JAXAは、種子島宇宙センターから2024年2月17日(日本標準時)に、H3ロケット試験機2号機の打ち上げに成功した。
およそ1年前の2023年3月、日本の最新鋭H3ロケット試験機1号機の打ち上げに失敗し、280億円相当の観測衛星も失っていた。
リベンジを期待される中で打ち上げを成功させ、SLIMの成功と共に、激化する宇宙開発競争へのはずみをつけた。
H3ロケットは、同タイプのロケットとしては約20年ぶりに全面改良された「高性能、低コスト、高輸送能力」を兼ね備えた、次世代の最新鋭ロケットである。
今後約20年間、さらに改良を続けながら生産・運用が続けられることことになっている。
本稿では、H3ロケット打ち上げの背景と、宇宙開発、宇宙ビジネスの関わりについて説明する。
目次
JAXAによる打ち上げ成功の報告
JAXAはつぎのような公式発表を行った。
国立研究開発法人宇宙航空研究開発機構(JAXA)は、種子島宇宙センターから2024年2月17日9時22分55秒(日本標準時)に、H3ロケット試験機2号機を打ち上げた。
ロケットは計画どおり飛行し、第2段機体を所定の軌道に投入するとともに、打上げから約16分43秒後にCE-SAT-IEを分離したことを確認。
また、第2段機体の地球周回後のデータにより、TIRSATへの分離信号送出、第2段機体の制御再突入の実施、ロケット性能確認用ペイロード(VEP-4)の分離を確認。
JAXAの山川宏理事長は記者会見で、「長年宇宙開発に携わってきたが、今日ほどほっとしたことはない」と述べ、H3打ち上げ成功と、H3開発の迅速化に対する組織のプレッシャーを反映した声明となった。
他国が宇宙技術開発を進める中、JAXAはH3ロケットの早期実用化を目指していた。
本プロジェクトは徐々に商業運用に移行し、SpaceXなど、他の打ち上げサービスプロバイダーと競争していくことになる。
H3の概要
H3ロケットは、日本が誇る次世代の大型基幹ロケットだ。
宇宙開発は、私たちの生活に不可欠な技術やサービスを生み出すだけでなく、人類の未来を拓く重要な役割を担っている。
H3ロケットは将来の宇宙開発を支える重要な存在として、現在運用中のH-IIAロケットの後継機として開発されている。
H3ロケット開発プロジェクトの目標は以下となっている。
・打ち上げ費用の削減、
・静止軌道打ち上げ能力の増強、
・打ち上げ時の安全性の向上、
・年間打ち上げ可能回数の増加
・宇宙開発における日本の自立性確保
・商業受注で国際競争力のあるロケット
さらに以下のような、開発に関する目標も立てている。
・年間打ち上げ可能回数の増加による産業力の維持
・新規ロケット開発機会の提供による技術力の維持
・老朽システムの刷新
H3は2014年から開発が開始され、総開発費は約2,200億円。
H2ロケットを原型とした改良開発であったH2A/H2Bと違い、H3ロケットは完全に新しい設計概念に基づいた「大型液体燃料ロケット」としてはH2以来の新規開発ロケットとなる。
H2A/H2Bシリーズは2025年3月末に引退予定だが、H3はそれらの高い信頼性を継承し、さらに発展させることを目指している。
実際、H2A/H2Bシリーズは57回の打ち上げのうち56回成功しており、その高い実績が期待されている。
初となる民間企業主導でのロケット開発
打ち上げは宇宙航空研究開発機構(JAXA)が主導し、三菱重工業(MHI)が製造を担当した。
日本では、ロケット機体の設計・開発段階から、民間企業が中心的役割を担うのは初めてとなる。
三菱重工は記者会見で、「H3は、日本のモノづくり伝統を受け継いだ、信頼性と正確さを売りに市場に参入する」とコメントしている。
日本らしい宇宙開発の実績
アメリカと中国が宇宙開発で世界をリードする中、日本は「科学探査、宇宙ゴミ除去、自然災害・気候変動観測」などニッチな分野での確立を目指している。
今回成功したH3ロケットは22年ぶりとなる日本の新型ロケットで、打ち上げられたのはわずか2回だ。
