東アジアの地政学において、日本にとって最も読みづらく、しかも無視できない存在が中国と韓国の関係だ。
両国は、かつて「中韓蜜月」と呼ばれるほど接近した時期もあれば、「史上最悪」と評されるほど関係が冷え込んだ時期も経験してきた。
では現在、中国と韓国はどのような距離感にあり、どこへ向かおうとしているのだろうか。
経済的互恵と安全保障のジレンマ

画像 : アジアを中心とした貿易フロー(2019年) サプライチェーンの全体像 出典: 経済産業省HP PDL1.0
中韓関係を読み解く最大の鍵は、経済と安全保障の「ねじれ」にある。
韓国にとって中国は最大の貿易相手国であり、サプライチェーンの維持において欠かせない存在だ。
しかし、安全保障に目を向ければ、韓国は米韓同盟を基軸としており、中国の軍事的台頭を警戒せざるを得ない。
この矛盾が決定的な亀裂を生んだのが、2017年の「THAAD(高高度防衛ミサイル)」配備問題である。

画像 : 高高度防衛ミサイル(THAAD)の迎撃試験 米陸軍 Ralph Scott/ミサイル防衛庁/米国防総省 CC BY 2.0
中国は猛反発し、団体旅行の制限や韓流コンテンツの露出抑制、特定企業への圧力など、事実上の「経済的威圧」に踏み切った。
この一件は韓国世論に「中国は信頼できない」という強烈な不信感を植え付け、現在の対中感情の悪化に直結している。
若者の反中感情とナショナリズムの衝突
近年の大きな変化は、韓国国内における「嫌中」感情の広がりだ。
興味深いことに、かつて民主化運動を主導した旧世代よりも、20代から30代の若年層においてその傾向が顕著である。
背景にあるのは、文化の盗用を巡る争いや、微小粒子状物質(PM2.5)といった環境問題、そして「自由への渇望と政府の統制」という価値観の相違だ。
デジタルネイティブである若者世代は、中国政府によるネット検閲や強権的な政治姿勢を、個人の自由を脅かすものとして激しく嫌悪している。
また、キムチや韓服の起源を巡るネット上の論争(文化工程)が、ナショナリズムを刺激し、火に油を注いでいる格好だ。

画像 : 2025年10月31日、APEC(アジア太平洋経済協力)首脳会議出席のため韓国の慶州を訪問した高市早苗総理を出迎える李在明大統領 首相官邸HP CC BY-SA 4.0
米国を軸とした等距離外交の限界
尹錫悦(ユン・ソンニョル)政権期には日米韓の安全保障協力を前面に出す動きが強まり、対中姿勢にも一定の変化が見える。
文在寅(ムン・ジェイン)政権が取っていた「戦略的曖昧さ」を捨て、価値観外交へと舵を切った形だ。
しかし、中国側も手をこまねいているわけではない。
北朝鮮問題における中国の影響力は依然として大きく、韓国が中国を完全に敵に回すことは不可能に近い。
結局のところ、中韓関係は「離れたくても離れられない、しかし決して心を通わせることもない」という、冷徹な利害関係に基づいた「戦略的パートナーシップ」という名の仮面に覆われているのが実態だ。
今後は、トランプ政権下での対中路線や同盟運用の振れ幅次第で、韓国が対中スタンスの調整を迫られる局面も出てくるだろう。
東アジアのパワーバランスは、この不安定な二国間関係の上に、危うい均衡を保ち続けている。
参考 : China’s Response to U.S.-South Korean Missile Defense System Deployment and its Implications 他
文 / エックスレバン 校正 / 草の実堂編集部
























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