神話、伝説

世界の神話に見る『ニワトリの怪異伝承』 ~にわとりの僧、フケーと鳴く災厄の鳥

ニワトリの怪異伝承

画像 : ニワトリ pixabay cc0

故・楳図かずお氏の漫画「14歳」は、チキン・ジョージというニワトリの怪人が登場する壮大なSF作品だ。

神話や幻想の世界においても、ニワトリと人間を掛け合わせたような怪物の伝承が少なからず存在する。

今回はそんな魅力的な「ニワトリ人間」たちについて、解説を行っていく。

1. 天魔羅醯室陀鬼

画像 : 天魔羅醯室陀鬼 草の実堂作成

天魔羅醯室陀鬼(てんまらけいしつだき)は、日本に伝わる病魔である。

岡山県金山寺と愛知県真福寺に伝わる「伝死病種事」にて、その存在が描かれている。

ニワトリの頭を持つ人間のような姿をしており、虎柄の腰巻きを身に着け、手には槌(もしくは斧)を持っているとされる。

この病魔に憑りつかれると、怒りや憎しみといった、負の感情を抱きやすくなるという。

2. にわとりの僧

画像 : にわとりの僧 草の実堂作成

にわとりの僧は、怨念に憑りつかれてしまった僧侶である。

江戸時代の浮世絵師・岡田玉山(1737~1808年or1812年)の作品「絵本妖怪奇談」において、次のようなエピソードが語られている。

(意訳・要約)

仏教には、生き物を殺してはならない「不殺生戒」というルールがあり、肉食は基本的にご法度だ。
しかし、動物の赤肉はその美味さから、誰もが食いたくてたまらない食材である。

とある寺の坊主が、隣の家のニワトリを盗んで殺し、食べてしまった。
その光景をたまたま目撃した者がおり、寺の和尚に報告をしたという。

和尚は坊主に「ニワトリを食ったのは本当か」と尋ねたが、坊主はお釈迦様の名のもとに、清廉潔白を訴えるばかりであった。

だがその時、坊主の口からコケコッコーと鳴く声が聞こえ、そしてニワトリの頭がグエーッと顔を出した。
ついでに尻からは、ニワトリの尾のようなものがニョキニョキと這い出てきた。

ニワトリの怨念が、罰当たりな坊主を祟ったのだ。

「やはり食っていたではないか!」と和尚は怒り狂い、坊主を罰した。

仏教徒たるもの、肉食の誘惑に負けてはいけないという戒めの為に、この話が創作されたと考えられている。

3. リデルク

画像 : リデルク 草の実堂作成

リデルク(Lidérc)は、ハンガリーの伝承に登場する怪異である。

黒い雌鶏が一番最初に産んだ卵を、人間が脇の下で温めることで、リデルクは誕生するとされている。
その姿は伝承によって様々だが、宙を舞う炎のニワトリとして表されることが多いそうだ。

リデルクは極めて悪質な妖怪であり、人間に憑りつき、衰弱死するまで精気を吸い取るという。
特に未亡人のような、伴侶を失ったばかりの人間を好んで狙うそうだ。

リデルクはターゲットの家に侵入すると、亡くなった夫の姿へと変身し、妻の元へ赴く。
妻は死んだと思っていた夫が、目の前に現れたことに感動し、涙を流す。

そんな妻の姿を見て、リデルクは心の中で「しめしめ」と邪悪にほくそ笑むのだ。
そして妻を誘惑し情事を重ね、徐々にその生命エネルギーを奪い取っていく。
やがて妻が死ぬと、リデルクは元の炎の姿に戻り、次なるターゲットを見定めに空へ飛び立って行くという。

リデルクの変身能力は一見完璧ではあるが、片足だけはニワトリのままなので、そこで見分けがつくという。

また、白樺の枝を燃やしたり、ニンニクを吊るしておくことでも、リデルクの侵入を防ぐことができるそうだ。

4. アブラクサス

画像 : アブラクサス 草の実堂作成

「グノーシス主義」という宗教的思想をご存知であろうか。

簡単に言うならば、「この世界はロクでもないので、グノーシス(知識)を得て、精神的に高みを目指そう」といった思想である。

そんなグノーシス主義にて語られる高次元的存在アルオーン(アイコーン)の一柱が、アブラクサス(Abraxas)である。

グノーシス主義には様々な分派があり、その中のバシレイデース派と呼ばれる宗派の神話に、アブラクサスは登場する。

その姿はニワトリの頭に人間の胴体、手には盾と鞭を持ち、両脚はヘビになっているという、極めて異質なものだ。

ニワトリの頭は「予見・用心深さ・寝ずの番」などを意味し、人間の胴体は「言葉と魂」、ヘビの脚は「精神と理性」を、それぞれ示しているという。
また、盾は「叡智」、鞭は「力」を表しているとされる。

