発見された漢文帝の墓
2021年12月14日、中国国家文物局は西安市白鹿原江村大墓で発見された古墓が、前漢初期の皇帝「漢文帝」の墓だと断定した。
文帝は前漢の第5代皇帝で(第3代とする場合もある)、あの漢の高祖・劉邦の4男(庶子)であり、中国史上屈指の名君とされている。
その古墓の場所は、歴史書の中で「鳳凰の嘴」と記載されている地であった。
古墓には文帝1人だけではなく、文帝の妻「竇皇后」と生母「薄太后」も眠っていた。
同じ場所にあったのではなく、その古墓群の中にそれぞれの墓があったのだ。(漢文帝霸陵、その北東約800メートルに竇皇后陵、南西約2000メートルに薄太后南陵)
古墓群の周りには大きな坑があり、その中からは大量の遺物も発見されている。
それは陶俑、陶器、鉄器、金銀器、馬骨などの漢代の珍しく貴重な物品たちであった。
その驚くべき副葬品
古代中国では「死後の世界こそ永遠で、生きている期間は短く儚いものである」という考え方があった。
位の高い人物が亡くなると、死後の世界で困ることがないようにと金銀やさまざまな宝物が一緒に埋葬された。
皇帝が亡くなると、皇后はもちろんのこと、側女たちも共に生きたまま埋葬された。
足を折られ、動けないようにしたうえで生き埋めにされたという恐ろしい歴史があるのだ。
しかし、後に「生き埋めにされる兵士が多いと国の衰退に繋がる」といった理由から、生きた人を副葬品にすることはなくなった。
そして生きた人間の代わりに、人の形を模った陶器や木で作られた人形が、死者と共に埋葬されるようになった。
漢文帝の時代には既にそうした風習となっており、以下の写真のような大量の人形が発掘されている。
有名な秦の始皇帝の兵馬俑も、その代表的な例である。
兵馬俑は生きた人を使って作ったのか? 「始皇帝の陸墓」
https://kusanomido.com/study/history/chinese/58239/
始皇帝が亡くなったのは紀元前210年頃であるから、少なくともこの頃には「墓に生き埋めする風習」はなくなっていたようだ。
ただし戦においては例外で、秦軍が投降した趙兵40万人を生き埋めにした逸話は有名である。
地下動物園
漢文帝の古墓群からは、他にも非常に珍しいものが発見されている。
それは「動物殉葬坑」である。
中国の考古学者たちは、これを「地下の動物園」と呼んだ。
そう、数々の珍しい動物たちが共に埋葬されていたのだ。
それは、中国の墓で初めて発見されたジャイアントパンダとマレー獏の完全な骨格を含む、400頭以上の動物の遺骨だった。
他には、ヤク、トラ、カメ、孔雀、タンチョウ、シシバナザル、インド野牛など、全部で41種類の希少種の化石が出土した。
インド野牛、マレー獏、クジャクは、熱帯や亜熱帯に生息する動物である。その他「秦嶺四寶」と呼ばれる地方に生息していた動物もいた。シシバナザル、パンダ、ターキンと呼ばれる牛科の動物だ。
この漢文帝の古墓群から見つかった「動物殉葬坑」は、アメリカ考古学協会発行のARCHAEOLOGY誌による、2023年の「世界考古学的発見トップ10」に選出されている。
この「動物殉葬坑」は、漢文帝霸陵の中になんと23箇所もあった。
そして薄太后が眠る南陵においては、55箇所もの「動物殉葬坑」が発見されている。
今のところ合計で30属種の動物が発見されており、その内訳は鳥類が18種類、爬虫類1種類、獣類が11種類である。
特に興味深いのが1種の爬虫類で、大型の陸亀の仲間だった。
また、珍しい鳥類としては「サイチョウ」という、アフリカや砂漠でも暮らすことのできる鳥が発見されている。
この地下動物園が貴重な発見である理由
この発見が、なぜそれほど貴重なのだろうか?
「世界考古学的発見トップ10」に選ばれたことには理由がある。
この副葬品として埋葬された動物たちの生態や生息できる環境などを考えると、当時の西安市一帯の気候や環境を窺い知ることができるのである。
マレー獏やインド野牛、孔雀がいたことから、当時この地域は比較的暑く湿気の多い場所であったことがわかる。
そして鳥類に関しては、猛禽類の発見から当時の貴族たちや皇帝たちが「鑑賞用」としていたこと。また、比較的大型の動物の発見により「狩り」を嗜んでいたことなどが窺い知れる。
そして既に絶滅してしまった動物も含まれており、大変貴重な発見となる。
何より前漢時代の埋葬制度や文化に至るまで、多くのことを知ることができるのだ。
それらの理由から「漢文帝の墓」は、中国だけでなく世界的に貴重な発見であり、今後の考古学の発展に多いに寄与するものとされている。
この「漢文帝」の墓については今も研究中であり、今後の進展が期待される。
参考 : Imperial Menagerie | archaeology
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