宇宙

世界初の木造人工衛星「リグノサット」 ~なぜ木造の衛星を打ち上げるのか?

京都大学と住友林業が共同開発した超小型衛星「リグノサット(LignoSat)」は、世界初の木でできた人口衛星だ。

宇宙航空局(JAXA)と米国航空宇宙局(NASA)は、宇宙開発を持続可能なものにする取り組みの一環として、この木造人工衛星「リグノサット」の打ち上げを2024年の夏頃に計画している。

世界初の木造人工衛星「リグノサット」

画像: 木製の人工衛星リグノサットのイラスト credit by [Erik Kulu, Nanosats Database]

リグノサット(LignoSat)というプロジェクト名は、Ligno(木)と 人工衛星(Satellite)からなる造語から命名された。

本稿では、なぜ木造の衛星を打ち上げるのか、その目的などを説明する。

リグノサットプロジェクトの目的

画像: 地球低軌道(LEO)における宇宙デブリのイメージ。画像に表示されている宇宙ゴミは、実際の密度データに基づいて作成された。 credit by ESA

宇宙汚染は深刻な問題となっており、9,300トンを超えるデブリが地球の周りを周回している。

このデブリには、停止した衛星やロケットの破片が含まれており、ISSなどの宇宙インフラに脅威をもたらすだけでなく、光害の原因にもなり、地球からの天体観測がより困難になる。

特に近年はSpaceXのスターリンク計画のように、インターネット用の小型衛星が一度に大量に軌道に送り込まれるようになった。

オゾン層は、成層圏(約10~50km上空)にあり、太陽からの有害な紫外線を吸収し、地上の生態系を保護している。 また、紫外線を吸収するため、成層圏の大気を暖める効果があるなど、地球の気候に大きく関わっている。

しかし現在、地球の成層圏には、主にアルミニウムで作られた衛星やロケットなどの金属片(宇宙デブリ)が大量に漂っているのだ。

これらの従来の衛星は主にアルミニウムで製造されており、大気圏に再突入すると燃え上がり、細かいアルミニウム酸化物 (アルミナ) の粒子を作り出す。

これらの粒子は長年にわたって地球のオゾン層を浮遊し、最終的には地球の環境に悪影響を与えるだろうと考えられている。

大切なオゾン層を守るために、大気圏再突入時に微細な宇宙デブリを作り出さないことが重要なのだ。

木造の衛星がもたらす可能性

世界初の木造人工衛星「リグノサット」

画像: 木製の衛星イラスト credit by credit Kyoto University

一方、木造の衛星は、地球の大気圏に再突入するとすぐに燃え尽きて灰になるので、環境への影響を最小限に抑えることができる。

また、宇宙では木材のもつ欠点が表面化しない。

木材は地球上では寸法が変わったり、腐ったり、燃えたりするが、宇宙にはそれらの原因となる、水分も、酸素も、細菌も存在しない。

そのため、地球上での木材の欠点が宇宙空間では克服されるのだ。

また、木材には「電波を通す」という長所もある。

電波の種類や木材の種類、厚さ、密度、含水率などによって透過率は異なるが、リグノサットの外部パネルに使用される予定のホオノキという木材は、密度が低く、含水率も低いため、電波を透過しやすいと言われている。

実際リグノサットでは、木材が電波を通すメリットを活かしてアンテナをボディの内部に仕込む予定で、展開機構をつける必要がないのだという。

構造がシンプルになれば、故障率も減ると予想できる。

リグノサット衛星に使用する木材の選定

世界初の木造人工衛星「リグノサット」

画像: ISS船外曝露プラットフォーム 拡大図の中央の直方体上部が曝露試験中の木材 credit Kyoto University

京都大学と住友林業は、国際宇宙ステーション(ISS)で約10ヶ月間(2022年3月~2023年1月)、木材の宇宙曝露(ばくろ)実験を実施した。

試験の結果、木材は極めて軽微な劣化しか見られず、過酷な宇宙空間での優れた耐久性が確認された。

曝露実験とは、実験材料を宇宙空間に長時間置いて受ける影響を調査するものである。

日本はISS内に「きぼう」という日本実験設備を持っており、それを利用して実験が行われた。

今回の曝露実験ではヤマザクラ、ホオノキ、ダケカンバの3種が最終候補として選定されていたが、実験の結果をふまえてホオノキが2024年打ち上げ予定の衛星材料となる樹種に選定された。

ホオノキ(学名:Magnolia obovata)は、モクレン科モクレン属の落葉高木だ。別名、ホオ、ホオガシワなどと呼ばれている。

ホオノキは前述の通り、人工衛星の外部パネルに使用される。

プロジェクトの今後

画像: リグノサット1号機は、木造構体とアルミフレームからできている。日本古来の「留め形隠し蟻組継ぎ」という方法を使い、ボルトも接着剤も使わないで堅牢な箱型形状に組立てられる。 credit Kyoto University

リグノサット衛星の打ち上げは2024年の夏頃になるとみられ、打上げに向けて最終的な調整が進められているところだ。

打ち上げ後、コーヒーカップほどの大きさのリグノサットは、少なくとも半年間、宇宙空間で運用され、その後大気圏に再突入する予定だ。

リグノサットの最初の目標は、木造人工衛星が宇宙でのミッションをスタートできるかどうかを証明することだ。

リグノサットが衛星軌道に投入された後、地上との通信が確立されることをミニマムサクセスとすると、衛星の内部温度、木構造の歪み、地球磁場などに関する実証データを半年間取得することがフルサクセスとなる。

リグノサットはうまくいけば半年以上軌道をまわる予定なので、その間、UHF帯域で双方向衛星通信を行い、地上からのアマチュア無線信号を受信し、「ありがとう」メッセージを送信して応答し続けることができれば、エキストラサクセスとなる。

リグノサットは、衛星開発の新しい可能性を示すものとなるだろう。

さいごに

リグノサットの打ち上げが成功し、宇宙での性能が十分に発揮されれば、今後、より多くの衛星の建造材料として木材が利用される可能性がある。

それだけではなく、近年は世界的に木造ビルの建築が流行するなど木材利用の多様化が進んでいるため、意外な用途に使用される機会も増えるだろう。

依然として既存の宇宙デブリの問題は残るが、今後大量に打ち上げられる予定の小型衛星で木材が使用されれば、デブリの増加を減らす一端となり、宇宙活動を持続可能にすると期待できる。

リグノサットプロジェクトの今後の活動に注視していきたい。

参考 :
World’s 1st wooden satellite to be launched soon. Why is it significant?
Japan to launch world’s first wooden satellite to combat space pollution
世界初、10か月間の木材宇宙曝露実験を完了~木材用途の拡大、木造人工衛星(LignoSat)の打上げを目指して~ | 京都大学

 

lolonao

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フィリピン在住の50代IoTエンジニア&ライター。
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コメント

  1. アバター
    • 匿名
    • 2024年 3月 05日 6:08pm

    将来的には木製衛星“ラピュタ”とかできるかも
    ……でもあれって天の雷落とす兵器だったっけ?

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