高市首相の「台湾有事は存立危機事態」発言は、日中関係の冷え込みを象徴する出来事であった。
中国政府は一貫して台湾を自国の「核心的利益」と位置づけており、日本の安全保障政策における台湾問題への言及は、内政干渉とみなされ、強い不快感を表明している。
これは単なる外交上の駆け引きではなく、中国共産党がその統治の正当性を担保するうえで、「一つの中国」原則が不可欠であることに起因する。
この原則を揺るがす動きは、体制の根幹を脅かすと受け止められるため、日本側のどのような発言や行動も、中国側の警戒感を解くことは難しいのである。
同盟強化と反発の連鎖

画像 : 高市氏と習近平氏 CC BY 4.0
仮に高市首相が今後、対中国で抑制的な姿勢に転じたとしても、日中関係の根本的な改善は見込めない構造的な問題が存在する。
それは「日米同盟の強化」である。
日本は安全保障環境の厳しさが増す中、米国との連携を深めることで、抑止力の向上を図る戦略をとっている。
具体的には、自衛隊と米軍の統合的な運用能力の強化や共同訓練の拡大が進められており、日米地位協定の改定を求める議論や見直しの検討も続いている。
しかし、中国から見れば、これは自国を取り囲む対中包囲網の強化に他ならない。
日米の連携強化は、中国の軍事的・経済的台頭を抑え込むためのものと認識され、日本に対する不満と警戒感を一層強める要因となるのである。
価値観の衝突と対立の深化

画像 : 中国共産党全国代表大会の本部 public domain
日中間の対立は、単なる領土問題や安全保障の問題に留まらない。
そこには、自由と民主主義を掲げる日本と、一党独裁体制を堅持する中国という、根本的な価値観の衝突が存在する。
近年、国際社会において、中国による新疆ウイグル自治区の人権問題、香港の民主化抑圧、そして南シナ海における一方的な現状変更の試みなどが問題視されている。
日本が米国や欧州諸国と連携し、これらの問題に対して「法の支配」や「普遍的価値」に基づく国際秩序の維持を主張すればするほど、中国はそれを内政干渉と捉え、対立の溝は深まっていく。
経済依存と安全保障のジレンマ
経済的な相互依存関係が深いことは、日中関係の「安全弁」となり得るとされてきた。
しかし、近年、中国の経済成長の鈍化や、サプライチェーンの脆弱性に対する懸念から、日本企業の間で「デリスキング(リスク低減)」の動きが加速している。
また、中国が経済的威圧を外交手段として用いる事例が増加していることも、日本側の警戒心を高めている。
日本政府が経済安全保障を重視し、重要技術の流出防止やサプライチェーンの強靭化を進めることは、中国から見れば経済的な「締め付け」と映る。
この安全保障上の論理が経済協力の論理を凌駕し始めたとき、日中関係は改善の糸口を完全に失うことになる。
これらの構造的な要因、すなわち台湾問題という核心的利益への言及、日米同盟の不可避な強化、民主主義と専制主義という価値観の衝突、そして経済安全保障の重視は、一時的な政権交代や外交努力によって容易に解消されるものではないだろう。
日本の国益追求の行動が、必然的に中国の不満を増幅させるという「安全保障のジレンマ」に陥っている以上、今後、日中関係が絶対的な改善を遂げることは極めて困難であると言わざるを得ないのである。
文 / エックスレバン 校正 / 草の実堂編集部
























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