恐竜

スピノサウルスの帆の謎 【ラジエーター説、泳ぎ説、筋肉説 他】

100年経っても明らかにならない謎

21世紀に入ってから スピノサウルス の快進撃が続いている。

第二次世界大戦の空襲で化石が焼失する悲劇に見舞われたが、20世紀末に新たな化石が発見されてからは続々と新たな発見があり、毎年のように新たな説が生まれている。

その充実ぶりは研究面だけでなく、映画でも『ジュラシックパーク3』の主役恐竜に抜擢される活躍ぶりで、近年最も「ホットな恐竜」と呼んでも過言ではない。

2020年にはオール状の尾ひれが発見されて、水中で行動するのに適していたという説が有力になるなど、スピノサウルスの勢いは衰える気配がないが、最初の発見から100年以上経っても分からない「」がある。

それは、トレードマークとして欠かせない背中の突起である。

スピノサウルスの帆の謎

現時点のスピノサウルス復元図(2020年)

船の帆を連想させる、1.8メートルと人間よりも大きな背中の突起はスピノサウルスと聞いて真っ先に思い浮かぶものであり、恐竜に詳しくない人でも一度は見た事があるほど有名ではあるが、決定的な証拠が今も発見されていないため結論が出ていない。

今回は、スピノサウルスの背中の突起に関する様々な説を紹介する。

ラジエーター説

スピノサウルスの帆の謎

自動車のラジエーター

発見当初にポピュラーな説だったのが、ラジエーター説である。

スピノサウルスの背中にはこの突起を主体にした帆があり、この帆をラジエーターにして体温を調節していたという説だ。

当時のスピノサウルスの生息圏であるアフリカ北部に生息していたオウラノサウルスや、レッバキサウルスといった複数の恐竜に同じような帆があった事から、過酷なアフリカの気候に適応するよう進化したと考えられている。

スピノサウルスの帆の謎

オウラノサウルスの想像図

環境に適応するのは大事であり、この説を支持する者は多数存在するが、骨の内部をCTで調べたところ、スピノサウルスの突起に血管など体温に関係したものは確認されなかったため、ラジエーター説を疑問視する声もある。

最新の研究では否定されているが、研究次第では再度覆る可能性もあるので、今後も注目すべき説である。

泳ぎに使っていた説

スピノサウルスは近年の研究によって水辺の生活に適した姿をしていた説が有力になっているが、それと同時に、背中の突起を舵や帆として泳ぎに使っていたという説が注目を浴びるようになった。

魚の背びれには方向制御や姿勢を安定させる役割があり、水中で行動するのに重要な役割を担っている。

2020年にスピノサウルスに尾ひれが発見された事もあり、背中の突起は背びれの役割を果たしていたという訳だ。

スピノサウルスが水辺の生活に適した進化をしたのであれば、尾ひれや背びれがあったとしても不思議ではないし、他の恐竜とは一線を画した容姿でも、それで彼らが生活しやすいのであれば筋は通る。

説が提唱されたばかりで、今後の研究の発表を待つしかないのが現状ではあるが、スピノサウルスは尾ひれというこれまでの常識を覆しただけに、背びれを持った恐竜として歴史を変える可能性が大いにあるので、今後に期待したい。

実は筋肉だった説

大きく盛り上がった背中が特徴的なバイソンだが、骨格を見ると背中は突起状になっており、一見するとスピノサウルスに似た形になっている。

スピノサウルスの帆の謎

アメリカバイソン

胴長短足の四足歩行に尾ひれといった他の肉食恐竜とは大きく異なった特徴と照らし合わせて考えると、背中は実は筋肉の盛り上がりだったというのは正直考えづらい(これまでの恐竜の常識を覆し続けて来た結果、ただでさえアンバランスな姿になっているのに、これ以上新たな設定が増えたら収拾が着かなくなる)が、発見の度に大きく姿を変えているスピノサウルスだけに、現実的ではない説も安易に否定する事は出来ない。(四足歩行と書いたが、二足歩行だったと主張する声も少なくないため、容姿に関する議論はしばらく終わりそうにない

