国際情勢

『尖閣諸島に連日近づく中国巡視船』その真の目的とは?

尖閣諸島(中国名・釣魚島)周辺では、中国海警局の巡視船による接続水域での航行が事実上、常態化している。

2024年には335日間連続で航行を続け、過去最長記録を更新。

その後も活動は途絶えず、2025年現在も中国船がほぼ常時展開する状態が続いている。

日本政府は、中国側の行動を「国際法違反」として厳重に抗議しているが、中国は一歩も引かない姿勢を崩していない。

連日のように繰り返される中国の行動は、単なる示威行為にとどまらず、尖閣諸島の「奪取」を視野に入れた戦略的な動きである可能性が高い。

では、仮に中国が尖閣諸島を奪取した場合、彼らは具体的に何をしようとしているのだろうか。

その行動は、単なる領土の拡大以上の、より深い戦略的意図に基づいていると考えられる。

国際社会への影響と現状の認識

画像 : 中国海監の監視船「海監51」Bt4wang CC BY-SA 3.0

中国が尖閣諸島を奪取した場合、まず国際社会における「力の論理」を際立たせることになる。

第二次世界大戦後の国際秩序、特に「武力による威嚇または行使の禁止」という原則が、中国によって公然と踏みにじられる事態となる。

これは、台湾問題や南シナ海での領有権主張といった、他の係争地域における中国の行動をさらに大胆にさせる「成功体験」となりかねない。

アジア太平洋地域の安定は大きく揺らぎ、国際的なルールに基づいた秩序維持が困難になる。

また、尖閣諸島の領有は、中国にとって東シナ海における「第一列島線」の突破という戦略的な意味合いを持つ。

画像 : 左が第一列島線、右が第二列島線 public domain

沖縄本島と台湾の間に位置する尖閣諸島を実効支配することで、中国海軍は太平洋へのアクセスを容易にし、日本の安全保障上の核心地域に圧力をかけ続けることが可能となる。

この地理的優位性は、将来的な台湾有事の際にも、人民解放軍の作戦遂行能力を格段に向上させるだろう。

資源と戦略的要衝の確保

画像 : 尖閣諸島のうち3島の位置図 public domain

尖閣諸島周辺は、天然ガスなどの海洋資源が豊富に埋蔵されている可能性がある。

中国が尖閣諸島を奪取すれば、これらの資源開発を独占し、エネルギー安全保障上の大きな利益を得ることになる。

これは経済的な利益だけでなく、資源の確保という面で、海洋進出を加速させる中国の国策に完全に合致する。

さらに、尖閣諸島を軍事拠点化する可能性も否定できない。

中国は現在、南シナ海で人工島の建設と軍事施設化を進めているが、尖閣諸島においてもレーダー施設や小規模な港湾施設などを整備し、「不沈空母」として機能させる可能性が高い。

これにより、中国は東シナ海全域に対する監視能力と拒否的アクセス能力(A2/AD)を強化し、アメリカ軍や自衛隊の活動を妨害する新たな戦略的要衝を確保することになる。

自由への渇望と政府の統制

画像 : 民間機から見た尖閣諸島。左から魚釣島、北小島、南小島(2010年9月15日)wiki c BehBeh

中国政府のこうした行動の背景には、国内のナショナリズムの高揚と、共産党政権の正当性を強化する狙いがある。

領土問題における強硬な姿勢は、「強い中国」を国内外にアピールし、国内の不満を外部にそらすための有効な手段となっている。

尖閣諸島の奪取は、国内の「中華民族の偉大な復興」というスローガンを具現化するものとして、国民の支持を集める強力なプロパガンダとなる。

国民は、「失われた領土を取り戻した」という政府の主張に熱狂し、自由な議論や人権への関心から目をそらされ、政府による統制が一層強化される可能性が高い。

しかし、この一方的な力の行使は、日本と中国の関係を修復不可能なレベルまで悪化させるだけでなく、周辺諸国の対中警戒感を決定的に高めることになる。

結果として、中国は国際的な孤立を深め、持続的な経済発展と安定的な国際環境を自ら手放すという、長期的な不利益を被ることになるだろう。

日本は、国際法と連携を基軸とした毅然とした対応を続けることが求められている。

文 / エックスレバン 校正 / 草の実堂編集部

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国際社会の現在や歴史について研究し、現地に赴くなどして政治や経済、文化などを調査する。

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