国際情勢

今後10年で、中国の軍事力はアメリカを追い抜くのか?

現在の世界の軍事力において、米国は依然として圧倒的な地位を占める。

2025年時点で、米国の軍事予算は約9000億ドルに達し、世界全体の軍事支出の約40%を占めている(SIPRIデータ)。
米軍は11隻の空母を運用し、最新鋭のF-35戦闘機やグローバルな基地網を有する。

一方、中国の軍事予算は約3000億ドルで、米国の3分の1程度だ。

しかし、中国は急速に軍事力を強化している。
人民解放軍(PLA)は、アジア最大の海軍艦艇数を誇り、J-20ステルス戦闘機やDF-21D対艦弾道ミサイルなど、先端技術を積極的に導入している。

米国の優位性は技術力とグローバルな展開力にあるが、中国は地域覇権を確立するための戦略に注力している。
例えば、南シナ海での人工島建設や台湾周辺での軍事演習の頻度増加は、その意図を明確に示す。

量的には中国が艦艇数で上回るが、質的・運用能力では米軍が依然リードしている。

技術革新と軍事近代化

画像 : 中国人民解放軍 CC BY 4.0

中国の軍事力強化の鍵は、技術革新にある。

AI、量子コンピューティング、サイバー戦能力の開発に巨額を投じ、特に無人機やハイパーソニックミサイルの分野で米国に迫る勢いだ。

2023年に公開された中国の無人潜水艦は、長期間の自律航行が可能で、米海軍の監視網を掻い潜る能力を持つとされる。
また、サイバー戦では、米国の重要インフラへの攻撃能力を強化しているとの報告もある(CSISレポート)。

一方、米国はDARPAを通じてAIや次世代兵器の開発を進め、宇宙軍の設立により新たな戦域での優位性を確保しようとしている。
しかし、米国の技術開発は議会の予算承認に左右され、迅速な実用化が課題だ。

中国は政府主導で迅速な意思決定が可能であり、この点で優位性を持つ。

両国の技術競争は、今後の軍事バランスを大きく左右するだろう。

地政学的戦略と同盟

画像 : NATO加盟国 wiki c Janitoalevic, Patrick Neil

軍事力の優劣は、単なる兵器の数や性能だけでなく、地政学的戦略や同盟関係にも依存する。

米国はNATOや日米同盟を通じて、グローバルな同盟網を構築している。

これに対し、中国は一帯一路構想や上海協力機構を通じて影響力を拡大しているが、強固な軍事同盟は少ない。
ロシアとの関係強化は進むが、信頼性には疑問符が付く。

中国の戦略は、アジア太平洋地域での支配力強化に重点を置く。
特に台湾問題は、軍事衝突の火種となり得る。

米国の「戦略的曖昧さ」政策に対し、中国は台湾周辺での軍事圧力を強めており、2027年までに台湾侵攻の準備を整えるとの分析もある(米国防総省報告)。

一方、米国はインド太平洋戦略を通じて、日本、豪州、インドとの連携を深め、中国の拡張を牽制している。

将来の展望と不確定要素

画像 : 分列行進を行う中国人民解放軍の儀仗隊 public domain

今後10年で、中国が米軍を完全に超える可能性は低いものの、特定の領域では優位性を築く可能性がある。

特に、海軍力とサイバー戦能力では、2030年代初頭に米軍と肩を並べるシナリオが考えられる(RAND研究所)。
しかし、中国の経済成長鈍化や内部の政治的課題は、軍事投資の持続性に影響を与える可能性がある。

対照的に、米国の経済力と技術基盤は依然として強固だ。
不確定要素としては、技術のブレークスルーや国際情勢の変化が挙げられる。

例えば、AIや量子技術での飛躍的進歩がどちらかの国で起きれば、軍事バランスは一気に傾く。
また、ウクライナや中東での紛争が米中の資源配分に影響を与える可能性もある。

結論として、中国の軍事力は急速に成長しているが、米軍を全面的に超えるには時間がかかる。
地域的な優位性はすでに獲得しつつあるが、グローバルな影響力では米国が依然リードしている。

両国の競争は、技術と戦略の複雑な駆け引きの中で進むだろう。

文 / エックスレバン 校正 / 草の実堂編集部

アバター画像

エックスレバン

投稿者の記事一覧

国際社会の現在や歴史について研究し、現地に赴くなどして政治や経済、文化などを調査する。

✅ 草の実堂の記事がデジタルボイスで聴けるようになりました!(随時更新中)

Youtube で聴く
Spotify で聴く
Amazon music で聴く
Audible で聴く

コメント

    • 紗有里のうんこが好き
    • 2025年 9月 11日 8:57pm

     アメリカは中国に追いつけない。中国は間もなくベーシックインカムをすると飛躍的に軍事力と経済力を持つ。中国には逆らえない状況になる。

    0 0
    50%
    50%
  1. この記事へのトラックバックはありません。

関連記事

  1. 中国で日本人が「スパイ罪」で拘束されないための3つの対策とは?
  2. 『イスラエルがカタールを空爆』なぜサウジアラビアはイスラエルを非…
  3. 【トランプvsゼレンスキー 世紀の大乱闘!】ホワイトハウスが戦場…
  4. なぜ中国は北朝鮮を必要とするのか?4つの理由で読み解く
  5. 世界を揺るがす「経済の武器化」 とは?制裁と資源の見えない戦争
  6. 習近平が描く「氷上のシルクロード」とは何か?ついに動き出した北極…
  7. 保守派の高市新総理が「韓国との関係強化に努める」と断言できるワケ…
  8. 岸田・ユン時代の日韓関係を振り返る ~日韓関係の新たな局面とは

カテゴリー

新着記事

おすすめ記事

【島左近・大谷吉継・小早川秀秋】西軍武将の新たな真実

石田三成の軍師である「島左近」は謎の多い人物である。現在、島左近は「多聞院(たもんいん)日記…

徳川秀忠は駄目な二代目だったのか? 後編 「家康死後、豹変した秀忠がやったこと」

二代将軍に就任慶長8年(1603年)2月、家康は征夷大将軍に就任し、江戸に幕府を開いた。…

ヒルトン ワイコロア ビレッジ(ハワイ島)の喫煙場所【Smoking place of Hilton Waikoloa Village (Hawaii)】

こんにちは。ゲーハーです。結婚して3年目で、ハワイ旅行に来ています。これも現地で書い…

幻の東京オリンピック(1940年)招致に命を懸けた男~嘉納治五郎~

1930年代後半から40年代前半にかけて『戦争』の影が世界を覆った。「幻の東京オリンピック」は、…

そのグラフ、本当に信用できる? 専門家の「恣意的データ操作」を見抜け!

福島原発事故後、アメリカで乳幼児死亡率急上昇!?アメリカのJ.Sherman医師と疫学者…

アーカイブ

人気記事(日間)

人気記事(週間)

人気記事(月間)

人気記事(全期間)

PAGE TOP