ディスプレイ説

トサカなど特徴的ながらも用途がはっきりしない化石が発見された時に、取り敢えず挙げられるのがディスプレイ説である。

ディスプレイ」という言葉を簡単に解説すると、自分を目立たせたり、相手を威嚇するための飾りである。

ディスプレイ説はスピノサウルスの発見当初から言われており、イラストでは派手なデザインの帆を描かれる事も多々ある。

生きた恐竜を見た人は存在しないので、スピノサウルスが派手な帆を持っていたかどうかは想像するしかないが、用途は一つしかないという事もないので、本来の目的以外にディスプレイとしても使われた可能性は十分に考えられる。

スピノサウルスの快進撃は止まらない

スピノサウルスの帆の謎

2020年以降の復元図。鶏冠を持ったワニ様の頭蓋骨、手の大型の爪、および水棲生活に適応した短い四肢が特徴

今回はスピノサウルスの帆に関する説を紹介した。

どれもそれなりの根拠と説得力があるが、確定となる証拠がまだ見付かっていないため、スピノサウルスの帆は○○だったと断言する事は出来ない。

そもそも、スピノサウルスの研究が進んだのがごく最近の話であり、まだまだ謎に包まれた恐竜である。

今後の発見次第では新説が生まれ、それとともに新たなスピノサウルス像が生まれる事も十分に有り得る。

続々と生まれる新説によってファンを熱狂させるスピノサウルスの快進撃はしばらく止まりそうにない。

関連記事:
スピノサウルスの発見から現在に至るまでの研究の歴史
ブラキオサウルス 「巨大恐竜界のスーパースター 」

アバター画像

mattyoukilis

投稿者の記事一覧

浦和レッズ、フィラデルフィア・イーグルス&フィリーズ、オレゴン州立大学、シラキュース大学を応援しているスポーツ好きな関羽ファンです。

✅ 草の実堂の記事がデジタルボイスで聴けるようになりました!(随時更新中)

Youtube で聴く
Spotify で聴く
Amazon music で聴く
Audible で聴く

コメント

  1. この記事へのコメントはありません。

  1. この記事へのトラックバックはありません。

関連記事

  1. マーシュとコープの化石戦争 「二人の学者による壮絶な恐竜の化石発…
  2. ティラノサウルス「スー」は誰のもの? 【化石が不動産とみなされ土…
  3. 『1万年前に絶滅したオオカミが復活?』DNA操作で生まれたダイア…
  4. 『アジアのティラノサウルス?』タルボサウルスとは ~恐竜界を揺る…
  5. なぜ世界中の異文化で「ドラゴン神話」が誕生したのか?
  6. 『恐竜界に激震』T-REXの“進化の空白”を埋める新種・カンクウ…
  7. もし恐竜が現代にいたら人間と一緒に働くことはできるのか?
  8. スピノサウルスの発見から現在に至るまでの研究の歴史

カテゴリー

新着記事

おすすめ記事

『北欧で進む徴兵制』ウクライナ侵攻がもたらした北欧諸国の軍備強化

ロシアによるウクライナ侵攻(2022年2月24日開始)は、欧州の安全保障環境を一変させた。…

カップラーメンの歴史 【ハプニングで生まれた?】

もはや、日本だけでなく世界のソウルフードとなったカップラーメン。近年、値上がりが激しいものの…

JAXAの月探査機「SLIM」がマイナス170度の夜で休眠中 「再起動なるか?」

JAXAの月探査機「SLIM」は、1/31の運用を最後に、マイナス170℃の極寒の夜…

今話題の性別変換アプリ「3日後に2000円課金される?」※サブスクリプション解除方法

今、SNSで話題沸騰中の性別変換アプリ「FaceApp」。美しく劇的に変化することが…

【謎の飛行物体X】NASAも関与する計画について調べてみた

※未確認飛行物体UFO(unidentified flying object/未確認飛行…

アーカイブ

人気記事(日間)

人気記事(週間)

人気記事(月間)

人気記事(全期間)

PAGE TOP