マレーシアの首都『クアラルンプール』から北へ約150kmの場所に位置する「キャメロンハイランド」は、イギリス植民地時代に開拓された『イギリス式紅茶畑』を中心に、食材の栽培が盛んな高原リゾートだ。
高原野菜の事業拡大を目的とした日本人移住者も生活している場所でもあり、日本の栽培技術がマレーシアで受け継がれている。
常夏の国であるマレーシアでは珍しい年間の平均気温が20度前後という涼しい環境が、新鮮な食物を育てる過程で良い影響を与えている。
最近では、マレーシアと日本の合作映画『夕霧花園〜The Garden of Evening Mists〜』のロケ地としての知名度が高い「キャメロンハイランド」。
この映画を通して「キャメロンハイランド」の豊かな自然を知り、都市部以外のマレーシアの魅力に関心を寄せる人々が急増している。
「キャメロンハイランド」で生かされている日本の知恵とは?
マレーシア屈指のイチゴの特産地である「キャメロンハイランド」では、日本と同じようにイチゴ狩りを楽しむ習慣がある。
ひとつだけ異なる点があるとすれば、日本のように座ったままの姿勢でイチゴ狩りをしないという点だ。「キャメロンハイランド」に設けられたビニールハウスは、立ったままの姿勢で作業やイチゴ狩りができるように、苗が高い位置に設置されている。
日本でも農園によっては、高い位置に苗を設置する作法でイチゴの栽培を行うところもあるが、全ての農園が栽培方法を統一している所は「キャメロンハイランド」ならではの特徴である。
日本の甘いイチゴに比べ、「キャメロンハイランド」産のイチゴは、酸味が強いことでも有名である。
酸っぱいイチゴの上に甘いチョコレートシロップをかけて食べるのがマレーシアスタイルだという人もいるが、酸味が強いことが時には食材を生かす上で欠点になってしまうこともある。
「キャメロンハイランド」で収穫されたイチゴは隣国のシンガポールにも輸出されているが、『甘いスイーツを作るには向かない味わいだ。』といった多くの声が挙がった。
そこで、高品質で甘味が強い日本のイチゴの苗をマレーシアの「キャメロンハイランド」で栽培する『アジア農業』の取り組みが始まったのだ。
日本式のイチゴの栽培方法を完全に再現するため、日本からのイチゴの苗の輸入許可と栽培に適した土地の確保を得て日本人の農園管理者の下、『ちとせいちご』と名付けられた「キャメロンハイランド」産の日本の品種であるイチゴが誕生した。
このイチゴ栽培の成功を機に、マレーシアでの日本品種のミニトマト『ちとせとまと』の栽培も進められている。海を超えて培われた日本の技術が「キャメロンハイランド」の恵まれた気候の中で生かされ、マレーシアの食材を支える役目果たしているのだ。
「キャメロンハイランド」で力強く咲き誇る幻の花『ラフレシア』
欧米からのバックパッカーが多い「キャメロンハイランド」。そこには自然や冒険への情熱を注ぐ『トレッキング精神』が関係している。
この『トレッキング』とは、山頂を目指す登山とは違い、山に生息する植物や動物に触れ合いながら楽しむ山歩きのことである。生きた自然をそのまま残している「キャメロンハイランド」にはいくつものトレッキングコースが存在する。
過ごしやすい気候に恵まれているものの、急な雷雨といった変わりやすい天候の影響も受けやすいため、安全性を重視した現地ガイドが同行するトレッキングツアーも多く用意されている。レストランや宿泊ホテルが立ち並ぶ「キャメロンハイランド」の中心街『タナ・ラタ』から出発する約1時間程度の短いコースから、熱帯雨林を散策する期間限定のコースまで内容豊富なツアーへの参加を目的に足を運ぶ人も多い。
そんな話題を呼んでいる「キャメロンハイランド」のトレッキングツアーでいちばんの目玉とされいるのが、幻の花『ラフレシア』を見つけることだ。『世界最大の花』と呼ばれる『ラフレシア』は、東南アジアの熱帯雨林に生息しているが、森林破壊や花を咲かせるまえの蕾の状態で漢方に使用されてしまうことが原因で絶滅の危機にある。
また、花を咲かせる期間が5日から1週間と限られた命でもあるため、満開に咲き誇る『ラフレシア』を近くで見るには、運も必要となる。
マレーシアの人々からすれば『ラフレシア』は、観賞用ではなく医療に役立てる漢方の材料という認識が強く、蕾を見つければ早々と収穫されてしまっていた。
しかし今では、絶滅の危機である現状と、世界中の観光客から注目され始めた『ラフレシア』の存続を守るために、ツアーの収入で集められた資金で『ラフレシア』の保護活動を積極的に行なっている。
「キャメロンハイランド」の環境を踏まえて率直に想うこと
マレーシアを統治していたイギリスの人々が、農作物に困らずマレーシアで快適に生活できる環境を維持するために作られた避暑地でもある「キャメロンハイランド」。
日本の春に近い気温と標高1500mの立地を利用して収穫される特産物は、マレーシア全体の食材を支えている。新鮮な食材を生かしたカフェや、茶葉の工場見学といった観光を盛り上げる施設の開発が進み、マレーシアを代表する観光地としての認知度も高い。
その一方で、透き通った空気と自然が広がる「キャメロンハイランド」の環境に触れ、『この場所でゆっくりと生活してみたい。』と移住への憧れが募る場所でもある。
人々のセカンドライフ実現に向けた格安のアパートメントや、家具付きのコンドミニアムといった生活基盤の開発事業が活発化しているのも、移住を考え始める旅行者の気持ちを受けてのことだろう。
ただ、交通の面や病院の数、日本食材を取り扱っているスーパーマーケットなど、都心のような便利さの確保には行き届いていない現状もある。
実際に移住し、限られた環境の中で自身がどれだけ対応できるのかを体験すべく、短期間の移住期間を設けた『ショートステイ』から始めることを是非お勧めしたい。
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