
画像 : トランプ大統領 public domain
「アメリカファースト」というスローガンは、ドナルド・トランプ前大統領の代名詞のように語られがちである。
内政優先、国際的なコミットメントの縮小、同盟国への要求といった彼の姿勢は、この言葉に集約されている。
しかし、この種の孤立主義的な思想や政策は、トランプ政権が突如として生み出したものではなく、アメリカの歴史に深く根ざした伝統的な外交・内政思想の一側面であると言える。
アメリカの「自国第一」の精神の原点は、建国の父たちに遡ることができる。
初代大統領であるジョージ・ワシントンは、1796年の退任演説で、他国との恒久的な同盟関係を避け、「中立」の立場を維持するよう強く国民に警告した。
これは、新興国であるアメリカが、ヨーロッパ列強の絶え間ない戦争や政治的対立に巻き込まれることを避けるための、極めて現実的な「アメリカファースト」の表明であった。
彼は、アメリカの真の利益は、外部の紛争から距離を置き、国内の安定と発展に集中することにあると考えたのである。
モンロー主義と大戦間の反動

画像 : アメリカ合衆国第5代大統領ジェームズ・モンローの肖像 public domain
19世紀に入ると、この孤立主義は、ジェームズ・モンロー大統領によるモンロー主義(1823年)という形で具体化する。
これは、ヨーロッパ諸国による西半球(アメリカ大陸)へのさらなる植民地化や、政治的干渉を拒否するという宣言であった。
この政策は、表向きは新大陸諸国の独立を擁護するものだが、その本質は、アメリカ大陸をヨーロッパの影響から守るという、地域的な「アメリカファースト」を確立することにあったのである。
20世紀初頭、アメリカは第一次世界大戦に参戦することで、一時的に孤立主義を脱却する。
しかし戦後、ウッドロー・ウィルソン大統領が主導した国際連盟への参加は、上院によって拒否された。
これは、アメリカ国民の間で、再び国際的な義務よりも国家主権と国内の平和を優先すべきだという、根強い孤立主義が再燃した結果であると言える。
そして、第二次世界大戦が勃発する直前の1940年代初頭には、「アメリカ・ファースト・コミッティ(America First Committee:AFC)」という大規模なロビー団体が組織された。
彼らは、ヨーロッパでの戦争へのアメリカの関与に徹底的に反対し、不干渉政策を主張した。
この運動こそが、現代の「アメリカファースト」という言葉の直接的な語源であり、危機的な国際情勢下であっても、自国の安全と利益を最優先すべきだという思想が、多くの国民に支持されていた事実を示している。
現代の経済ナショナリズム
第二次世界大戦後、冷戦の勃発により、アメリカは世界の指導者としての役割を担い、国際主義が主流となる。
しかし、冷戦終結後のグローバリゼーションの進展に伴い、国内では製造業の衰退や雇用の流出に対する不満が徐々に高まっていった。
トランプ大統領が「アメリカファースト」を掲げた背景には、こうした国内の経済的・社会的不満の蓄積がある。
彼の政策は、過去の孤立主義が主に「軍事・政治的介入の回避」を意味していたのに対し、「不公平な貿易協定からの離脱」や「同盟国との費用負担の見直し」など、より経済的なナショナリズムの色彩を強くしている。
結論として、「アメリカファースト」の思想は、トランプ氏がゼロから作り出したものではなく、アメリカが自国の利益を最優先し、外部の紛争から距離を置こうとする歴史的な衝動が、現代の経済状況と国民の不満を背景に、強力な政治的スローガンとして再解釈され、復活したものだと捉えるべきである。
文 / エックスレバン 校正 / 草の実堂編集部
























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