神話、物語

ズールー族の伝説に登場する 「3つの恐るべき怪物」

画像 : シャカ・ズールー public domain

ズールー族はアフリカ最大規模の民族の一つである。

19世紀初頭、彼らはシャカ・ズールーを国王としたズールー王国を立ち上げ、南アフリカのほぼ全域を支配するに至った。

1879年には大英帝国との間でズールー戦争が勃発した。

最終的にズールー族は敗北し王国も解体されたが、銃火器を物ともせず、槍と盾をたずさえ突撃する彼らの姿は、白人たちに多大なる恐怖を与えたという。

かのナポレオンの直系の子孫であるナポレオン4世も、ズールー戦争にて槍に貫かれ戦死している。

画像 : ナポレオン4世 public domain

そんな勇猛果敢なるズールー族であるが、彼らの間に伝わる神話や伝承を知る者は少ない。

今回はズールー族に伝わる、3つの恐ろしい怪物について紹介していきたい。

1. インプンドゥル

画像 : インプンドゥル(Impundulu) イメージ

インプンドゥル(Impundulu)はズールー族の伝承に登場する怪鳥である。

インプンドゥルを日本語に訳すると「雷の鳥」、英訳すれば「ライトニングバード」である。
その名の通り雷を伴って現れ、翼と爪から稲妻を発するという。

雷鳥といえば、ネイティブ・アメリカンの間で信仰されている鳥の姿をした精霊「サンダーバード」も有名であるが、このインプンドゥルには精霊のような神秘性は微塵も存在しない。

インプンドゥルは、人間の血を吸いつくし惨殺することを好む、凶悪な吸血妖怪として恐れられている。

血を吸う対象と同じ種族に変身するとされ、ときには美男へと扮し女性を誘惑することもあるという。
また、その命は不死であり、あらゆる攻撃が通用しないとされるが、唯一火によってのみ滅することができると信じられている。

しばしばこの鳥は、魔女によって使役されると考えられてきた。
魔女の家系は代々この鳥を飼い慣らしており、母から娘へと相続されるのが常だという。
魔女にとって邪魔になる者は、この鳥により次々と血祭りにあげられたそうだ。

だが、もし相続がなされない場合、インプンドゥルはより凶悪なイショログ(ishologu)という存在へと変じ、そうなると魔女ですら制御できなくなり、さらなる凶行を重ねるようになるという。

2. ウムドレビ

画像 : ウムドレビ public domain

ウムドレビ(Umdlebe)は、泣く子も黙るズールー族すら恐れた、強烈な有毒植物だ。

本来は架空の植物ではなく、南アフリカや近隣国であるエスワティニに自生する、トウダイグサ科に属する実在の植物である。
その毒性は激烈であり、粘膜を腫れ上がせる蒸気を周囲に漂わせ、近づくだけでも失明する恐れがあるとされている。

その危険性が、ズールーの人々には魔物に見えたのだろう。

通常、ウムドレビは魔女が使うものとして考えられていた。
また、ウムドレビと関連のある人間はウムタカティ(umthakathi)という、毒薬を以って悪を成す存在と見なされることもあった。

1828年、ズールー王国の軍隊が敵地を襲撃した際にウムドレビと遭遇し、何人かの兵士が犠牲になったという伝承がある。
この時、シャカ・ズールーの異母兄弟ディンガナは、兵士たちを見殺しにしつつ、一人密かにシャカの元へ舞い戻り、シャカ・ズールーを暗殺したという。

まるで、死が新たなる死を招いているかのようだ。

ウムドレビは通称「デッドマンツリー」とも呼ばれている。

3. イシトゥワランツェンツェ

画像 : isitwalangcengce (abookofcreatures より引用)

イシトゥワランツェンツェ(Isitwalangcengce)は、ハイエナによく似た生物だ。
だがその頭部は、籠のような異形の形をしているという。

ハイエナはサバンナでも随一の嗅覚と知能を持つといわれているが、このイシトゥワランツェンツェも優れた嗅覚と知性を持ち、さらに残忍な性格である。

人間が祭りなどで牛を屠殺するとき、血の臭いを嗅ぎつけこの怪物は現れるという。
物陰で待ち伏せをし、近づいてきた人間を籠のような頭部ですくい上げ、岩などに叩き付けて殺した後、脳みそを食べるそうだ。

このように危険極まりない存在であるイシトゥワランツェンツェだが、ときに人間の悪知恵の方が上回ることもあったようだ。

あるとき、ズールー族の男がイシトゥワランツェンツェに捕らえられた。

イシトゥワランツェンツェは藪の道を通り、行きつけの岩場で男の頭をかち割る気でいた。
そこで男は手を伸ばし、藪の小枝を折って片っ端から籠の中に詰め込んだ。
籠の中が小枝でパンパンになると、男は頃合いを見計らって脱出し、そのまま村へ帰ったという。

岩場に着いたところで、イシトゥワランツェンツェはようやく籠の中身が枝だらけになっていることに気づいた。
怒りに震えた怪物は村へと舞い戻り、そして今度は幼い少女を捕らえた。
だが少女も同様の方法で脱出し、またもイシトゥワランツェンツェは苦渋を飲まされることになった。

ズールー族の男によって、すでにイシトゥワランツェンツェへの対処法は村中に知れ渡っていたのだ。

その後も何度かイシトゥワランツェンツェは村へ現れたが、もはや人間が食べられることはなかったという。

終わりに

今回は、あまり知られていないズールー族の怪物たちと、その伝説を紹介した。

これらの怪物たちは、ズールー族の歴史と文化の中で深く根付いており、その伝説は今も語り継がれている。

参考 :
Encyclopædia of Monsters
abookofcreatures

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