ガザ地区は、長年にわたりイスラエルとパレスチナの紛争の中心地であり、度重なる戦闘で甚大な被害を受けている。
同じイスラム教を信仰するアラブ諸国は、なぜ積極的にガザを支援しないのだろうか。
その背景には、複雑な政治的、経済的、そして社会的要因が絡み合っている。
地政学的利害と国家間の対立

画像 : パレスチナの国旗 public domain
アラブ諸国は一枚岩ではない。
サウジアラビアやエジプト、アラブ首長国連邦(UAE)などの国々は、国内の安定や国際関係を優先する。
例えば、サウジアラビアはイランとの対立を背景に、ガザを支配するハマスがイランと結びついていることを警戒する。
ハマスはスンニ派の組織だが、イランのシーア派政権から支援を受けており、これがサウジなどスンニ派主導のアラブ諸国にとって支援の障壁となる。
また、エジプトはガザとの国境管理を厳格化し、国内のイスラム過激派の流入を防ぐことを優先している。
2020年のアブラハム合意以降、UAEやバーレーンはイスラエルとの関係正常化を進めており、ガザ問題への積極的な介入はイスラエルとの関係悪化を招くリスクがある。
これらの国々にとって、地政学的な利害はガザ支援よりも優先されるのだ。
経済的制約と国内の課題
アラブ諸国の多くは、国内の経済問題や社会不安に直面している。
ヨルダンやレバノンは、大量のパレスチナ難民を受け入れてきたが、経済的負担が重く、さらなる支援は難しい。
レバノンは特に、2020年のベイルート港爆発や経済危機で国家機能がほぼ麻痺しており、ガザへの支援余力はほとんどない。
また、湾岸諸国は潤沢な資金を持つものの、その多くは国内のインフラ投資や経済多角化に注がれている。
例えば、サウジアラビアの「ビジョン2030」は、石油依存からの脱却を目指しており、ガザへの大規模支援は優先順位が低い。
さらに、国民の不満を抑えるため、各国は国内の雇用創出や社会福祉に注力せざるを得ない。
ガザへの支援が国内の不満を増幅させるリスクもあるため、積極的な介入は避けられる傾向にある。
国民感情と政府の慎重な姿勢

画像 : サウジアラビア ムハンマド皇太子 public domain
とはいえ、アラブ諸国の国民の間では、パレスチナ問題への同情や支援の声は根強い。
しかし、政府レベルではこの感情を直接的な行動に結びつけることが難しい。
ガザへの支援は、場合によってはハマスへの間接的支援と見なされ、国際社会からの批判や制裁を招く可能性がある。
特に、米国や欧州との関係を重視する国々は、テロ組織指定されたハマスへの関与を避ける。
また、国内のイスラム主義勢力が、ガザ支援を口実に政府批判を強める可能性もあり、各国政府は慎重にならざるを得ない。
例えば、エジプトではムスリム同胞団のような勢力が、ガザ問題を利用して政権への圧力を強めるリスクがある。
このため、政府は人道支援や外交的声明に留まり、軍事や政治的介入を控える傾向にある。
以上のように、アラブ諸国がガザ地区に積極的に関与しない背景には、地政学的利害、経済的制約、そして国内の政治的安定への配慮が複雑に絡み合っている。
イスラム教徒としての連帯感は存在するものの、国家の現実的な優先事項がガザ支援を制限しているのだ。
今後、ガザ問題が解決に向かうためには、アラブ諸国を含む国際社会全体の協調が必要不可欠である。
文 / エックスレバン 校正 / 草の実堂編集部
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