中国史

漫画『キングダム』で中国史を学ぼう! 春秋・戦国時代のリアルな世界とは?

はじめに

漫画『キングダム』を原作にした実写版映画の第3弾が、来月(7月)28日に上映されます。

純粋に物語としても面白い『キングダム』ですが、実際の中国史に沿って話は進むため、歴史を学ぶきっかけにもなると思います。

そこで今回は『キングダム』をより“深く”理解するために、作品の時代設定である「春秋・戦国時代」について、分かりやすく解説したいと思います。

来月上映される映画の予習として楽しんでいただければと思います。

春秋・戦国時代のリアルな世界とは?

画像:中国を統一した秦の始皇帝 public domain

古代中国の歴史

古代中国において、中国を支配したのは「」という王朝です。「」を倒して中国を統一しました。

しかし紀元前771年、周王朝は異民族の犬戎に首都・鎬京を攻められ、黄河中流の洛邑へと遷都しました。遷都とは、都市の機能を別の場所に移すことです。

洛邑への遷都以降の時代を「東周」または「春秋・戦国時代」と呼びます。しかし「春秋時代」と「戦国時代」では、社会の状況はまったく異なるのです。

秩序の時代

春秋時代になると、周王朝の権威が衰え始めます。周王朝の支配が及ばない、地方の有力者(諸侯)たちが、中国の支配をめぐって動き出します。

「諸侯」と聞くと難しく感じますが、ここでは「王様(周王朝)の部下」「お金持ち」ぐらいで考えてください。お金がなければ武器を購入したり、兵士を雇うことはできません。

その諸侯たちのなかでも「春秋の五覇」と呼ばれる、有力な諸侯(覇者)たちが最終的には大きな力を持ち、争いを繰り広げました。 ただ春秋時代の周王朝は権威が失われつつも、覇者たちは周王に対する、尊敬と忠誠を保ち続けていました。

争いを続ける覇者たちも、周王朝を滅ぼすことまでは考えていなかったのです。当時の周王朝は社会の秩序を維持する役割を持ち合わせており、日本史に置き換えると天皇のような存在だったとも言えるでしょう。

こうした背景から、春秋時代は「秩序の時代」とも言われます。

実力主義は個人の時代

しかし紀元前403年以降、周王の権威は完全に失墜し、周王朝の一族は滅ぼされました。

有力な諸侯たちは公然と「」を名乗るようになります。力を持つ者が“正しい”という「実力主義」が当たり前となり、小さな都市国家や弱い諸侯は吸収(淘汰)される運命にありました。

「戦国時代」の始まりです。厳密にいうと『キングダム』は、この戦国時代を舞台としています。戦国時代の覇者は「戦国の七雄(秦、楚、斉、燕、趙、魏、韓)」と呼ばれ、中華統一を目標にしのぎを削りました。

春秋・戦国時代のリアルな世界とは?

画像:「戦国の七雄(秦、楚、斉、燕、趙、魏、韓)」 public domain

秩序の春秋時代から、実力主義の戦国時代へ。

なぜこのような変化が起きたのでしょうか?戦国時代の特徴として「個人」の力が、強まったことが挙げられます。

春秋時代の人々は、頻繁に起きる黄河の激しい氾濫を避けるため、山の高い場所で生活をしていました。山に住む人々にとって水は貴重な資源になるため、集団で平等に分け合う必要がありました。

水を分配するときに必要なのはルール(秩序)と、集団をまとめるリーダーです。春秋時代の人々は年長者をリーダーとし、集団での秩序(ルール)を重視する生活を送っていました。少ない資源を分け合う社会の春秋時代は、やはり“秩序”の時代だったのです。

ゲームチェンジャーの登場

しかし戦国時代になると、状況は一変します。ゲームチェンジャーは「」です。

鉄製農具によって黄河の氾濫を制御して、大量の水が入手できるようになったのです。

今までの木製農具では歯が立たなかった土地も、鉄製農具を使うことでどんどん畑にできます。川(水)の流れをコントロールする「灌漑」も作られました。また牛に鉄のくわを引かせることで、畑の面積を爆発的に増やすことが可能になります。これを「牛耕農法」と言います。

鉄の登場によって、大規模な農業経営が「個人」で可能になったのです。

農業の拡大によって余剰生産物が生まれ、生産物を交換するための市場が生まれます。農業の発展は工業や商業を活性化させ、貨幣経済に発展しました。

このように戦国時代では、個人の能力や才能によって成功をつかむ社会が形成されたのです。集団のなかで秩序を重視する春秋時代の面影はもはやありません。鉄の登場による農業生産力の増大が大きな社会変革につながり、春秋時代から戦国時代への移行を促したのです。

春秋・戦国時代のリアルな世界とは?

イメージ画像:古代中国の灌漑

終わりに

鉄製農具や牛耕農法といった「道具」が、歴史を大きく動かした事例を見てきました。このようなケースはよくあることです。

たとえば現代の日本社会もそうです。日本を長年支えてきた、年功序列制度はもう破綻をむかえています。

その理由はパソコンの普及です。パソコンで作業をすれば、各個人の行った仕事の量や質はすぐに分かります。今まで可視化されなかった仕事が、簡単に数値化(データ化)されるため、優秀な個人に高い報酬を払うことが当たり前の時代になったのです。

またパソコンとインターネットは、個人でできる仕事を大幅に増やしました。会社に属さなくても、お金を得る手段が増えたのです。最近のYouTuberなどが当てはまるでしょう。パソコンとカメラ(スマホ)さえあれば、自分の番組を誰でも世界中に発信することができます。今までのテレビのように、番組を作るためのチーム(集団)は必要ありません。

春秋時代から戦国時代に移行した時代に匹敵するほど、現代社会は「個人の時代」なのかもしれません。

※参考文献:
ゆげひろのぶ・ゆげ塾『組織で悩むアナタのための世界史』星海社、2018年3月

 

村上俊樹

村上俊樹

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“進撃”の元教員 大学院のときは、哲学を少し。その後、高校の社会科教員を10年ほど。生徒からのあだ名は“巨人”。身長が高いので。今はライターとして色々と。フリーランスでライターもしていますので、DMなどいただけると幸いです。
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