5月16日、長崎市は8月9日に開催される原爆投下80年の「長崎平和祈念式典」の概要を発表した。
この式典は、核兵器廃絶と恒久平和を訴える場として、国内外から多くの参列者を迎える重要な行事である。
長崎市は、2024年の式典より300席多い2700席規模で開催し、城山小学校と山里小学校の2校合同による児童合唱を企画するなど、節目の年にふさわしい準備を進めている。
特筆すべきは、国際的な招待方針において、北朝鮮に案内状を送付する一方、台湾を招待対象外とした判断だ。
この決定は、平和を祈念する式典の趣旨や国際関係をめぐる議論を呼び起こしている。
式典の概要と特徴

画像 : グラバー園から望む長崎市街地 CC BY-SA 4.0
長崎平和祈念式典は、1945年8月9日にアメリカが長崎市に投下した原子爆弾による犠牲者を追悼し、核兵器のない平和な世界を願うために毎年開催されている。
2025年は被爆80年という節目の年であり、例年以上に注目が集まる。
長崎市は、会場となる平和公園で約2700席を用意し、2024年の2300席から規模を拡大する。
参列者の増加は、国内外からの関心の高まりと、節目としての意義を反映したものだ。
一般参列者は事前申し込みが必要で、5月23日から長崎市の電子申請サービスのほか、はがきで受け付ける。
式典では、被爆者や遺族、岸田文雄前首相(予定)をはじめ、約100の国と地域の代表が参加する予定である。
長崎市の鈴木史朗市長は、核保有国と非核保有国の区別なく、あらゆる国に参加を呼びかける方針を強調。
特に、韓国、ブラジル、アメリカの在外被爆者代表を招待し、被爆体験の継承と国際的な連帯を深める狙いがある。
式典のプログラムには、児童による合唱が含まれるが、今回は城山小学校と山里小学校の合同合唱が初めて実施される。
これは、被爆地域の子どもたちが平和への思いを歌声で表現する象徴的な場面となるだろう。
北朝鮮への案内状送付

画像 : 長崎平和公園 photoAC
長崎市は、すべての国と地域を招待する方針のもと、国交がない北朝鮮にも案内状を送付する。
これは、北朝鮮が国連の代表部を持つ国家であることを理由としたものだ。
鈴木市長は5月8日の臨時会見で、「核保有国・非核保有国の区分を超えて参列を求める」と述べ、平和祈念の場にすべての国家を包摂する姿勢を示した。
北朝鮮は、核兵器開発やミサイル発射を繰り返し、国際社会との緊張関係が続いている。しかし、長崎市は、平和を訴える式典の趣旨から、北朝鮮にも参加の機会を提供する判断を下した。
この決定は、核兵器廃絶を訴える長崎のメッセージを直接核保有国に届ける機会となり得る。
一方で、北朝鮮の参加が実現するかは不透明だ。
北朝鮮は、過去に日本との外交交渉や拉致問題などで対立を深めており、式典への出席には政治的な計算が働く可能性がある。
それでも、長崎市が北朝鮮に門戸を開いたことは、対話を通じた平和構築の姿勢を示すものとして評価されるだろう。
台湾は招待対象外

画像 : 台湾 台北市 イメージ
一方、長崎市は台湾を招待対象外とした。
鈴木市長は、「国連の代表部を持たない台湾は、招待の基準に該当しない」と説明。
広島市が独自の判断で台湾に案内状を送るのに対し、長崎市は異なる方針を取った。
この判断は、台湾が国際的に国家として承認されていない状況や、日本と中国の外交関係を考慮したものとみられる。
台湾には多くの在外被爆者が暮らしており、歴史的に長崎と深い関わりがあるだけに、対象外とした決定は議論を呼んでいる。
sns上では、台湾の不招待に対する批判的な声が散見される。あるユーザーは、「核を持たない台湾を招待せず、核保有国の北朝鮮を招待するのは矛盾している」と指摘。また、「台湾にも案内状を送るべきだ」との意見も見られた。
これに対し、賛同の声もあるものの、平和式典の政治的側面を懸念する意見も存在する。
台湾の不招待は、式典の「政治化」を避けたいとする長崎市の意向を反映しているが、被爆者や市民の思いとの間にギャップが生じている可能性がある。
過去の議論と今後の課題
長崎平和祈念式典は、過去にも招待をめぐる議論が起きた。
2024年には、イスラエルを招待しなかったことが原因で、G7(日本を除く6カ国)の駐日大使が欠席する事態となった。
長崎市は「平穏かつ厳粛な式典開催」を理由にイスラエルを不招待としたが、これが政治問題化し、国際的な波紋を広げた。
この経験を踏まえ、2025年は「すべての国と地域」を招待する方針を打ち出したものの、台湾の扱いは例外となった。
このような招待方針は、平和祈念式典が単なる追悼の場を超え、国際政治の舞台となる複雑さを露呈している。
長崎市は、核兵器廃絶と平和のメッセージを世界に発信する一方で、国際関係や外交的配慮とのバランスを迫られている。
今後、式典が政治的な対立の場ではなく、純粋な平和の象徴として機能するためには、招待基準の透明性や市民との対話が一層求められるだろう。
このように、被爆80年を迎える2025年の長崎平和祈念式典は、2700席規模で開催され、北朝鮮に案内状を送る一方、台湾を招待対象外とするなど、国際的な注目を集める内容となった。
台湾の扱いをめぐる議論は今後も続きそうだ。
節目の年である2025年、式典が被爆者の声と平和への願いを世界に響かせる場となることを期待したい。
文 / エックスレバン 校正 / 草の実堂編集部
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