海外

日本と感覚の違う台湾の変わったお盆~ 中元普渡 【霊を「好兄弟」と呼ぶ】

中元普渡とは?

中元普渡(ちょんゆぇんぷぅとぅ)とは、農暦の七月の期間に台湾で行われるいわゆる宗教行事である。

日本のお盆のような感じだ。

古代民間信仰では、収穫したばかりの新しい穀物を先祖に捧げるものであった。

「中元節」は道教の教えであり、「お盆」は仏教のものである。現在ではその二つの教えが融合された形で「中元普渡」となっている。

画像 : 中元普渡で拝む人たち wiki c

台湾では、大々的にこの宗教行事が行われている。

個人で小規模に、寺廟ごとに大規模に行われる。その時期にはスーパーでもお供え物が販売されている。

日本ではだいたい和菓子や果物といったイメージだが、台湾ではポテトチップスやコーラ、カップラーメンなど、日本の感覚的には宗教行事には若干不謹慎と思わせるような物まで供えられる。

スーパーではこの時期、販売促進のため多くの新商品が出回ったり、安く商品が販売されていたりする。

筆者はこの宗教行事に参加することはないが、スナック菓子を買いだめする絶好の機会と思っている。

中元普渡の宗教行事には多くの決まりごとが存在しており、加護を得るため、災難を身に招かないためにその決まりごとを守っている。

今回は、その中の興味深いいくつかの禁忌を解説する。

好兄弟

画像 : 儀式の様子(台湾)wiki c

中元普渡の時期には鬼の門(死者の世界の扉)が開き、先祖が人間世界に戻ってくるとされている。
なので「鬼」とか「霊」とか言う言葉は、無礼に聞こえるので使ってはならないのである。

この時期は「好兄弟」という言葉を使う。

意味は読んで字の如く、良い兄弟、親友といったところである。

拝む時には

好兄弟、長い道すがらお疲れさまでした。ようこそおいでくださいました!どうぞお召し上がりください。我が家に平安が訪れますように

と唱えるのである。

自分の名前を言ってはならない

一般的に寺廟で吉兆を尋ねる時や決め事をする時は、名前や生年月日、住所などを言って神に伺うという。

ところが、中元普渡の時には名前を言ってはならないのである。

名前を好兄弟に知られると、名前を覚えられ探し出されて訪問される可能性があるからだ。

鶏肉、豚肉、魚をどうやって供る?

お供えの食べ物は、どれも調理済みのものが使われる。
だが、調理済みであれば何でも良いと言うわけではない。例えば鶏肉と豚肉は皮を取り除いてはいけない。魚は鱗のあるもので丸ごと一匹、鶏肉もまるまる一匹を使うのである。

なぜ丸ごとかというと、もし一部がなければ好兄弟が「誰かがすでに一口食べたのでは?」と誤解してしまうためである。

画像 : 好兄弟の食卓

これらの物を一つの大きめの机に並べて供えて拝む。

その時、机の上にきれいな水を入れた洗面器を置き、その端には新しいタオルを用意しておく。

そうしておけば、あの世から苦労してやってきた好兄弟達が、顔や手を洗ってから食事ができるのである。

好兄弟が食べないもの

スナック菓子からコーラまで供えてしまうことから、好兄弟は「なんでも食べるのでは?」と思われがちだが、供えてはいけないものもある。

●レモン 人生が酸っぱくなってしまう。食べれば涙が止まらない。
●ゴーヤ 中国語では苦瓜といい、苦い人生になってしまう。中国語で苦労することを吃苦といい、苦い物を食べると表現される。
●レンブ 日本ではあまり馴染みのない果物だが、中国語で蓮霧と呼ばれ、霧がかかった人生になってしまう。モヤモヤが晴れないといった意味になる。
●骨が多い魚 骨が好兄弟を刺してしまうことを懸念する。
●種が多い果物 食べるのが面倒くさい。好兄弟が怒ってしまわないようにする。
●種や殻付きピーナツ 好兄弟が皮を剥くのを面倒くさがる。準備した者に誠意がないとみなされ、無礼な者と判断される。

画像 : 蓮霧

この時期にはテレビなどでも、「一緒に好兄弟をお迎えしよう!」と、わりとPOPな感じのCMが放映される。

お供えにはコレだね!」のような少々軽めのニュアンスである。

日本人は宗教行事に対しては厳かで神聖なイメージを持ちがちであるが、台湾では少し違うようである。

 

アバター

草の実堂編集部

投稿者の記事一覧

草の実学習塾、滝田吉一先生の弟子。
編集、校正、ライティングでは古代中国史専門。『史記』『戦国策』『正史三国志』『漢書』『資治通鑑』など古代中国の史料をもとに史実に沿った記事を執筆。

✅ 草の実堂の記事がデジタルボイスで聴けるようになりました!(随時更新中)

Audible で聴く
Youtube で聴く
Spotify で聴く
Amazon music で聴く

コメント

  1. この記事へのコメントはありません。

  1. この記事へのトラックバックはありません。

関連記事

  1. 『世界激震のトランプ相互関税』カンボジアやベトナムなどASEAN…
  2. 【900円で買った胸像が4億6000万円に】 倉庫のドアストッ…
  3. 【兵馬俑の新発見】 始皇帝陵を盗掘していた意外な歴史上の有名人
  4. 戦闘民族 マオリ族の歴史 【タトゥーは身分証明だった】
  5. 【入れば2度と生きては出られない?】 ロシアの「死者の街」とは
  6. 初めて日本に訪れた台湾人に聞いてみた 「日本の感想」~後編
  7. 父の子を14歳から毎年出産させられ「4児の母」になったアシュリー…
  8. 『歴史上最も大きな生物』 シロナガスクジラが来たぞ! ~屏東県国…

カテゴリー

新着記事

おすすめ記事

徳川家康を天下に導いた交渉術 「自ら動かず相手を動かす」「話をよく聞き決断後ぶれない」

家康の交渉術について徳川家康の性格を表す川柳は、誰もが知っているだろう。「鳴かぬなら…

知られざる剣豪・高田三之丞「天下のお尋ね者から尾張柳生新陰流No.2へ」

高田三之丞とは高田三之丞(たかださんのじょう)は江戸時代の始め、尾張柳生新陰流のNo.2…

中国史上唯一、火葬された皇帝──その“異例すぎる”最期とは?

古代中国の皇帝の埋葬方法中国は悠久の歴史の中で、幾多の王朝が興亡を繰り返してきた。各時代…

【美人すぎて敵将も虜に】イタリアの女傑カテリーナ 「子はここからいくらでも産めるわ」

文化が花開き、多くの都市国家や小君主国が乱立していたルネサンス期のイタリアにおいて、その美貌と冷…

【明朝の冷血皇帝】3人の美しい皇后が辿った悲劇的な最後

嘉靖帝とは明朝の第12代皇帝である嘉靖帝(かせいてい)は、諱を厚熜(こうそう)といい、道…

アーカイブ

PAGE TOP