古代中国では、死刑囚が刑場へ連行される際、特に女性囚人は厳しい扱いを受けることが一般的であった。
髪は乱れ、体は汚れた状態で、最後の時を迎えるまでの姿は痛ましいものであった。
中でも、処刑直前に上衣を脱がされるという慣習が多くの王朝で存在し、これには身分の例外はなかった。
この慣習がどのようにして生まれたのか、またどんな意味が込められていたのかは、現代の感覚では理解しにくい部分も多い。
しかし、歴史書や当時の記録を紐解くと、そこには儒教の影響や女性の地位に関する当時の事情が浮かび上がってくる。
斬首刑の起源
斬首刑は中国古代において、主要な刑罰の一つとして発展した。
『周礼』には、「殺は刃を用い、斬は斧を用いる」とあり、斬首刑がすでに西周時代から存在していたと推測されている。
また、春秋時代には孫武が呉王の寵姫を斬首したという故事が伝えられている。ただし、これが刑罰としての斬首の起源であるかについては諸説ある。
斬首刑は単なる処罰にとどまらず、公の場で執行されることで犯罪者の罪状を明示し、民衆への警告としての役割も果たした。
上衣を脱がせる理由
処刑前に女性囚人が上衣を剥ぎ取られる慣習は、単なる刑罰以上の意味を持っていた。
以下に、この慣習が行われた主な背景や目的を挙げる。
(1)伝統的な慣習
多くの王朝において処刑前に囚人の衣服を脱がすことが慣例とされていた。
この慣習は男女問わず広く適用されていたが、特に女性に対してはその影響がより顕著であった。
北魏の孝文帝は一時的に処刑時の衣服着用を許可したが、彼の死後、この制度は廃止され、再び衣服を脱がせる慣習が復活したとされる。
(2)処刑の便宜性と身元確認
衣服を脱がせることで刃の通りが良くなり、一度で確実に刑を執行できるという実用的な理由があった。
また、囚人の体に刻まれた入れ墨や傷跡を確認することで、犯罪者が本当に「罪を犯した本人」であることを確認する目的もあった。
この手続きは、刑罰が公正であることを示すための一環でもあった。
(3)犯罪抑止の意図
公開処刑そのものが見せしめの意味を持ち、特に女性囚人が衣服を脱がされる姿は、観衆にさらなる恐怖心を与えるものであった。
このような形で犯罪者の末路を見せつけることで、社会的な抑止力を高めようとする狙いがあった。
(4)女性への侮辱
古代社会では女性の貞操が非常に重視されており、処刑前に衣服を脱がされることは、精神的な屈辱を与える行為でもあった。
この屈辱は、時には死刑そのもの以上に女性囚人を追い詰めた。
(5)女性の地位の低さ
男尊女卑の思想が強かった当時、女性囚人は男性と比べて厳しい刑罰を受けることが多かった。同じ犯罪を犯した場合でも、女性は斬首刑に処され、男性は流刑にとどまるといった不公平も横行していた。
(6)宗教的・哲学的影響
道教や仏教の思想も、処刑前に衣服を剥ぎ取る慣習に影響を与えたとされる。
道教では、衣服が魂の浄化を妨げると考えられており、亡者がより良い来世に向かうためには、身体を解放する必要があるとされた。
「不必要な辱め」と歴史的な具体例
女性囚人が処刑前に衣服を剥がされる行為には、「身体の確認」という名目もあった。
これは男性囚人と同様に本人を証明するための手続きであったが、女性の場合、性別特有の身体的特徴が不必要に注目されることが多く、露出の度合いが過剰になる場合もあった。
処刑前に女性囚人が衣服を剥がされたことについては、直接的な記録は乏しいものの、当時の慣習や制度から推測される事例がいくつかある。
上官婉児(じょうかん えんじ)
上官婉児(じょうかん えんじ)は唐代の著名な詩人であり、上官昭容(しょうよう)とも呼ばれる。
武則天や中宗に仕えた才女であった。
政治的な対立に巻き込まれ、最終的に斬首刑に処された。
唐代の厳格な刑罰制度の影響を受けたとされ、※褫衣(ちい)の慣習も適用された可能性は高いだろう。
※褫衣(ちい)とは、処刑や罪を示すために衣服を剥ぎ取る行為。
愛新覚羅・莽古濟(あいしんかくら ぼうこき)
清朝初期の豪族で、反逆罪により処刑された人物。
清代には「褫衣示衆」という慣習があり、莽古濟もこれに従ったと考えられる。
例外だった秋瑾(しゅうきん)
秋瑾(しゅうきん)は清末の女性革命家であり、革命運動において重要な役割を果たした。
彼女は清朝体制に反対し、近代化と改革を求めて活動していたが、最終的には捕らえられ、斬首刑に処された。
しかし、秋瑾は例外的にその尊厳を保った。彼女は処刑時に衣服を脱がされることなく、白絹で体面を保ちながら処刑された。
現代への教訓
古代中国の刑罰制度は、その当時の社会秩序を維持するために機能していたが、女性囚人に対する扱いは現代の価値観から見ると不平等かつ非人道的であった。
特に、脱衣という慣習が女性の尊厳を傷つける行為であったことは間違いない。
歴史を振り返ることで、現代社会において性差別や人権侵害をどのように克服していくべきか、教訓やヒントを得ることができるだろう。
参考 : 『唐律疏議』『大明律』他
文 / 草の実堂編集部
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