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町田ゼルビアの苦悩 ~スポーツ界全体を脅かすSNS誹謗中傷の闇 「カント哲学が示す倫理」

近年のスポーツ界ではSNSの普及に伴い、選手やチームに対する誹謗中傷が深刻化しています。サッカーのJリーグも例外ではなく、好調な成績を収めているFC町田ゼルビアも、心ない誹謗中傷の標的となっています。

今回の記事では、FC町田ゼルビアが直面している誹謗中傷問題を考察したいと思います。

FC町田ゼルビアへの誹謗中傷

FC町田ゼルビアは、2023シーズンにJ2リーグを優勝し、J1リーグに昇格。今シーズンも躍進を続け、現在(10月20日)リーグ3位と好成績を収めています。

しかし好調な成績の裏で、SNS上での選手や監督、クラブに対する誹謗中傷が急増しています。

クラブによると「存在が粗大ごみ」「ヤクザ」といった悪質な書き込みが相次いでいるとのことです。また選手やスタッフの写真に対する侮辱的なコメントも多く見られます。

このような誹謗中傷は単なる批判や意見の表明を超えて、人格を否定する悪質なものであり、選手たちに大きな精神的負担を与えています。

SNS上では「町田にも原因がある」という意見が見受けられることもありますが、これらには全く正当性がありません。後述するように誹謗中傷は、どのような理由でも許される行為ではないからです。

FC町田ゼルビアの毅然とした対応

FC町田ゼルビアは、こうした誹謗中傷に対して毅然とした対応を取ることを決断しました。

10月6日には、誹謗中傷に関する情報提供窓口を設置し、ファンやサポーターからの情報収集を開始。集まった情報に基づき、クラブは顧問弁護士を通じて、名誉毀損罪および信用毀損罪で複数の投稿者を告訴しました。

クラブの社長である藤田晋氏は「もう限界です」と強い口調で語り、誹謗中傷を看過しない姿勢を明確に示しました。

藤田氏は、これらの誹謗中傷が選手たちのプレー環境を悪化させ、クラブ全体の活動にも悪影響を及ぼす可能性を懸念しています。

誹謗中傷は決して許されない犯罪行為

法律の観点から見ても、誹謗中傷は決して許される行為ではありません。誹謗中傷は以下の2点で、日本国憲法に抵触する可能性があります。

個人の尊厳の侵害:人格を否定し、名誉を傷つける行為であり、憲法13条で保障された個人の尊厳を著しく侵害します。

表現の自由の濫用:憲法21条は表現の自由を保障していますが、無制限の自由を認めているわけではありません。他人の権利を侵害するような表現行為は許されず、誹謗中傷はまさに表現の自由を濫用した行為と言えます。

また誹謗中傷は、刑法上の犯罪に該当する可能性もあります。

名誉毀損罪(刑法230条):公然と事実を摘示し、人の名誉を毀損した場合に成立します。

侮辱罪(刑法231条):事実を摘示しなくても、公然と人を侮辱した場合に成立します。

これらの罪に問われた場合、懲役や罰金などの刑罰が科せられます。

相手にも原因があるから…という論理は完全に間違っている

画像:ドイツの哲学者イマヌエル・カントは倫理(道徳)の重要性を何よりも強調した public domain

「誹謗中傷される側も原因を作っているから誹謗中傷は許される」という論理は「いじめられる側にも原因があるからいじめは許される」と全く同じであり完全に間違っています。

どんな理由があろうとも、誹謗中傷は決して許される行為ではないのです。

相手が何か悪いことをしたとしても、それは法的に裁かれるべきことであり、個人が勝手に誹謗中傷をしていい理由にはなりません。

FC町田ゼルビアに関して言えば、非紳士的な振る舞いや荒いプレーが問題であれば、審判がルールに基づいて判断をすべきです。あるいはチームやJリーグに対して正式に抗議をすることもできます。SNSなどで選手や監督個人を誹謗中傷するのは、全くの筋違いです。

このような誤った論理は「法律」という客観的なルール、そして「感情」という主観的な要素を同じ土俵で混同してしまうことから生じていると考えられます。

カントが「定言命法」で述べたように、法律は普遍的な倫理に基づく客観的なルールであり、個人の感情や欲望を超越した行動の基準です。

一方の感情は人間の内面的な経験に依存し、ルソーの社会契約論が示すように、共同体内の秩序を維持するために抑制されるべき個人の衝動でもあります。

「主観」と「客観」を混同することは、カントが追求した普遍的な道徳法則の実現を妨げ、感情による主観的判断が社会全体の秩序を侵害する危険性があります。

誹謗中傷をきちんと罰する社会的風潮を

今回問題となったFC町田ゼルビアの事例は、スポーツ界における誹謗中傷の深刻さを改めて浮き彫りにしました。

誹謗中傷は被害者の尊厳を傷つけるだけでなく、スポーツ界全体の健全な発展を阻害する要因にもなります。

誹謗中傷をなくすことは容易ではありません。しかし、FC町田ゼルビアの毅然とした対応がきっかけとなり、誹謗中傷をすれば罰せられるという社会的な風潮が生まれることを期待したいと思います。

参考文献:カント(2012)『道徳形而上学の基礎づけ』(中山元 訳)光文社
文 / 村上俊樹

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“進撃”の元教員 大学院のときは、哲学を少し。その後、高校の社会科教員を10年ほど。生徒からのあだ名は“巨人”。身長が高いので。今はライターとして色々と。フリーランスでライターもしていますので、DMなどいただけると幸いです。
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コメント

    • 名無しさん
    • 2024年 10月 21日 6:17am

    誹謗中傷と批判の割合はどれぐらいなのか
    批判も誹謗中傷としてかわそうとしているフシがある

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