【古代中国のハイテクノロジー】 秦の青銅剣の謎 「形状記憶されていた?」

秦の兵馬俑

秦の青銅剣の謎

画像 : 兵馬俑 public domain

中国史の遺物において最も著名であると言える、秦の兵馬俑(へいばよう)。

秦の始皇帝の墓を守るために作られたこの地下軍団は、1974年の初の発掘以来、世界中に驚きと発見をもたらしてきた。

発掘が進むたびに、秦の時代や当時の生活をリアルに知る貴重な情報が明らかになっている。発掘調査は現在も進行中であり、完了までにはまだ時間を要する。

兵馬俑は現在の西安に位置し、毎年多くの人々がこの壮大な歴史遺産を一目見るために訪れる。西安は厳しい暑さに見舞われることが多いが、それでも多くの観光客や歴史ファンが国内外から集まる。

発掘現場を見学できるだけでなく、博物館では発掘された多くの素晴らしい出土品を展示している。

兵馬俑は、人生で一度は訪れるべき価値のある歴史遺産と言えよう。

青銅の剣の発見

秦の青銅剣の謎

画像 : 秦剣 public domain

1994年、秦始皇兵馬俑二号坑から発見された青銅剣は、長さ86センチメートル、八面体の精巧な構造を持つものであった。

考古学者が測定したところ、この剣の各面の精度は非常に高く、その誤差は髪の毛の幅にも満たないほどであった。
発見された19本の剣すべてが同様の精度で作られており、2200年以上も土中に眠っていたにもかかわらず、輝きと鋭さを保っていたのだ。

ハイテクノロジー 「記憶機能」

特に注目されるのは、この剣が持つ「記憶機能」である。

兵馬俑1号坑の発掘調査中、150キログラム近い兵馬俑に押しつぶされていた一本の青銅の刀が発見された。

その刀は完全に曲がっていたが、兵馬俑を取り除いた瞬間、元の平らで真っ直ぐな形に戻ったのである。この現象は、多くの人々の前で実際に起こったという。

画像 : イメージ by草の実堂

後の調査で、この青銅の刀には「クロム」が含まれていることが判明した。
クロムはステンレスの原料として使用される物質であり、刀の表面には厚さ10ミクロンのクロム酸塩層が存在していた。この層が刀の形状記憶特性をもたらしたのでないかと推測されている。

クロム酸塩の科学式はH2CrO4であり、これは現代の技術でも非常に高い精度を要求する処理である。

この発見は、秦代の技術がいかに先進的であったかを示している。

先進的な加工技術

驚くことに、この「クロム酸化処理」の処理は、比較的近代に可能になった技術だということだ。

クロム酸化処理技術は、1937年にドイツで、1950年にアメリカで発明されたものであり、それに類する技術が春秋戦国時代の中国で既に使用されていたとなると、大きな発見である。

青銅器時代、銅に錫(スズ)を混ぜることで青銅を作っていたが、その配合は高度な技術を要した。錫が少なすぎると柔らかく、多すぎると硬くて折れやすくなる。

しかし、兵馬俑から発見された刀は理想的な配合で作られており、さらに刀の表面に10ミクロンのクロム酸塩層があり、これが刀を錆びにくくしていた可能性が高いという。

ただし、これはあくまで仮説であり、クロムの痕跡は意図的な金属の保存のためではなく、武器の木製部品の処理に使用された漆による汚染である可能性も示唆されている。

いずれにせよ保存状態が良いことは事実であり、秦の工匠たちは、青銅剣の硬度と柔軟性を完璧に組み合わせ、錆びにくく耐久性が高いものにしていたのだ。
この技術は、現代の技術者をも驚かせるものであろう。

発掘は今後も続き、新たな発見が期待される。

参考 :
秦始皇兵马俑发现记 | 秦始皇陵驚見黑科技-領先世界2千年 | Were the Terracotta Army’s weapons preserved
文 / 草の実堂編集部

 

草の実堂編集部

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草の実学習塾、滝田吉一先生の弟子。
編集、校正、ライティングでは古代中国史専門。『史記』『戦国策』『正史三国志』『漢書』『資治通鑑』など古代中国の史料をもとに史実に沿った記事を執筆。

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