トランプ大統領の「アメリカ・ファースト」は、国際協力を軽視し、米国の国益を最優先する一国主義を特徴とする。
2025年の政権発足後、TPPやパリ協定からの再離脱、NATOへの関与縮小、関税強化といった政策がこの姿勢を象徴している。
こうした動きは、アジア太平洋地域において米国の影響力低下を招き、ASEAN諸国の戦略的選択に影響を与えている。
特に、米国の同盟国である日本や韓国との関係でも、負担増を求める姿勢が摩擦を生み、地域の安全保障環境を不安定化させている。
ASEANは中国に接近か

画像 : トランプ大統領 public domain
ASEANは、経済的・地政学的理由から中国との関係を深化させてきた。
中国はASEAN最大の貿易相手国であり、RCEPや一帯一路を通じたインフラ投資が地域経済を牽引する。しかし、この依存は政治的影響力の増大を伴い、南シナ海問題や債務トラップへの懸念を生んでいる。
トランプ政権の一国主義が米国の地域関与を弱めれば、ASEANは中国への依存をさらに強めざるを得ない。さらに、中国の技術的進歩や5Gインフラの展開は、ASEAN諸国のデジタル経済にも影響を与え、データ主権やサイバーセキュリティの課題を浮き彫りにしている。
「属国化」のリスク 「ASEANが中国の属国となる」という見方は、極端ながらも一定の根拠を持つ。
中国は、経済的支援と引き換えに、カンボジアやラオスなど一部のASEAN諸国で強い影響力を確保している。
例えば、カンボジアは中国の支援によりインフラが整備されたが、対中債務の増大や政治的妥協が問題視されている。
しかし、ASEAN全体が「属国化」するシナリオは単純ではない。インドネシアやベトナムは中国への警戒心を保持し、インドや日本との協力を強化している。
マレーシアやシンガポールも、経済的現実と戦略的自主性をバランスさせ、多国間外交を重視している。
日本はどう対策を取るべきか

ASEANの行方は
日本は、ASEANにとって信頼できるパートナーとして、経済援助や安全保障協力を提供してきた。
トランプ政権下での米国の後退は、日本にとってASEANとの関係強化の機会となる。
FOIP(自由で開かれたインド太平洋)戦略を通じて、日本は民主的価値観や法の支配を共有する枠組みを推進し、中国の一方的影響力を牽制できる。
たとえば、日本はASEAN諸国へのODA(政府開発援助)を通じて、持続可能なインフラ整備を支援し、中国の一帯一路とは異なる選択肢を提供している。
さらに、クアッド(日米豪印)やCPTPPを通じた多国間協力により、ASEANの戦略的選択肢を広げる努力を続けている。
ただし、ASEANの多様な国々の利害を調整するには、柔軟な外交が求められる。米国の一国主義が続く限り、ASEANの中国依存は進むが、日本やインドの関与により、完全な「属国化」は回避される可能性がある。
地域の安定には、ASEAN自身の結束力も不可欠であり、域内協力を強化する動きが今後さらに重要となるだろう。
文 / エックスレバン 校正 / 草の実堂編集部
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