エウロパサウルスを飼いたいあなたへ
超巨大恐竜の宝庫であるブラキオサウルス科だが、2006年にブラキオサウルス科の恐竜として加わったエウロパサウルスは孤立した島に取り残されたため、島嶼化(とうしょか)という現象によって飼育可能なサイズまで小さくなっていた。
今の地球に存在する動物の中で、キリンはエウロパサウルスとサイズがほぼ同じであるため比較対象として適しているが、実は、キリンは2020年6月に動物愛護法が改正されるまでは、行政からの許可を得れば個人で飼育する事が出来た。
もっとも、日本でキリンを飼育している家庭は見た事がないし、法が再改正されて再び飼育出来るようになってもお目に掛かる事はまずないだろうが、キリンを飼育する事が理論上可能であれば、エウロパサウルスも個人で飼育する事が出来るのではないだろうか。
今回は、キリンと同じ条件でエウロパサウルスを飼ったらという仮定で、エウロパサウルスの飼育に必要な知識と法律を紹介する。
エウロパサウルスの餌代は?
まずは、エウロパサウルスを飼うにあたって、毎日の出費が避けられない餌代を計算する。
番組の取材等で餌代を公表している動物園によってバラツキはあるが、キリンの餌代は年間で約120万円(ゾウの餌代は約420万円)と言われている。
ゾウに比べたら安上がりではあるが、キリンを飼うためには車の維持費など話にならないレベルのお金が必要であり、サイズを考えたらエウロパサウルスもキリンと同じかそれ以上の餌代が必要になる。(エウロパサウルスがキリンと同じ食生活である事を前提に考えると、市販の牧草やペレットで満足してくれれば食費は最も安上がりで済む)
ある種の屁理屈で、エウロパサウルスを近所の山にでも散歩させて、ついでに木の枝を食べさせたら餌代の節約になるという意見もあるかもしれないが、キリンの一日の食事量は約70キロなので、エウロパサウルスもそれに近い量を食べると考えたら山から木が消えてしまう。
家庭で野菜を作っている家庭なら収穫ついでにエウロパサウルスに食べさせるのもありだが、自分達の食べる分が残らないどころか、一年分の収穫量が一食でなくなってしまうから、やはりこれも現実的ではない。
また、エウロパサウルスが逃げ出さない(そして家が壊されない)ために必要な檻にもかなりの費用が必要となるため、餌代は勿論、初期費用もかなりの値段が必要になると覚悟しなければならない。(キリンは1000万~1400万との事なので、エウロパサウルスも現代に生きていればかなりの値段になっていたと予想する)
エウロパサウルスの散歩
ブラキオサウルスに比べたら小さいとはいえ、人間からすると見上げるほど大きなエウロパサウルスには運動(散歩)も必要だ。
エウロパサウルスの散歩をする前に必要な知識として、道路交通法には以下の条文がある。
道路交通法施行令(昭和35年政令第270号)
(車道を通行する行列等)
第7条
法第11条第1項の政令で定めるものは、次の各号に掲げるものとする。
(一、二 略)
三 象、きりんその他大きな動物をひいている者 又はその者の参加する行列
日本で普通に生活している限り、ゾウやキリンを引いて歩く人と遭遇するのは99.9999%有り得ないシチュエーションだが、最近まではキリンを家庭で飼育する事が出来たので、キリンの散歩をする時は飼い主も一緒に車道を歩く事が義務付けられていた。
エウロパサウルスがキリンと同じ扱いを受けた場合、エウロパサウルスも散歩をする時は車道を歩かなければならないが、後ろから来る車の危険と隣り合わせである事も含め、かなりの苦労をする事は容易に想像出来る。
クロスバイクやロードバイクといった、スポーツ用自転車で車道を走る時も背後から来る車の恐怖と戦いながら走るのだから、例えばエウロパサウルスの背中に乗って街中を闊歩するなんていうのは、想像以上に大変だということになる。
エウロパサウルスは軽車両?
道路交通法の動物に関する法律には、次の条文がある。
道路交通法2条1項11号
自転車、荷車その他人若しくは動物の力により、又は他の車両に牽引され、かつ、レールによらないで運転する車(そり及び牛馬を含む。)であつて、身体障害者用の車いす、歩行補助車等及び小児用の車以外のものをいう
要するに、馬車や牛車のように動物によって牽引される車は「軽車両」であり、法律的に牛や馬は免許を必要としない軽車両扱いとなっている。(余談だが、馬に乗った状態で実際にファーストフード店のドライブスルーを利用する事は可能である)
馬でOKなら馬車でもってことで、馬車でもドライブスルーできるようです。(画像について、問題があれば削除いたしますので、お知らせください) #馬 #マクドナルド pic.twitter.com/kLzE3azljm
— 日本社会人団体馬術連盟 (@JBG_Shabaren) May 20, 2013
ゾウやキリンが人間を乗せて移動する事はまずないので法律には書かれていないが、エウロパサウルスが牛や馬のように軽車両扱いの動物として認められれば、エウロパサウルスの背中に乗って通勤したり、ドライブスルーを利用したりする事が出来るようになる。
軽車両であると認められればエウロパサウルスの背中(もしくはエウロパサウルスが牽引する車)に乗って散歩が出来るようになるが、軽車両である以上、エウロパサウルスも道路交通法の対象となる。
酒気帯び乗恐竜、及び飲酒乗恐竜は当然ながらご法度であり、赤信号は一旦停止をしなければならない。(乗馬の練習で公道を走るのは勿論、馬車に乗って公道を移動する場合でもこの法律は適用されるため、馬や牛に乗って公道を移動する際には交通ルールの遵守が求められる)
ちなみに、夜間の通行に必要なライトを用意すれば夜道も歩ける(エウロパサウルスの背中に乗って夜の散歩をするなら、ヘルメットの前後にライトを着けて周囲の車にアピールすれば恐らく夜間の公道を歩ける)が、他の車の邪魔にならないよう、車を運転する以上に神経を使う必要がある。
エウロパサウルスにとって一番の幸せは?
今回はキリンをベースにエウロパサウルスが飼育出来るか検証したが、結論を述べると、ルール等の関係で飼育が認められるかはさておき、エウロパサウルスの飼育には多額の予算と膨大な労力が必要になる。
エウロパサウルスが現代に生きていたら「飼えるブラキオサウルス」として人気を得た可能性は高いが、万が一許可を得て飼う事が出来たとしても、金銭的な問題やエウロパサウルスがストレスなく生活出来る、広大なスペースの確保など多くのクリアすべき問題がある。
恐竜の一生を世話するために数億単位のお金を使っても惜しくないという愛情は勿論、それだけの資金と土地に余裕のある資産家ならともかく、ローンで一軒家を購入したサラリーマンが、家を買った記念に犬を新しい家族として迎える感覚でエウロパサウルスを飼うのはお勧めしない…というか、はっきり言って不可能である。
全世界の大半の人間は残念ながらエウロパサウルスを飼う事が出来ないが、動物園なら十分に飼育が可能である。
ファンとしては、エウロパサウルスがゾウやキリンに負けない人気者になっていた世界線を是非とも見たいところだが、エウロパサウルスも野生の動物である。
食料の少ない島に住むのは大変そうに感じるが、結局のところ、エウロパサウルスにとって住み慣れた環境で暮らすのが一番幸せだったのかもしれない。
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