しかもこの機体はまだ試験機扱いにもかかわらず、目標地点からわずか1km未満の軌道に、2基の小型衛星を投入することに成功したのだ。
そして日本は、2024年1月に世界で5番目となる月面軟着陸を成功させている。
この月面着陸実証機「SLIM」は、目標の着陸地点からわずか55メートル以内に着地し、どの国も成しえなかった初のピンポイント着陸を達成したのだ。
今回のH3ロケット打ち上げ成功は、この快挙に続く大きな前進となる。
SpaceXとの価格競争
液体酸素と水素を燃料とするH3ロケットは、従来機よりも低コストかつ高出力だ。
打ち上げコストを半減させ、5,000万ドル(約75億円)を目指している。
これはJAXAによると、SpaceXの使い捨てロケットである「Falcon 9」の6,200万ドルと比較しても安価だ。
このコスト削減により、日本は世界市場での競争力を高めてシェアの獲得を目指している。
より高いコスパ
H3は打ち上げ基地で迅速に組み立てられるため、種子島宇宙センターから、月2回打ち上げることが可能になるという。
また、衛星打ち上げに最適な、従来機よりもはるかに大きなペイロード(探査機など)搭載能力も備えている。
H3ロケットは、静止軌道(高度約3万6千km)には最大6.5トン、太陽同期軌道(高度約600~800km)には最大4トンの衛星を打ち上げることができる。
JAXAから打ち上げ業務を引き継ぐ三菱重工は「現在のH3ロケットの生産能力は年間5~6機程度だが、名古屋近郊の生産施設には拡張余地があることも考慮し、必要な投資を行うことで最大10機まで増やすことを目指す」としている。
H3ロケットが10~15機目になる頃までに、コストの削減も進めていくようだ。
失敗から学んだ対策
前回の打ち上げは2023年3月7日に失敗しており、その原因は第2段エンジンの点火不良だった。
これによりJAXAは打ち上げを中止し、約280億円の陸域観測技術衛星「だいち3号」を失った。
そのような大惨事を再び起こさないために、今回の2号機は2.6トンのダミー衛星と2機の小型衛星、合計3機を搭載して打ち上げられた。
小型衛星は、キヤノンエレクトロニクスが開発した70kgの光学観測衛星と、5kgの赤外線画像衛星だ。
H3ロケットは高度約680kmの軌道で2機の小型衛星を放出し、その後はダミー衛星の放出を実験し、大気圏に再突入する予定だ。
画期的なエンジン設計を採用
H3ロケットの大きな特徴は、第1段エンジンに「エキスパンダー・ブリード・サイクル」と呼ばれる、非常にシンプルな設計を採用していることだ。
従来、このシステムはロケットの上段に使用されていたが、H3はブースター段に初めて採用した点が画期的だ。
この画期的な技術により、従来のエンジンよりも部品点数を大幅に減らし、生産コストを低減しながらもエンジンの信頼性を向上させることに成功している。
今後の抱負
三菱重工のH3プロジェクトマネージャーは「まだ2度目の試験飛行で、H3プログラムはまだまだ改善すべき点、特に生産効率向上には多くの改善余地がある」とコメントしている。
現在、三菱重工はH3とH2Aの両方のロケットを製造しているが、H3だけに注力することで生産ラインを簡素化し、より効率的な運用を目指している。
H3をより堅牢で信頼性の高い製品にし、「毎回打ち上げの度に安堵のため息が出るのではなく、当然のように打ち上げられるようにしたい」と抱負を語った。
さいごに
H3ロケットの開発・打ち上げ成功は、日本の宇宙開発における技術力の高さをアピールできたに違いない。
日本の宇宙輸送の未来を担うだけでなく、世界をリードするロケットとなり、宇宙ビジネスの民主化を広げる可能性を秘めている。
さらなる完成度の向上とコストダウンが期待される。
参考 :
JAXA | H3ロケット試験機2号機の打上げ結果について
H3ロケット試験機2号機打上げ経過記者会見
H3試験機2号機特設サイト
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