※DEVGRUの隊員
2011年5月2日、アメリカだけでなく、世界中をあるニュースが駆け巡った。
『ウサマ・ビン・ラディン殺害』
2001年9月11日に発生したアメリカ同時多発テロ事件の首謀者と断定され、以来、10年にわたってアメリカは彼を追い続けたが、それは合衆国大統領が入れ替わるほどの長い期間だった。最終的にそのビン・ラディンを殺害したのは「アメリカ合衆国海軍特殊部隊DEVGRU(デブグル)」である。
彼らは何者なのか調べてみた。
※Navy SEALsの隊員
アメリカ海軍の「Navy SEALs(ネイビー・シールズ)」については「アメリカの特殊部隊について調べてみた」でも語っているが、正規戦(野戦)、非正規戦(ゲリラ戦)、心理作戦、偵察活動、情報収集、対テロ任務など、あらゆる任務をあらゆる環境下で行える特殊部隊である。
10,000mの高高度を飛ぶ輸送機から降下して、敵に察知されにくい低高度でパラシュートを開く、「HALO(ヘイロー/高高度降下低高度開傘)」により潜入任務を行うこともあれば、潜水艦から小型潜水艇で海岸より潜入することもできる。
部隊編成は海軍特殊戦グループ1に所属するチームが5チーム。下記のように担当エリアがある。
チーム1…極東アジアを除く、アジア太平洋全域
チーム3…中東地域
チーム5… 極東アジア(北朝鮮関連問題等で、韓国に駐留)
チーム7…アメリカ西海岸
SEAL輸送チーム1…SEAL専用小型潜水艇専門部隊
海軍特殊戦グループ2に所属するチームが5チーム。担当エリアは下記の通り。
チーム2…ヨーロッパ、地中海
チーム4…アメリカ本土
チーム8…アフリカ、地中海担当
チーム10…アメリカ東海岸
SEAL輸送チーム2…SEAL専用小型潜水艇専門部隊
チーム9…欠番(理由は不明)
ここまでで気付いただろうか?
チームナンバーを揃えてみると、チーム6だけが抜けている。しかも、ビン・ラディンが殺害されたのがパキスタンということから、「極東アジアを除くアジア太平洋全域を担当する」チーム1が作戦に参加するのが妥当である。
これがどういう意味なのかを調べる前に、SEALsについてもう少し追ってみよう。
地獄週間 (ヘル・ウィーク)
※ヘル・ウィークの様子
SEALsへの入隊は志願制となっている。アメリカ海軍、アメリカ沿岸警備隊の所属で一定の基準をクリアできれば、選抜訓練を受ける資格が与えられる。
この選抜訓練こそ、本当の意味での第一歩なのだ。
第1段階の基礎体力訓練が8週間続くが、その締めくくりが「米軍全部隊の訓練の中でももっともキツイ!」といわれる『ヘル・ウィーク』である。
締めくくりといっても、その前にブーツを履いて4マイル走、フィンを付けての2マイル水泳、櫓登りや綱登りなどで構成される障害走、丸太担ぎ、ゴムボートでの訓練などの体力や精神力を極限まで追い詰める体力訓練を行う。名称こそ「体力訓練」だが、実際には肉体だけではなく精神的な強さ、そして、他の志願者を見捨てない協調性を試されるのだ。
そして、遂に訪れるヘル・ウィーク。
ちなみに訓練は250~300人規模で始まるが、この段階では大抵、スタート時の1割にも満たない人数(30人前後)しか残っていない。 志願者たちは5名から7名のチームを作らされ、5日間で体力を限界まで追い込む。
チーム別で海に浮かび低体温症の手前まで追い込む訓練や、海岸でボートや丸太をチーム全員で頭の上まで持ち上げて移動する訓練。冬になると海水温は10℃前後になり、気温はさらに低い。ずぶ濡れのまま長時間動けない場合などは、手足の感覚が麻痺して脱落者が続出する。
この地獄週間中の合計睡眠時間はわずか4時間しか与えられない。しかも、チーム対抗なので最下位のチームにはペナルティの訓練が待っているのだ。
そうした一連の訓練の中で耐え切れなくなったものは、訓練場の一画にあるベルをみずから鳴らす。それは脱落を意味していた。
このように厳しい訓練を生き残ったものだけがSEALsになれる。
チーム6からDEVGRUへ
※DEVGRUのパッチ
SEALsの歴史を語る上で欠かせないのがリチャード・マーチンコ海軍中佐だ。
彼はSEALsの中心メンバーであり、対テロ、人質奪還、敵国要人の暗殺など難易度の高い任務を専門とした部隊の編成に尽力した。
その結果、1979年10月、SEALs内に対テロチームとしてSEAL Team6を設立した。チーム6は特定の担当地域を持たず、全世界が担当となる。しかし、マーチンコはそれで納得はしていなかった。本来ならばSEALsから独立したもっと対テロに特化した部隊を欲していたからだ。
そして、1987年、チーム6はDEVGRU(Development Group/正式名称はUnited States Naval Special Warfare Development Group/デブグル/海軍特殊戦開発グループ)として、独立することになる。
チーム6の時点で他のチームより過酷な訓練が行われ、射撃訓練にかけては1日に数千発を射撃することもあり、9ミリ拳銃の弾薬の発射量の経費は1年間でアメリカ海兵隊全体を上回ったといわれる。
ヘル・ウィークを乗り切ってなお、さらに厳しい訓練に耐えてこそDEVGRUと認められる。いかに常識を超えた集団かわかるだろう。
DEVGRUの任務
DEVGRUは作戦上、デルタフォースと同じ統合特殊作戦コマンド(JSOC)の指揮を受ける。統合特殊作戦コマンドとは陸海軍問わず、極秘扱いの作戦や公式に発表できない類の作戦などを管理する部門のことだ。
そのことからも、目立つ活動内容は不明だが、冒頭の写真のように民間軍事会社のメンバーに変装してイラクのカルザイ大統領を護衛していたのがDEVGRUともいわれている。
そして、このDEVGRUこそ、SEALsとしてビン・ラディン殺害を成し遂げたチームだったのだ。
しかし、DEVGRUにはさらに上の精鋭チームが存在していた。
それが「RED CELL(レッド・セル)」である。これもまた海軍は公式に認めていないが、その任務が凄まじい。
友軍(アメリカ軍)の警備する基地や、原子力発電所、その他主要な施設を襲撃して占拠するのが目的だという。その相手には特殊部隊も含まれるため、それ以上の能力が必要というわけだ。
レッド・セルが存在する理由はただひとつ。それは「仮想敵となってアメリカ軍の弱点を暴き、その錬度を上げる」というものである。
しかし、彼らは抜き打ちで本気を出すために、守備する側も本物のテロリストと思い込んで戦うという。日本では考えられない部隊である。
最後に
SEALsは早くからその存在を認め、海軍のイメージアップのためにPRしていたが、チーム6については「対テロ専門」ということくらいしか分からなかった。もちろん、DEVGRUの名も最近になり知られたぐらいである。
今回調べてみて、まだまだ真相を隠すカーテンは幾重にも掛けられていることがわかった。現在も我々が知らない特殊部隊が活動しているはずである。
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