べらぼう~蔦重栄華之夢噺

なぜ土山宗次郎は斬首されたのか?公金横領だけじゃなかった『べらぼう』

◆土山宗次郎/栁 俊太郎
つちやま・そうじろう/やなぎ・しゅんたろう

政変により人生を狂わされた意次の側近、勘定組頭

田沼意次(渡辺 謙)の家臣で、勘定組頭の旗本。意次が蝦夷開発を積極的に推進するなかで、その探査役として、大きく関わっていく。また吉原での豪遊も絶えず、大田南畝のパトロンとして、贅沢(ぜいたく)の限りを尽くし、やがて大文字屋の花魁(おいらん)・誰袖(たがそで/福原 遥)を莫大な金額で身請けするも、意次が失脚すると、悲運な人生をたどっていく。

※NHK大河ドラマ「べらぼう~蔦重栄華乃夢噺~」公式サイトより。

劇中では誰袖に惚れていたものの、田沼意知(宮沢氷魚)にとられ、あくまで表向きだけの関係にされてしまった土山宗次郎

心は亡き意知にある誰袖を妾として養わねばならない心中は、察するにあまりあるものです。

それでも田沼政権を支える一人として活躍してきた宗次郎ですが、田沼意次の失脚に巻き込まれ、左遷の憂き目を見ることとなりました。

やがて勘定組頭時代の公金横領も発覚し、斬首されるという非業の最期を遂げる……と言うのが通説です。

実際に公金横領が一因となって斬首されるものの、実は宗次郎の罪は他にもありました。

と言うわけで、今回は『寛政重脩諸家譜』より、土山宗次郎が斬首された理由について調べてみましょう。

土山宗次郎は何の罪で斬られたのか?

画像 : 斬首された宗次郎(イメージ)武士の名誉を保つ切腹と異なり、取り扱いが容赦ない。

……(前略)……七年十二月五日行状よろしからず、遊女を妾とし、かつ先年娘病死せしところ、これをつゝみをき、他家の女をもらひうけ、実子同様にいたすべき心底にて、親族をしるしてさゝぐる書にも娘二人と書のせ、しかのみならず、御勘定組頭勤役のうち、御買米の事にあづかりしとき、公よりいださるゝところの金子を私に融通して、五百両餘を貪取、剰御買米ののこり滞りしを糺明せらるゝにいたりて逐電せしことも、其罪軽からずとて死刑に處せらる。

※『寛政重脩諸家譜』巻第千四百二十八 藤原氏(秀郷流) 安藤 土山

【意訳】

時は天明7年(1787年)12月5日。宗次郎は死刑に処せられた。理由を以下に列記する。

① 日頃から行状がよろしくなかった。

② 遊女を妾とした(誰袖を身請けした)。

③ 一人娘が先年病死したのに届け出なかった。

④ 他家から養女をもらい「娘が二人いる」と虚偽の申告をした。

⑤ 勘定組頭だった当時、公金500両(約5,000万円)余りを着服した。

⑥ 横領が発覚すると、処罰を逃れようと逐電した。

これら(特に③~⑥)の罪は決して軽くないからである。

……①や②については、やっかみ半分の面もあったのでしょう。

しかし民衆の苦しみを顧みることなく権力に驕っていた宗次郎を厳罰に処することで、少しでも不満を解消する効果を狙ったのかも知れません。

③と④については、既に亡くなった娘を「(まだ)生きている」と虚偽申告したことが罪に問われました。

ゆくゆくは婿をとろうとしていたのでしょう。とは言え、亡くなってしまったものは仕方がありません。

宗次郎は母親(土山氏の女)が生んだ娘(つまり自分の妹)を養女に迎え、この娘を実子同然に育てたのでした。

【土山宗次郎の娘たち】

・女子 實は土山氏の女、孝之に養はれて柳田次郎左衛門政武が妻となる。

・女子

※『寛政重脩諸家譜』巻第千四百二十八 藤原氏(秀郷流) 安藤 土山 ※下段の女子は病死した実子。

そして⑤公金の横領と⑥逐電。
当時「10両盗めば首が飛ぶ(斬首)」と言われている中で500両ですから、死罪は免れないでしょう。

こうした罪の累積によって、宗次郎は刑場の露と消えたのでした。

父親も連帯責任・御家断絶に

画像 : 宗次郎の不祥事に憤懣やるかたない親族(イメージ)

土山宗次郎の父親・土山孝祖(たかそ)も連帯責任を負わされたそうです。

『寛政重脩諸家譜』の当該箇所を確認してみましょう。

孝祖(たかそ) 幸右衛門 藤右衛門

……(前略)……天明七年十二月五日さきに男孝之逐電せしとき、其女子一人これよりさきすでに死せしに、親族をしるせし書に娘二人と書載あるにより、親族等評議の上孝之娘一人を携へて逐電せしおもむきに言上すべきむね申談ずといへども、外に子なきうへは、心をそへて有體にはからふべきのところ、彼等がむねにしたがひ、相違の事を公達せし條不束なりとて籠居せしめらる。

※『寛政重脩諸家譜』巻第千四百二十八 藤原氏(秀郷流) 安藤 土山

【意訳】

天明7年(1787年)12月5日、息子の土山孝之(宗次郎)が犯した罪の連帯責任で籠居(謹慎)させられた。
かつて宗次郎の娘が病死したにもかかわらず、親族の申告書に「(養女と合わせて)娘が二人いる」旨を記載していたことがある。そのため宗次郎が逐電した際に親族で「宗次郎が一人(本当は病死)を連れて行った。
だから土山家には一人(養女)しか残っていない」と供述するよう口裏を合わせた。
本来ならば親族が何と言おうが事実を供述すべきところを、親族に従って虚偽の供述を行ったことが、不束(ふつつか)とされたのである。

どうやら公金の横領よりも、公儀に対する虚偽申告の方をより重く見ていたようにも感じられます。

公金横領は宗次郎が一人で行ったのに対して、虚偽申告は親族総出で行ったため、関与の度合いが問われたのでしょう。

ちなみに、この一件をもって土山家は断絶してしまいました。

土山

宗次郎孝之がとき罪かうぶりて家たゆ。
藤右衛門孝祖はじめ大野を称し、のち土山にあらたむ。

※『寛政重脩諸家譜』巻第千四百二十八 藤原氏(秀郷流) 安藤 土山

父親の代になって、土山家へ婿入りしていたのですね。

宗次郎には弟がいたものの、他家へ養子に出ていました。

政央(まさひで)
藤四郎 四郎左衛門
長滝庄藏正肥が養子。

女子 堀七郎右衛門利之が妻。

※『寛政重脩諸家譜』巻第千四百二十八 藤原氏(秀郷流) 安藤 土山

この弟と、他家へ嫁いだ姉妹が、辛うじて土山の命脈を後世へつないでくれたのでしょうか。

終わりに

今回は、公金着服等の罪で斬首された土山宗次郎の余罪について、『寛政重脩諸家譜』の記述を紹介しました。

当時は家督相続に関わることゆえに、親族の虚偽申告についても重く見られていたようですね。

NHK大河ドラマ「べらぼう~蔦重栄華乃夢噺~」では誰袖がクランクアップ(退場)したそうなので、宗次郎の最期は描かれるのでしょうか。

逃亡中の宗次郎を平秩東作(木村了)が匿う場面は描かれるかも知れませんね。

果たして土山宗次郎がどのような最期を遂げるのか、心して見守っていきましょう。

※参考:
『寛政重脩諸家譜 第8輯』国立国会図書館デジタルコレクション 他
文 / 角田晶生(つのだ あきお) 校正 / 草の実堂編集部

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