科学

ホメオパシー【ヨーロッパを中心として医療現場に今もある迷信】

日本でも死亡事故が発生

ホメオパシー【ヨーロッパを中心として医療現場に今もある迷信】

※ザムエル・ハーネマン

ホメオパシー はドイツ人医師であるサミュエル・ハーネマンが18世紀に提唱した、現在から見れば明らかに疑似科学の範疇に属する治療手法です。

今日の医学上からは「ホメオパシー」の効果・効能について、プラセボ効果(偽薬効果)を超えるものは確認されていませんが、その行為に用いられる「レメディ」と呼ばれる物質もそれ自体は有害なものではありません。

しかしこの疑似医療行為を信奉する事で本来必要な医療行為を遠ざけ、日本においても乳児の死亡事故が発生するなどの人災を引き起こしています。

この2009年に発生した事件は、犠牲となった乳児を担当していた助産師がホメオパシーの信奉者であったことから、通常の医療では乳児に投与されているビタミンKの代わりに「レメディ」を与えたために起きた痛ましい人災事故でした。

ナチス・ドイツも一時は肩入れ

「ホメオパシー」は前述のハ—ネマンが1796年に提唱した同種療法と呼ばれるものです。

ハ—ネマンは病気の原因となる物質は、同時に病気を治癒させる効果があるという仮説の下に療法を説きましたが、現在から見れば科学的には何ら根拠のないものでした。

しかしその後1930年代のドイツではベルリンで国際的な学会も行われるなど、時のナチス政権の庇護を受けて研究が行われるなどの隆盛を見せました。

しかしここでもプラセボ効果以上の結果を得る事は出来ず、公的な医療としては以後は徐々に衰退していきました。

ホメオパシー ギリシャ哲学との親和性

ホメオパシー【ヨーロッパを中心として医療現場に今もある迷信】

「ホメオパシー」の手法とは病気の原因となる成分を、その成分がほぼゼロに近いという状態まで水で希釈し、その希釈した液体を「レメディ」に浸み込ませてそれを服用するというものです。

これを継続することで、病気の原因となる症状を治癒させるという考え方に基づくものでした。その希釈度合が極めて高いことから、当然「レメディ」自体が人体に害を及ぼすことはないのですが、同時に薬効がある訳でもなくただ効果があるとハ—ネマンが主張しただけのものに過ぎませんでした。

しかしそうした「レメディ」の直接的な薬効ではなく、それを媒介として人間そのものが待つ治癒力を高めるものと説明されており、ある意味において古代ギリシャの哲学にも通じる神秘的な療法と考えられた点が信奉者を獲得した原因とも考えられています。

ヨーロッパでの需要の要因

今日の科学においては「ホメオパシー」はプラセボ効果を上回る結果はなく、療法そのものが明確に否定されていますが一部のヨーロッパの国においては代替医療として未だ一定の支持者が存在しています。

殊にイギリスでは王室が「ホメオパシー」に好意的なこともあり、「ホメオパシー」の医師が登録制のもと活動しています。同じくドイツやフランスにおいても、一部の疾患に対する保険の適用対象となるなど命脈を保っています。

この現状はいささか逆説的ですが、医療が著しい進歩を遂げていた18世紀以降も人体に有害な水銀を用いる誤った治療によって病状が悪化することも多かった時代にあって、少なくとも無害な「レメディ」を服用することでそれ以上の悪化はしなかったという事象も要因のようです。

今や信仰の一種

日本医師会・日本医学会は冒頭の2009年の乳児の死亡事故を受けて、医療関係者に対し「ホメオパシー」を患者の治療に用いる行為は慎むべきであると表明しています。

「ホメオパシー」は現在では疑似科学であると断定できる療法ですが、一時的にせよヨーロッパの医療現場において表面上はいえ効果を上げたように見えたことから信奉されたものでした。

人の持つ自然治癒力を発揮させようという考え方においては先見の命があったことも事実ですが、現代を生きる我々としては迷信であることを忘れてはならないものと言えそうです。

関連記事:
「創造科学」とは〜 科学と名のついた疑似科学の代表
「ホメオパシー入門書ではナンバーワンの内容」と、多くの読者の方から絶賛

swm459

投稿者の記事一覧

学生時代まではモデルガン蒐集に勤しんでいた、元ガンマニアです。
社会人になって「信長の野望」に嵌まり、すっかり戦国時代好きに。
野球はヤクルトを応援し、判官贔屓?を自称しています。

✅ 草の実堂の記事がデジタルボイスで聴けるようになりました!(随時更新中)

Youtube で聴く
Spotify で聴く
Amazon music で聴く
Audible で聴く

コメント

  1. この記事へのコメントはありません。

  1. この記事へのトラックバックはありません。

関連記事

  1. 「創造科学」とは〜 科学と名のついた疑似科学の代表
  2. 重力波が見せたブラックホールの成長について調べてみた
  3. 日本のAI技術が世界に普及する日が近い?【海外でも注目の日本のA…
  4. 【100年前にスマホを予見?】天才ニコラ・テスラが遺した未来の予…
  5. 「LK−99」が本物だったら、どんなことが実現するのか? 【世界…
  6. 新幹線について調べてみた 「ここまで違う!最高速度」
  7. あなたにもいずれ訪れる「死」、その先には何が? ~ライアン君の前…
  8. 体外離脱の体験談、信じてよい? 「歌手Tさんの幽体離脱体験」

カテゴリー

新着記事

おすすめ記事

1800年生まれるのが早かった 諸葛恪の天才エピソード

生まれるのが早すぎた天才諸葛瑾、諸葛亮の諸葛兄弟に親類の諸葛誕を含めた諸葛一族は、魏、蜀…

菊姫の悲劇 「戦国時代の怨霊伝説!権力争いに巻き込まれて18歳で惨殺される」

下剋上の嵐が吹き荒び、血で血を洗た戦国時代。渦巻く野望の犠牲となったのは、決して男性だけ、武士だけで…

家康が遭遇した『肉人』とは? 駿府城に突然現れた化け物「宇宙人か妖怪か?」

徳川家康が壮年期に築城し、晩年(66〜75歳ごろ)の隠居所として過ごした「駿府城(すんぷじょう)」。…

「科学は万能ではない」その思考こそ神への冒涜かもしれない

科学で分からないことは、たくさんあります。そしてそのことを一番わかっているのは、当の科学者か…

「中世ヨーロッパ、貴族の食事、農民の食事」を調べてみた

中世ヨーロッパは貴族と農民の間には食事の内容や作法は極端に区別されていました。主食今…

アーカイブ

人気記事(日間)

人気記事(週間)

人気記事(月間)

人気記事(全期間)

PAGE TOP