国際情勢

『世界激震のトランプ相互関税』カンボジアやベトナムなどASEAN諸国の関税率が高いワケ

トランプ相互関税の標的として、カンボジア(49%)やベトナム(46%)といったASEAN諸国が、異常に高い関税率を課されている。

この数字は、日本(24%)や中国(34%)と比べても際立っており、経済規模の小さな国々がなぜここまで狙われるのだろうか。

その理由は「中国による迂回輸出」というキーワードに隠されている。

中国製品の迂回輸出ルートとなる東南アジア

画像 : 東南アジア public domain

トランプ政権は、カンボジアやベトナムが中国企業の「関税回避の抜け道」になっていると見なしている。

米中貿易戦争が激化した2018年以降、中国企業はアメリカへの高関税を避けるため、生産拠点をこれらの国々に移してきた。
特にベトナムは、ノートPCやスマートフォンの生産で急成長し、対米輸出が急増。カンボジアも同様に、衣料品や軽工業製品で中国からの投資が拡大している。

トランプ政権高官は「これらの国々は中国の代理に過ぎない」と断言し、迂回輸出を封じ込めるため、懲罰的な高関税を課したのだ。

この背景には、アメリカの貿易赤字削減というトランプの執念がある。

2023年の対ベトナム貿易赤字は1046億ドルに膨らみ、中国からの輸入が減少する一方でASEAN諸国からの輸入が急増した。このシフトをトランプは「中国の狡猾な策略」と捉え、ASEANを締め上げることで中国に間接的な打撃を与えようとしている。

しかし、この強硬策はカンボジアやベトナムにとって壊滅的な打撃となりかねない。
両国は経済成長を輸出に依存しており、49%や46%の関税は産業を根底から揺るがす。

東南アジアは中国の”ウクライナ”となる

トランプ大統領

さらに、これらの国々の脆弱な経済基盤が問題を深刻化させる。

カンボジアは貧困からの脱却を目指し、輸出産業に頼ってきたが、高関税で工場閉鎖が相次げば失業率が急上昇し、社会不安が広がるだろう。
ベトナムも同様に、急成長の裏にはインフラや労働力の限界があり、アメリカ市場を失えば経済が後退するリスクが高い。

ASEAN内部でも、この不均衡な関税負担に不満が募り、結束が揺らぐ可能性すらある。これにより、地域の経済協力が損なわれ、ASEAN全体の成長が停滞する懸念も浮上している。

地政学的緊張も高まる一方だ。

中国はASEANへの影響力を強めており、トランプの高関税がこれらの国々を経済的に追い詰めれば、中国が支援の手を差し伸べる可能性が高い。
そうなれば、アメリカの影響力は低下し、南シナ海での中国の覇権がさらに拡大するだろう。
トランプの関税は、中国を抑えるどころか、逆効果を招く危険な賭けである。
ASEAN諸国が標的となるのは、単なる経済戦争の延長ではなく、アジアの未来を左右する火種なのだ。

国際社会がこの状況にどう介入するかも注目され、米中間の新たな代理戦争の舞台となる恐れすらある。
例えば、国連やWTOが調停に乗り出す可能性もあるが、トランプの強硬姿勢がそれを阻むかもしれない。

この複雑な状況は、単なる貿易問題を超え、グローバルなパワーバランスに影響を及ぼすだろう。

文 / エックスレバン 校正 / 草の実堂編集部

アバター画像

エックスレバン

投稿者の記事一覧

国際社会の現在や歴史について研究し、現地に赴くなどして政治や経済、文化などを調査する。

✅ 草の実堂の記事がデジタルボイスで聴けるようになりました!(随時更新中)

Youtube で聴く
Spotify で聴く
Amazon music で聴く
Audible で聴く

コメント

  1. この記事へのコメントはありません。

  1. この記事へのトラックバックはありません。

関連記事

  1. 魅力満載のカラフルなポルトガル宮殿 「シントラのペーナ国立宮殿」…
  2. 【米軍がイスラエルに空母を派遣】 拡大を続けるイスラム帝国が直面…
  3. 【関係者が次々と死亡】 ハリウッドで最も呪われた映画「Atuk」…
  4. サハラ砂漠は現地の言葉で訳すと「砂漠砂漠」だった!
  5. 日本に中国における「パンダ」の関係 【パンダ痴漢】
  6. 【世界で最も奇妙な食事をした男】ミシェル・ロティート ~ガラスや…
  7. 『歴史上最も大きな生物』 シロナガスクジラが来たぞ! ~屏東県国…
  8. ホラー映画『エスター』の主人公が患っていた「大人なのに子供に見え…

カテゴリー

新着記事

おすすめ記事

平家が壇ノ浦の戦いで滅びたというのは本当なのか

・「先祖は平家」という人達がいるけれど…みなさんの周りに「自分は平家の子…

「全国唯一?」阿波国分寺に秘められた謎 〜なぜ聖武天皇と光明皇后の位牌があるのか?

徳島県徳島市国府町矢野にある薬王山金色院国分寺(やくおうざん こんじきいん こくぶんじ)は、…

聖武天皇が都を転々とした「彷徨の時代」とは 〜平城宮跡に行ってみた

世界文化遺産「古都奈良の文化財」を構成する要素の一つに、平城宮跡があります。筆者はこれまでに…

世界の神話・伝承に登場する「虫の怪物」たち

「虫」は、我々人類にとって身近な動物の一つである。特に昆虫は、この地球上でもっとも種類が多い…

伊勢神宮は何の神様? 飛鳥時代から続く「式年遷宮」とは 〜2033年にも遷宮予定

日本の神社界で頂点に位置する伊勢神宮。昔から伊勢神宮への参拝は特別なものであり、多く…

アーカイブ

人気記事(日間)

人気記事(週間)

人気記事(月間)

人気記事(全期間)

PAGE TOP