宇宙

重力波が見せたブラックホールの成長について調べてみた

強力な重力を持ち、周りのあらゆるものを飲み込む天体「ブラックホール」。

その姿を直接見ることは出来ず、今なお多くの謎を秘めている。なかでも最大の謎が、「成長の謎」だった。

ブラックホールは、誕生するとき太陽の質量の数十倍にしかならないことが理論上分かっている。しかし、宇宙にはその何百万倍もの質量を持つものが存在しているのだ。

この超巨大なブラックホールはどのようにしてできたのか。

その謎を解く手掛かりは、2016年に直接検出に成功した「重力波」にあった。

ブラックホールの誕生

ブラックホールの誕生

【※空間の歪み】

ブラックホール研究の始まりはおよそ100年前。天才物理学者アルバート・アインシュタインにまで遡る。

一般相対性理論のなかで予言したのが、「質量を持つ物体があるとその重力によって空間が歪む」ということだった。ベッドの上にボーリングの玉を乗せると沈み込む様子を想像してもらいたい。その後、ドイツの物理学者カール・シュヴァルツシルトが、重力で空間がどこまで歪むのかを計算した。

すると、例えばある天体を限りなく一点に収縮させると空間は無限に歪んで、光ですら脱出できないことが分かった。これが、理論が導き出した天体「ブラックホール」である。ならば、一体どんなときに天体は一点に収縮するのだろうか?

研究で明らかになったのは、太陽の30倍以上の質量を持つ重い恒星が一生を終えるときのことだ。

恒星の内部では「水素などの軽い元素が次々と反応して重い元素となり、最後には鉄に変化する」いわゆる「核融合反応」を起している。この核融合によって生じる「膨張する力」と、「重力によって収縮しようとする力」が吊り合っていれば星はその形を保てる。だが、星がその一生の終わりを迎え、核融合の燃料がなくなると膨張する力がなくなるため、星は急速な収縮を始めて超新星爆発を起すのだ。

その後に残るのが、恒星の質量にもよるが太陽の30倍以上あれば、限りなく小さく収縮した天体「ブラックホール」となる。

重力波が鍵?

当初はアインシュタインですら存在を否定していたブラックホールだが、今ではほとんどの銀河の中心に超巨大ブラックホールがあることが分かっている。

その重さはなんと太陽の質量の100万倍以上。もちろん、我々の住む天の川銀河の中心部にも超巨大ブラックホールは存在している。その質量は太陽の400万倍あるのだが、この超巨大ブラックホールが新たな謎を生み出した。

問題はその「重さ」である。通常のブラックホールの重量はせいぜいが太陽の10数倍だが、超巨大ブラックホールの重量は太陽の100万倍以上ある。では、どうやって10数倍が100万倍まで成長したのか?その謎を解く鍵が「重力波」だった。

質量の大きな天体が動くと、その重力で空間は歪む。この歪みが波のように伝わる現象が重力波だった。存在の予言から検知に成功するまで「アインシュタイン最後の宿題」と呼ばれていた現象である。

ブラックホール同士の合体

重力波の直接検知の成功を喜んだのは研究者たちだけではない。ブラックホール研究者たちにとっても朗報だった。

今までブラックホールは小さなものが合体して大きくなってゆくと考えられてきたが、誰も確認したことがなかった。そこで注目されたのが重力波である。重力波を観測できる天文現象は「超新星爆発」「中性子星合体」、そして「ブラックホール合体」3つが考えられており、2016年に観測された結果は、ブラックホール同士の合体を示すものだったのだ。

太陽質量の36倍と29倍のブラックホール同士が合体し、62倍のブラックホールが誕生。その際に重力波を放出したことが分かったのである。さらに2度目に成功した観測では、太陽質量の8倍と14倍のブラックホールが衝突し、22倍のブラックホールに成長したときの重力波であった。

空白の質量

ブラックホール同士が合体することで成長する。そのシナリオが重力波によって証明された。

だが、あまり衝撃の大きさに多くの研究者がすぐには信じられなかったという。2度目の観測でようやく信じることが出来た研究者もいたほどの大発見だ。

だが、同時に予想を変える発見もあった。物理学者たちは、ブラックホールになれなかった天体、「中性子星同士の合体」が先に発見されると思っていたが、ブラックホール同士の合体の方が先に、しかも2回連続で観測できたからである。これにより、ブラックホールの合体は頻度が高いのではないかと考えられるようになった。そして、重力波の観測には合体だけでなく、もうひとつ大きなポイントがある。それが「質量」だった。

2016年に観測された62倍の質量のブラックホールこそ、研究者たちが長年追い求めてきたものだったのだ。

太陽の10数倍の質量を持つブラックホールは「恒星質量ブラックホール」と呼ばれているが、銀河系内でも数十個が発見されている。一方、銀河の中心で発見されるブラックホールは、100万倍以上の質量があり、その間がポッカリと空いていた。

中質量ブラックホール

恒星質量ブラックホールと100万倍以上の質量のブラックホールとの中間は「中質量ブラックホール」と呼ばれてはいるが、存在は確認されていない。

そして、今回注目したのが、62倍のブラックホールが出来たということである。これにより、小さなブラックホールが中質量ブラックホールを経て、超大質量のブラックホールに進化していくという道筋が見えてきた。

そして、ブラックホールを観測することは、時に他の大発見もある。天の川銀河のブラックホールを観測していた研究者が、宇宙空間を漂うガスに注目した。ガスは電波を発するのだが、この電波を調べることでガスの動きをシミュレートすることができる。

その結果、ブラックホールからわずか200光年の距離にあるガスが不思議な動きをしていることが判明した。そして、分析により、このガスは重力によって激しく振り回されていることが分かり、さらにガスの動きから近くにある巨大な重力を持つ天体の存在が分かったのである。

そう、銀河の中心にある超巨大ブラックホールのすぐ近くにもうひとつのブラックホールがある可能性が見えてきたわけだ。このときの重力源の質量は、太陽の10万倍と考えられ、結果的に「中質量ブラックホール」の可能性が示されたのだった。

最後に

直接的な観測はされていないが、長年にわたって研究者たちを悩ませてきた中質量ブラックホールの存在が見えてきた。そして、銀河系の中心領域にはさらにいくつかの中質量ブラックホールの候補天体が見付かっているという。

どれも10の4乗(1万倍)以上の重さが中心付近にあると考えられており、もしその存在が確認されれば、ブラックホールの研究はさらに加速することは間違いない。

関連記事:中性子星
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