アブラクサスは「偽りの神(ユダヤ教やキリスト教における唯一神)」により生み出された最初の息子であり、我々の住むこの世界を創造したのだという。

神を偽物だと主張するグノーシス主義は、ユダヤ教・キリスト教のような一神教とは相容れず、蛇蝎のごとく嫌われていた。
やがて中世に入ると、アブラクサスは悪魔と見なされるようになった。

フランスの作家・コラン=ド=プランシー(1794~1881年)の「地獄の辞典」には、デーモンとしての姿のアブラクサスが掲載されている。

画像 : 地獄の辞典でのアブラクサスの姿 public domain

5. 鳧徯

画像 : 鳧徯 草の実堂作成

鳧徯(ふけい)は、中国に伝わる災厄の鳥である。

古代中国の妖怪辞典『山海経』や、明代の書物『事物紺珠』にて、その存在が言及されている。

雄鶏の体に人間の顔を持つ不気味な姿をしており、「フケーフケー」と奇怪な鳴き声を発するそうだ。
この鳴き声が、「鳧徯」という名前の由来になったとされている。

普段は「鹿台山」という山に生息しているが、時折人里に飛んでくることがあったという。
この鳥が目撃されることは、近い将来に戦争が起こる前触れと考えられており、人々に非常に恐れられたそうだ。

人類の歴史は戦乱の歴史である。
今日もどこかで、「フケーフケー」と鳴く鳥の声が響き渡っているのかもしれない。

参考 : 『日本妖怪変化史』『Détails du Aion Abraxas』他
文 / 草の実堂編集部

  • Xをフォロー
好きなカテゴリーの記事の新着をメールでお届けします。下のボタンからフォローください。

草の実堂編集部

投稿者の記事一覧

草の実学習塾、滝田吉一先生の弟子。
編集、校正、ライティングでは古代中国史専門。『史記』『戦国策』『正史三国志』『漢書』『資治通鑑』など古代中国の史料をもとに史実に沿った記事を執筆。

✅ 草の実堂の記事がデジタルボイスで聴けるようになりました!(随時更新中)

Youtube で聴く
Spotify で聴く
Amazon music で聴く
Audible で聴く

コメント

  1. この記事へのコメントはありません。

  1. この記事へのトラックバックはありません。

関連記事

  1. 『日本書紀』は何故作られたのか? 「古事記」との違いと共通点
  2. アメリカ開拓地の怪物伝説!木こりたちが語る恐怖の「フィアサム・ク…
  3. 『パンドラの箱』から飛び出した、災厄の神々たち
  4. 【日本初の天皇、神武天皇に抵抗し理不尽に殺された】長髄彦の哀れな…
  5. 「理想の女性を彫刻で作って語りかける」ピュグマリオン王の狂気と愛…
  6. 【誰でもわかる古事記】 天岩戸隠れをわかりやすく解説 「暴れるス…
  7. 【耐え難い悪臭】神話・伝承に登場する「臭すぎる」怪物たち
  8. 『神話・伝承で語られる名医』天上の癒し手たちと、江戸の奇怪なドク…

カテゴリー

新着記事

おすすめ記事

征夷大将軍・坂上田村麻呂の子孫を調べてみた 「世界に羽ばたく商人も輩出」

中学・高校の歴史の教科書では、平安時代初めの章に坂上田村麻呂(さかのうえの たむらまろ)の行った蝦夷…

インドカレー店がなぜ多いのか調べてみた【法務省も関与していた!?】

ここしばらく謎だったのが、外国人が経営するインドカレー店が増えてきたことだ。最初は都内の駅か…

楼蘭の美女「3800年前の美しい女性ミイラ」

楼蘭の美女とは楼蘭の美女(ろうらんのびじょ)とは、1980年に中国の最短の新疆ウイグル自…

【夜を統べる月の神】 月読命の謎 「なぜ三貴子の中で全く存在感がないのか?」

古事記や日本書紀に触れたことがある人なら、月読命(ツクヨミノミコト)を知らない人はいないだろ…

京都の「裏」を探索!今も残る遊郭の名残り 〜西陣・五番町でディープな世界を巡る

ワールドワイドな観光地として、世界中から尋常ならざる数の人々が訪れる京都。観光名所のみならず…

アーカイブ

人気記事(日間)

人気記事(月間)

人気記事(全期間)

PAGE TOP