策を講じなければ、2050年までの洪水による被害額は1070億ドルに達する可能性があるという。
米国の沿岸都市が直面する危機
米国人口の約30%が海岸沿いの都市に住んでいるが、その地域の海面はどんどん上がっており、2050年までには最大で30センチほど上昇すると予想されている。
海面上昇と地盤沈下は洪水リスクを高める二つの要因であり、同時に進行した場合、洪水がより発生しやすくなる。
従来の洪水予測でも海面上昇は予想されていたが、多くの米国都市の地盤沈下が深刻な速度で進むことは予想されていなかった。
今回、2024年3月5日に科学誌ネイチャーに掲載された新しい研究では、地盤沈下の影響も計算によってモデル化し、より深刻な洪水被害の可能性があることが明らかになった。
地盤沈下の原因
研究者によれば、これまでの洪水予測で地盤沈下が見過ごされてきた理由は、その変化が非常にゆっくりで短期間では気づきにくかったからだという。
つまり、地盤沈下は長年にわたって徐々に進行するため、従来の洪水予測の期間(数日〜数週間)では変化が顕著に現れず、見過ごされてきたということだ。
しかし、近年では地盤沈下による洪水被害が深刻化しており、長期的な視点で洪水予測を行うことが重要となっている。
20世紀以降、気候変動により氷河が溶けたり海水が温まったことで海水が膨張し、過去30年間で毎年約3.4ミリメートルの割合で海面が上昇している。
同時に沿岸地域の地盤はいくつかの要因が重なり、地盤沈下を加速させている。
・大都市の超高層ビル建設による重量負荷が増加
・最終氷期終了後の地殻変動による沿岸部の地盤低下の継続
・地下資源の大量採取による地盤の空洞化
具体的には、年間最大約5ミリメートルの速度で地面が沈み、海面はかつての予測の約3倍の速さで上昇していることが観測されている。
研究チームはレーダーで取得した32の米国沿岸都市の地盤沈下量を、洪水ハザードモデルに反映することで、海面上昇によるリスクをより正確に評価し、最もリスクが高い地域を特定するマッピングを行った。
その結果、大西洋岸、太平洋岸、そしてメキシコ湾岸の都市が対象となった。
研究チームは、作成した洪水マップと2010年の米国国勢調査データを組み合わせることで、将来の洪水による被害の規模を予測した。
具体的には、以下のような分析がおこなわれた。
・洪水によって影響を受ける人々の数
・洪水によって影響を受ける家屋や事業所の数
・洪水によって生じる経済的な損失
防災対策が何も講じられない場合、米国沿岸部に住む50人に1人、約28万戸が洪水の被害を受けることが予測されている。
さらに、被害の大部分は少数民族や低所得層に集中すると考えられている。
これは、これらの地域の人々が洪水リスクの高い地域に住む傾向があり、洪水から身を守るための資源や手段が不足しているためだ。
具体的には、以下の理由が挙げられる。
・少数民族や低所得層は、洪水リスクの高い地域に安価な住宅を求めて住む傾向がある。
・これらの地域の人々は、洪水保険に加入する余裕がない場合がある。
・洪水避難の際に必要な車や交通手段を持っていない場合がある。
・洪水に関する情報や警告を受け取るための言語能力や情報リテラシー不足。
沿岸地域を守るために必要な対策
このまま何も対策を講じなければ、多くの人々が住む場所を失い、経済的な損失も甚大なものとなってしまう。
そのような事態を避けるために、米国は天然ガスや地下水の採取を制限して追加的な地盤沈下を防ぐとともに、沿岸部の防御設備の強化を検討しているという。
1. 地盤沈下の抑制
地盤沈下は、天然ガスや地下水の過剰な採取によって引き起こされる。そのため、これらの資源の採取を制限することで、地盤沈下を抑制することができる。
2. 沿岸部の防御設備の強化
海面上昇を防ぐことは難しいため、沿岸部に防潮堤や水門などの防御設備を強化することで、洪水被害を防ぐ。
3. 住民の避難計画の策定
洪水が発生した場合に備え、住民が安全に避難できる計画を策定する。
4. 洪水保険の普及
洪水被害を受けた場合の経済的な損失を補償するために、洪水保険の普及を促進する。
5. 国際協力
海面上昇は地球規模の問題であるため、国際的な協力体制を強化し、共同で対策を進めることが重要。
世界規模で迫り来る地盤沈下の危機
アメリカ沿岸部の都市が直面している地盤沈下問題は、実は世界各地でも深刻化している。
専門家の予測では、2040年までに世界人口の19%が地盤沈下による影響を受けると考えられている。
これは、約14億人が洪水や地盤災害などのリスクにさらされることを意味している。
例えば、地下水の過剰な汲み上げは地盤沈下だけでなく、地球の傾きにも影響を与えていることが研究で明らかになっている。
これは地球規模で深刻な問題であり、早急な対策が必要だ。
インドネシアのジャカルタでも、過去10年で2.5メートルもの地盤沈下が発生し、首都機能を維持することが困難な状況となっている。
そのため、人口1100万人を超える都市の存続を懸念した政府は、2019年8月26日に首都をジャカルタからボルネオ島に移転することを発表している。
さいごに
気候変動に伴う海面上昇と、都市開発や地下資源の過剰な採取による地盤沈下が重なり合うことで、今後さらに深刻な洪水リスクが高まることが明らかになった。
この問題に対処するには、排出削減による温暖化対策と並行して、地盤沈下を抑制する対策にも早急に着手する必要がある。
また、沿岸部の防潮堤整備などの防御策も検討する必要があるだろう。
世界的にはすでに沈没が始まっている地域もあるため、実現可能な範囲の対策を世界的に検討することが急務だろう。
参考 :
Disappearing cities on US coasts | Nature
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