国際情勢

安倍晋三氏の外交的レガシーを振り返る 〜トランプ氏の親友となった安倍晋三氏

安倍晋三元総理が亡くなった事件は、日本国内だけでなく世界各国にも衝撃を与えた。

安倍氏が総理として2期9年近く務めた功績は計り知れず、それは弔問に訪れる人が絶えないことからも十分に理解できる。

しかし、安倍氏が積み重ねてきた功績は、外交安全保障上、とてつもなく重い。

仮に、安倍氏が総理を務めていなかったら、おそらく今日にはない日米関係、その他諸国との外交関係があったと言っても過言ではない。

トランプ氏の親友となった安倍晋三氏

画像 : ドナルド・トランプ米国大統領と(2017年2月11日) public domain

その最大の功績は、トランプ大統領との良好な関係の構築・維持だ。

2016年、アフターオバマを巡る戦いが米国で激しくなり、秋の大統領選挙の結果トランプ氏が勝利した。当時、日本のアメリカ研究者の間でもトランプ勝利を予想していた人は限りなく少なく、また、政府関係者の間では、過激な発言を繰り返すトランプ氏とどのような日米関係を構築できるのかと不安視する声が根強かった。

しかし、その時も日本の国益を冷静に考え、対トランプで戦略的に動いたのは安倍氏だった。

トランプ氏が勝利した後、世界の指導者でトランプ氏に真っ先に会いに行ったのが安倍氏で、就任前にニューヨークにあるトランプタワーを訪れ、そこで良好な日米関係を維持、構築すべく人的交流を図った。

その後、それが上手く功を奏し、トランプ氏は安倍氏への信頼を持つようになり、安倍氏は日本国内に漂っていたトランプ不安論を払拭することに成功した。

そして、以前から指摘されていたように、トランプ氏はパリ協定やイラン核合意からの脱退などアメリカファースト路線を強め、英仏独など欧州との関係は建国以来最悪にまで冷え込むようになったが、安倍氏はトランプ氏との良好な関係を維持し、外交の世界では、トランプ氏の唯一の親友となった。

当然ながら、トランプ氏の過激な行動や発言に安倍氏が理解を示し、賛成していたわけではない。安倍氏にもトランプ氏の価値観や国家ビジョンに内心は首を振っていたことも多くあったことだろう。

しかし、安倍氏は厳しくなる日本周辺の安全保障環境などを考慮し、どうしても良好な日米関係を維持、強化しなければならないという戦略的な狙いでトランプ氏に接近していった。

正にそこにあるのは、感情や理性に左右されず、国家の繁栄と平和を戦略的に維持しようとする国家指導者の姿と言えよう。おそらく、これは安倍氏でなければできなかったことだろう。

安倍氏による安全保障政策

画像 : 日本国内閣総理大臣岸田文雄(右)とアメリカ合衆国大統領ジョー・バイデン(左)(2022年5月赤坂迎賓館で) public domain

そして、安倍氏は地球儀外交を展開し、自由で開かれたインド太平洋の実現に向け、日本と米国以外の国々との関係強化に尽力を注いだ。

安倍氏は、東南アジアや南アジア、中東やアフリカ、中南米など地球儀を俯瞰する外交を次から次へと展開し、国際社会での日本のプレゼンスを強烈に示すことに成功した。また、自由で開かれたインド太平洋の実現に向け、米国とインド、オーストラリアの4カ国からなる枠組みクアッドの創設にも尽力を注ぎ、それは今日でもバイデン政権や岸田政権に受け継がれている。

さらに、安倍氏の功績で忘れてはならないのが、集団的自衛権の行使を認める憲法解釈の変更だ。

日本への直接的な攻撃に対して最小限の武力行使しか許されなかった自衛隊は、親密な他国が攻撃を受けた場合でも、

① 日本の存立が脅かされ、国民の生命、自由と幸福の追求権が根底から覆される明白な危険がある
② 日本の存立を全うし、国民を守るために他に適当な手段がない
③ 必要最小限の実力行使にとどまる

という3条件をクリアーすれば、集団的自衛権を行使できるようになった。

歴代政権は憲法上の制約からそれはできないとしてきたが、中国の台頭や科学技術の発展など日本を取り巻く安全保障環境の変化を柔軟に的確に捉えた安倍氏の判断だった。

こうした安倍氏の功績は、日本の外交安全保障上の大きな財産と言えるだろう。

文 / エックスレバン 校正 / 草の実堂編集部

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国際社会の現在や歴史について研究し、現地に赴くなどして政治や経済、文化などを調査する。

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