国際情勢

『トランプ政権発足から半年』結局トランプ関税の狙いは何だったのか?3つの狙い

2025年1月20日に第47代アメリカ合衆国大統領としてドナルド・トランプが再就任してから、半年が経過した。

この間、トランプ政権の経済政策の柱である「トランプ関税」が国内外で大きな注目を集めている。

選挙戦で掲げた「アメリカ・ファースト」を実現するため、関税は単なる経済ツールを超え、政治的・戦略的な意図を持つ複雑な政策として展開されている。

本稿では、トランプ関税の目的を「経済再建」「外交レバレッジ」「国内政治」の三つの観点から紐解いていきたい。

1. 経済再建への渇望と財政の強化

画像 : ドナルド・トランプ public domain

トランプ関税の主要な目的の一つは、米国の経済再建と財政健全化である。

鉄鋼、アルミニウム、半導体などの特定品目に対し高関税を課すことで、国内産業の保護と雇用創出を促進し、財政赤字を削減する狙いがある。

関税収入を、減税やインフラ投資の財源に充てる計画だ。

たとえば、半導体関税は国内生産を後押しし、中国や台湾への依存を減らす戦略の一環である。
しかし、輸入価格の上昇が消費者物価に転嫁され、インフレ圧力を高めるリスクが指摘されている。
報復関税も発生し、輸出産業に打撃を与える可能性がある。

経済合理性を追求するこの政策は、短期的なコストと長期的な利益のバランスが課題である。

2. 外交レバレッジへの渇望と国際交渉

画像 : 関税イメージ

トランプ関税のもう一つの目的は、外交における交渉のレバレッジとして機能することだ。

中国やメキシコなど特定国を対象に、貿易収支の是正だけでなく、移民対策や安全保障での譲歩を引き出す政治的ツールとして活用されている。

たとえば、メキシコに対し不法移民を理由に関税を提案したが、国境管理強化の約束で発動を棚上げした。
中国に対しては、知的財産権侵害や不公正な貿易慣行の是正を迫る姿勢を明確にしている。

関税によって経済的損失を相手国に強いることで、交渉を促す狙いがある。
しかし、高圧的な手法は国際協調を損ない、同盟国との関係に亀裂を生むリスクを孕む。

報復関税はその一例だ。
トランプ政権は、関税を外交の「武器」として使い、米国の利益を最大化しようとしている。

3. 国内政治への渇望と支持基盤の強化

関税政策は国内政治においても重要な役割を果たす。

トランプ大統領は、関税を通じて労働者階級や地方の支持者を引きつけ、「アメリカ第一」の姿勢を示してきた。
議会を通さず大統領令で迅速に実行可能な関税は、就任早々の実績をアピールする手段だ。

しかし、関税による物価上昇が低所得者層に負担をかけ、支持率低下の懸念も浮上している。

2026年の中間選挙を控え、トランプ政権は関税による経済的成果を強調しつつ、インフレや報復関税のデメリットを抑える必要に迫られている。

国内政治でのアピールは、関税政策の持続可能性を左右する鍵だ。

未来への渇望と不確実性への挑戦

画像 : 赤沢亮正経済再生担当大臣とトランプ大統領(2025年4月16日、オーバルオフィスにて)出典:内閣官房ホームページ (CAS)CC BY 4.0

このようにトランプ関税は、「経済再建」「外交交渉」「国内政治」の三つの目的が絡み合う複雑な政策だ。

経済的には財政と産業の強化を目指すが、インフレや報復関税のリスクが伴う。
外交的には交渉の切り札だが、国際関係の緊張を高める。
国内政治では支持層へのアピールに成功する一方、経済的負担が不支持を招く可能性がある。

トランプ政権は、これらの矛盾をどう使い分け、成果を最大化するかが今後の焦点だ。

半年を経て、関税政策の全貌はなお不透明だが、トランプ大統領の「アメリカ・ファースト」は世界経済と国際秩序に大きな影響を与え続けている。

文 / エックスレバン 校正 / 草の実堂編集部

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国際社会の現在や歴史について研究し、現地に赴くなどして政治や経済、文化などを調査する。

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